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内密の話

「話題になっている割には、随分と簡素な店だな」

 店に案内してすぐ、興味深そうに、と言うよりは、品定めをするような目で店中を見渡したかと思うと、そう言われた。たしかに、高貴な人が頻繁に訪れる店に比べるとかなり質素だが、中々な言われようである。

「そう、ですか……?」

「ああ。そういえば、名乗っていなかったな。僕はキアン。ネイジャンの商人だが、この国との貿易を一任されている」

 国賓とは聞いていたが、そこまで権力のある人とは思っていなかった。貴族、とは名乗らなかったので、経営顧問みたいな感じだろうか。

「店長のルイーエと申します」

 偉い人には変わりがないので、なるべく丁寧に礼をすると、満足そうに頷かれた。すると、騎士の1人が椅子を引いたかと思うと、キアン様はそれに腰掛けた。

「品を見せよ」

「かしこまりました」

 どうやら、座っているキアン様の前まで商品を持ってきて説明するようだ。これなら、商品を並べる必要がなかった気がするが、店に入った時の見栄えを考えると、並べていた方が良い気がする。

「まずは、各種類から一つずつご紹介させていただきます」

 どの商品を説明しろ、とは指定されなかったので、ビーズ、組紐、かぎ編みで作っているアクセサリーを一つずつ、キアン様の前に並べていく。かぎ編みの花は前回見られたニゲラではなく、薔薇に変えておいた。

「此方はビーズで作ったネックレスになります。ブレスレットや指輪なども製作できるので興味があれば作品をお持ちします。ビーズの色や種類を変えれば印象が大きく変わりますので、唯一性を出しやすいかと」

 ネックレスの中でも特に複雑な、配置や編み方を駆使したものをキアン様の前に置く。小さなビーズ1粒1粒が織りなす複雑な色味を、キアン様も興味深そうに眺めている。

「手に取っても良いか?」

「勿論です」

 では、と懐から取り出した白い手袋を付け、キアン様はビーズリングを掌に乗せた。様々な角度からリングを眺め、手持ちの拡大鏡も使って鑑定をしているようだ。

「ふむ。中々だな。値段はどの程度だ?」

「デザインにもよりますが、シンプルな指輪であれば子供でも買える値段です」

「子供でも!?」

 此方のリングの値段はこのくらいですね、と、トッド君とターシャちゃんに作ってあげたような、八の字編みのリングの値札を見せる。半ば奪い取るように値札を取ったキアン様は、書かれている数字を見て目を丸くした。

「この値段で利益があがるのか!?」

「はい。最初の主力商品です」

 勿論、複雑なものは値段が高くなりますよ、と他の商品と値段も簡単に説明すると、微妙に納得してくれたようだ。それにしても安すぎる、と眉間に皺を寄せたままではあるが。

「次に、組紐の説明をさせていただきます」

 見せるのは普通に流通している糸だけで作ったものと、特別な青い糸と絹糸で作った少し高価な物だ。

「これは先程のものより単純だな。更に安いのか?」

「いえ、組紐は製作に時間が掛かるので、少し値段が高くなります」

 キアン様は先に一般的な糸で作ったものを手に取って質問をしてきた。ビーズよりも身近なものを使って作っているので安いと思ったらしい。

「……全て手作りとなると、そのような問題もあるのか」

「効率化する方法もありますが、他の店との差別的の為、一つ一つ手作りをしております」

「成る程、だから近辺の店と競合しないのか」

 商品をしっかり見つつも、経営に関する話も聞いて来る。若く見えるのか実際若いのか分からないが、国同士の貿易を任せられるだけの能力はあるのだろう。

「これは?見たところ絹で作ってあるようだが、見たことのない青だ」

「其方は、我が国の一部地域で受け継がれてきた伝統技法を用いて染めた絹糸になります」

「見覚えがないな」

「王都でも流通し始めたのが最近のことですので」

 見覚え、と言うことは、何度かこの国に来たことがあるのか、商品だけは仕入れていたのか。驚きの観察眼である。

「この紐を買う」

「かしこまりました」

 他にも気になる商品があれば一緒に買うので避けておけ、と指示をされる。返事をしつつ、ラッピングは何があったか思い浮かべる。使えそうなものはあっただろうか。

「他は?」

「此方が最新の商品で、糸を編んで作った花のバレッタになります」

 最後に、かぎ編みの花のバレッタをテーブルに置くと、キアン様は文字通り、目の色を変えた。そして食い入るようにバレッタを見てから、小さな声で触っても良いかを聞いてきた。

「勿論です」

「これは……、随分と立体的だが」

「立体的になるように配置することで、より本物に近い花を作っております」

 鉱石などを使っていないので柔らかい印象を与えるし、本物の花を染めて作った糸を使えば、自然な色合いになる。そう説明すると、キアン様は服の裾をぎゅ、と握りしめた。

「ルイーエ」

「はい」

「……話がある。できる限り内密にしたい。最低限の人数を残し、外へ出よ」

 そして、鋭い声で周囲の騎士たちに命じたのだった。

次回更新は4月23日17時予定です。

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