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水上花のバレッタ

「ルイーエ嬢、気持ちはわかりますが……」

 苦々しい表情を浮かべるランバートは正しい。そもそも、私の為に魔法付与がバレないように気を遣ってくれているのだから。しかし私は、必ずしも不利益を被るとは限らないなら、出来るだけ困っている人には力を貸したい。

「……何も知らなければ、良かったですけど」

 ぽつりと呟くと、ランバート様が動きを止めた。そう、何も知らなければ。キアン様のお母様についての話を聞かなければ、魔法付与をしようなんてこと、思わなかった。

「事情を知った上で、何もしないというのは、後悔すると思うので」

 私にはどうしようもないような、外科的な病気の可能性が高ければ、何もしなかったかもしれない。だが、話を聞く限り、キアン様のお母様の症状は精神的な物のように思えて、その場合、私の作品に付与される魔法は効果を発揮するかもしれない。

「勿論、条件付けなど、最大限注意を払います。ですが、このまま何もしないことは、出来ないと思います」

 出来るのにしなかった、という後悔はしたくない。どうせなら、やった後に後悔する。失敗したけど、やらないよりはきっと良かったと、笑って言いたい。

「……わかりました」

 そんな視線を送っていると、ランバート様は再び、諦めたような溜息を吐いた。そして、今度は困った様子はなく、自然と笑ったのだ。

「それでこそ、ルイーエ嬢ですね。出来る限り協力はします」

「ありがとうございます」

 ランバート様と話をしているうちに、編み物は葉をもう2枚作れば終わりというところまで進んだ。花と葉が揃えば、後は配置通りバレッタに貼り付ければ完成である。

「問題は、内容と条件、完成の瞬間ですね」

 聞こえる範囲内にキアン様もいるので、お互いにだけ通じる程度まで単語を減らしつつ話をする。

「最後が難関ですね……」

 魔法付与の内容は装着時や視界に入った場合、気持ちが上向きになる、又は穏やかになる効果だろう。条件も本人だけがいる場合、や魔法を使える人がいない場合、などにすれば問題ない。

「この様子でしたら、完成の瞬間まで他に人が入ってくることはないと思います」

「お二人がどうか、ですね」

 ランバート様は、トッド君やターシャちゃんに渡した、僅かな効果しかない魔法付与に気付いていた。ネイジャンの魔法がこの国ほど発達していないとはいえ、要人の警備が全く魔法に気付かない、というのは考えにくい。

「最悪、阻害という方法もある」

 そう言いながらカウンターの方を指し示される。B様に魔法の痕跡を消すようなものを送ってもらう作戦なのだろう。そこまで迷惑を掛けるのはちょっと、と躊躇っていると、ランバート様がぽん、と手を叩いた。

「何か思い付かれましたか?」

「先に試せば問題ないかと思いまして」

 そう言うと、ランバート様は腰元から小さな球体を取り出した。先にこの場で魔法を使って、反応する人がいるかどうか試してから魔法付与すればいい、ということか。

「ルイーエ嬢、手を」

「?はい」

 テーブルの上に手を置くように指示されたので、一旦手を休め、手の甲を上にして置く。すると、ランバート様が持っていた球体を私の手より少し上の場所で止めた。

「…………」

 すると、球体から柔らかい光が発された。魔法で光っているのだろう。何となくだが、私でも魔力の流れのようなものがあることに気付けるほどだ。

「……終わりです。ルイーエ嬢、手の調子はどうですか?」

「どう、とは……?」

 しかし、手紙を書くことに夢中なキアン様と護衛の人は全く気付く様子はなく、廊下から魔力を感知して中に入ろうとする人もいない。魔力を感知できる人がいなかったのだろうか。

 そんなことを考えながら、言われた通り自分の手をよく観察すると、ブローチを作るときに指を刺したところが綺麗に治っていることに気付いた。

「痛そうだったので」

「……ありがとうございます」

 見た目の割に痛くなかったから忘れていた、とは言いにくい。誤魔化すように既に完成していた花を手に取り、バレッタに当てていく。

「…………」

 よくなりますように、そう祈りつつ、花や葉を金具に固定していけば、瞬く間にバレッタが出来上がっていく。デザイン図は書いていたが、やはり実際に完成するとさらに美しく見える。

「キアン様」

「ああ、店主。メッセージカードに添えるリボンか何か欲しいのだが……」

「此方を」

 一生懸命メッセージカードを書いていたキアン様に声をかけると、私の笑顔を見た後、ゆっくりと、視線を手元へ落として行った。

「か、完成したのか?」

「はい」

 そして、私の手にある、完成した花のバレッタを見て、目を丸くした。メッセージカード作りに熱中している間に作業が一気に進んだように感じたのだろう。

「て、手に取っても?」

「勿論です」

「…………美しいな。近くで見れば、糸で作られたからこその柔らかさがあり、遠目から見れば本物の花にしか見えない」

「お褒めいただき恐縮です」

 出来上がった作品を見ながら感想を述べたキアン様は、暫く椅子に座っていた。が、しかし、徐々に落ち着かなくなったのだろう、突然立ち上がった。

「もう、これは買い取ったということで良いのか?」

「はい」

「すまない店主、取り敢えず外にいる護衛に支払いはさせる!!」

 そう言いながらも自身の懐からもこの国の通貨を何枚か出し、商品を持って飛び出して行ったのだった。

次回更新は4月28日17時予定です。

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