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高貴な来客

 王都に住んでいるということもあり、お客さん達は皆、快く事情を理解してくれた。突然のお休みに不満を言う人はおらず、むしろ、高貴な人が求めるような品を先に買うことができて良かった、と言ってくれる人もいたのだ。

「身支度よし」

 翌日の朝、トッド君とターシャちゃんはすっかり元気になり、カフェが閉まるまでの間は外で遊んでくるようだった。ランバート様には慣れたが、偉い人は怖いらしい。

「仕方ないよね……」

 トラブルが起こると怖いので、心細いが1人で対応するしかない。一応、偉い人を迎えると言うことで、今日は珍しく真面目に化粧をし、服も持っている中で一番上等なものを出した。

「店の準備をしないといけないけど……」

 朝から店に立ち、いつも以上に念入りに掃除をしているが、まだまだ準備は終わらない。床とテーブルがピカピカになるまで拭き、洗い立ての真っ白なクロスをテーブルに掛ける。

「えっと、後は椅子と机を用意しておく、と」

 ランバート様は忙しいようで、あの後店に顔を出すことはなかったがB様に頼んだのか、手紙で用意しておくものを伝えてくれた。言われた通り、すぐに座れるように椅子を幾つか並べておく。

「よし、準備完了」

 カフェから入ると営業の邪魔になってしまう上に、警備上の問題もあるので、今日は最初から裏口に行ってもらうことになっている。そろそろ、先行して来る騎士の人が到着する時間帯だ。

「正式な挨拶は私の店に入ってから、という予定だけど……」

 かなり緊張する。貸切にするようなお客さんが来るのは初めてだし、キアン様と薬屋であったキールさんが同一人物だった場合、ブローチの購入元を誤魔化したことを指摘されるかもしれない。

「…………ランバート様もいるし、大丈夫だよね」

 溜め息をつきながら階段を降りる。前に踏み出す足がいつもより重たく感じる。一階に着いたところで、丁度裏口に人が来たのか、扉がノックされた。

「すみません」

「はい」

 一声かけてから扉を開けると、ランバート様が立っていた。

「おはようございます、ルイーエ嬢」

「おはようございます」

 知っている人が先に来たほうが安心するだろうから、という理由でこの役を買って出てくれたらしい。後から来る騎士もこの店に来たことがある人が率先して護衛を買って出てくれたそうだ。

「わざわざありがとうございます」

「市民の安心を守るのが騎士の仕事ですから。まだ他の人が到着するまでは時間があるので、今のうちに質問があればどうぞ」

「あ、それなら、お店の準備の確認をしていただいてもいいでしょうか?」

 指示の通りにしたつもりだが、何か不備があってはいけない。そう伝えると、ランバート様はすぐに階段の方へ向かっていった。

「一緒に行きますが……」

 私も着いて行こうとしたら、片手で静止された。首を傾げると、ランバート様は苦笑した。

「他の人が来た時に誰もいないといけませんから、ルイーエ嬢は待っていてください」

「わかりました」

「勝手に椅子の配置を動かしても大丈夫ですか?」

「テーブルを動かさないのでしたら大丈夫です。よろしくお願いします」

 頷くと、ランバート様はすぐに3階へと行った。指示をもらっても上手く動かせない可能性が高いので、勝手に動かしてもらった方が都合がいい。

「後、どのくらいで来られるんだろう……?」

 扉から少し顔を出して外の様子を伺うと、路地を歩いて来る集団が見えた。路地の細さに対して人の数がどう見ても多い。あれが今日来る予定の、偉い人、だろう。

「ら、ランバート様……」

 顔を引っ込めて階段の方を見るが、上から僅かに物音が聞こえてきた。椅子の位置を変えてくれているのだろう。今から戻って来るよりも、多分、一行が到着するほうが早い。

「落ち着け私、深呼吸して……」

 諦めて此方から出迎えよう。その方がきっと心象が良いはずだ。扉をゆっくりと開け、片手で固定しながら見えてきた人たちに挨拶をする。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 頭を下げたまま言うと、騎士の人たちは挨拶を返してくれた。そして、そのまま少し待っていると、カツン、と一際目立つ足音の後、少し高めの声が上から降ってきた。

「其方が店主か?」

「はい。私が3階にある装飾品店の店主です」

 頭を上げて良い、とは言われていないので下げたまま答えると、そうか、と満足そうに頷いた。

「先行した騎士は?」

「現在、店の安全を確認していただいています」

 丁度、確認が終わったのかランバート様が階段を降りてきた。問題ありませんでした、とランバート様が報告すると、再び大きく頷き、私の方を向いた。

「では、店に案内せよ」

「かしこまりました」

 顔を上げると、騎士たちに囲まれている人物が見える。フードを被っているが、特徴的な深い紫の瞳と小麦色の肌は誤魔化せるものではない。確実に、薬屋で出会った、自称キールさんだろう。

「此方です」

 幸い、まだ私のことには気付いていないようだ。このまま気付かないでくれると良いな、と思いながら階段を上るのだった。

次回更新は4月22日17時予定です。

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