表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/218

メッセージカードを添えて

 今回必要そうな糸をある程度纏めて手にすると、急いで工房から出る。寝室も兼ねている私室に入ってくるとは思えないが、物音がしない、とかで不審に思われ、工房について知られてはいけないからだ。

「ルイーエ嬢?」

 丁度、工房から出たところで、ランバート様に部屋の扉越しに声を掛けられる。危なかった。【工房】スキルはあくまでもこの世界に来た時に与えられた特典であり、この世界の魔法とは異なるものなので、実際に使っている所さえ見られなければ魔法の様に痕跡が残ってバレることはない。

「すみません、青色と言っても種類が多くて、少し考えていました」

「そうですか。材料を運ぶ手伝いは必要ですか?」

「いえ、重たい物でもないので大丈夫です」

 そう言いながら糸とかぎ針を手に持つ。そして、良かったら扉を開けて貰えますか、と声を掛けると、了承する言葉と共に扉がゆっくりと開いた。

「…………本当に、たくさん種類があるのですね」

 ランバート様は、私が持っている糸束を見るなり目を丸くした。完成した商品自体は目にしたことがあるのだろうが、微妙に色の違う糸束は、並べていないと差が分からないものもある。この数の中から色を選んでいたとは思っていなかったのだろう。

「最近の主力商品ですから。できる限り色味を本物に近付けようと思って糸を沢山仕入れたんです。一人で悩んでいても仕方ありませんから、キアン様にも相談することにしました」

「そうですね。ルイーエ嬢のセンスは確かですが、贈る相手のことを良く知っている方の意見も大切ですから」

 ずっと部屋に入れてもらえず、廊下で警備をしている騎士や護衛の人たちに軽く頭を下げてから店に戻る。あの人たちを早く帰らせてあげる為にも、完璧な出来の物を作らなくては、と気合を入れる。

「キアン様、材料を持ってまいりました」

「糸を加工して作っているのだったな。それで、どの糸を使うのか決まったのか?」

「幾つか、候補をご紹介するので、最終決定をして頂ければと」

「わかった」

 勿論、最初に決めるのはメインとなる花に使用する糸だ。濃い青から花弁の先に向かって薄くなるグラデーションを、3段に分けて表現したいと思っている。一番色の濃い部分の青は殆ど決まっているようなものなのだが、中間部分をどの色にするかで薄い部分の色味もかなり変わってくる。

「色の濃い部分ですが、この花の最も特徴的と言える部分でもあります。ですので、この、少々特殊な製法で作られた糸を使いたいと思います。残りの部分は色が違い過ぎないように組み合わせようとは思いますが、色の変化が無さすぎても実際の花には見えなくなると思います」

「これは……、先程の組紐に使われている糸か」

「はい。これ以外に、この美しい青色は表現できないかと」

「そうだな」

 キアン様の同意も得られたので、メインとなる青は決定。3段でグラデーションを表現するために、色の変化は大きめにして、花弁同士の重なり方を調整することで自然な色合いに見せることにした。

「葉の色はこれ。他の花はこれと、これが良いと思う」

「かしこまりました」

「他に決めることはあるか?」

 いいえ、と首を横に振る。糸は決まり、かぎ針も持ってきている。今からはひたすら、本物の花の形に近付けるように編んでいくだけだ。糸を手に取り、くるくると指に巻き付けると、キアン様は興味深そうに手元を見てきた。

「手際がいいな」

「ありがとうございます」

 編み目を増やす、次の段にいく、糸を変える。そんな、自分にとっては当たり前の作業をするたびにキラキラとした目で見られるため、若干気恥ずかしい。どうしたものか、と思って手は動かしながらも店内を見渡すと、丁度良い物が目に入ってきた。

「キアン様。折角ですので、キアン様からも贈り物をしては如何でしょうか?」

「贈り物、といっても、僕は何かを作れるような……」

「メッセージカードを描いてはどうでしょう。色鮮やかなカードは見ても楽しいですし、会話が難しくとも、文字として書いてあるものなら、キアン様のお母様に届きやすいかもしれません」

 きょとんとしたキアン様だったが、贈り物の内容を説明すると、それはいいと進んで其方の作業に取り掛かった。慣れない視線から解放された私は、今のうちにと作業を一気に進める。そうして、花を一つ、二つと作っている時に、あることに思い至り、そっとランバート様の方を見た。

「ランバート様、少し、ご相談があるのですが」

 声のトーンを落とし、キアン様にも、その護衛の人にも聞こえないように言う。そんな私の行動だけで、何を相談したいのか大方察したらしい。ランバート様は一瞬固まった後、静かに眉間に皺を寄せたり、目頭を摘まんだりした後、小さな声で返事をした。

「なんでしょうか」

「気持ちだけの話になるのですが、キアン様のお母様の回復を願って、おまじないでもしてみようかと思うのですが、駄目でしょうか?」

 そう口にした瞬間、ランバート様の口から、大きなため息が零れたのだった。


次回更新は4月27日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ