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既視感

 薬師さん曰く、この国に連れて来られた日本人のコミュニティは情報が回るのも早く、私と一緒に来た聖女を含め7人のことは全員が把握しているらしい。そんな中、1人だけ情報が無かったのが私、ということらしい。

「別に、今更コミュニティに入れとは言わないし、必要がないなら他の人に貴女のことを知らせるつもりはないわ。でも、どうして今まで、王宮に全く知られずに生活できていたかが不思議なの」

「そう、ですか」

「ええ」

 一瞬、王宮に知らされるかと思って身構えたが、薬師さんはそんなつもりはないようだ。純粋に私が見つからなかった理由を知りたくて質問している、といった感じか。

「……今迄、王宮から逃げた人はいませんか?」

「いない訳ではないけれど、全員1週間もせずに見つかって、そこから王宮以外での生活について交渉した人ばかりね」

 正直、王宮としては聖女が瘴気を祓ってくれれば良いので、それ以外の人は結構融通が効くらしい。薬師さんは聖女と一緒に旅をした後、王宮以外での生活を希望し、今に至るそうだ。

「私の能力は戦闘にも旅にも向いていないものでしたし、聖女の出発に注目が集まっている隙に抜け出したので……」

「それでも、王都から出ようとすれば見つかったでしょうし、運が良かったのね」

「多分、そうですね……」

 後は、宿屋のおかみさんとジュディさん一家、ランバート様とB様のお陰だろう。若干不審な点があると言うのに優しく接してくれた人がいたからこそ、今の生活がある。

「運が、かなり良かったんだと思います」

「そうね。初めて日本人だって知られたのが私だったのも、運がいいと思うわ」

「そう、なんですか?」

「人によっては即座に王宮に通報するわよ。特に、官僚をしてる人はね」

 薬師さんはそう言って微笑んだ。与えられた空間スキルが戦闘向きでなかったり、本人の能力と合致せず活かせない人は、国に保護はされても聖女達ほどの待遇はない。

「私は【薬局】のスキルで旅でも活躍できたけど、人によっては【ゴミ箱】とか、【時計塔】なんて人もいたわ」

「……中々、大変なんですね」

「正直、スキルがわかった時点でかなり対応に差が出るでしょう?あれは腹が立ったわ」

「確かに……」

 そう言った人たちは、日本の高度な教育を受けたことを活かして官僚になるのだが、後ろ盾がない分、慎重というか臆病な人も多いという。

「私は今の生活で満足しているし、貴女が困っていないなら、このまま黙っているつもりよ。だけど、他の人もそうとは限らないから、知られたくないなら気をつけたほうがいいわ」

「……そうします」

 見つかったところで危害を加えられる心配はなさそうだが、やはり今よりは人の悪意が身近な生活になりそうだ。極力気付かれないようにして、ダメならその時考えることにしよう。

「それにしても、言葉やマナーはともかく、魔法についての知識が無さすぎて気付かれることか結構多いんだけど、どうやって誤魔化してきたの?」

「……田舎から出てきたことにしています」

「つまり、魔法が使えること自体は知られても誤魔化せた、って事?本当に運がいいのね……」

 ランバート様が子供に弱かった、というのもある気がするが、本当に運がいい。そこからは、薬師さんに生活のコツや気をつけるべき人物について教えてもらった。

「……特に気をつけないといけないのは、日本人の子供かしら」

「子供、ですか?」

 50年前に連れて来られた人もいるようなので、子供がいてもおかしくはない。が、どうして気をつけないといけないのだろうか。

「中央貴族が連れて来られた日本人と結婚して、その間に生まれた子供ね。私達の特徴を理解しているし、聖女召喚に関わるような地位にいることが殆ど、その上、微妙な立場の人が多いから……」

「余計なトラブルを避けるためにも、報告される可能性が高いということですね……」

 親が日本人だと身体能力や魔力が極端に高いことが多いので、騎士団や魔法使いには注意が必要だという。知り合いが1人ずついる気がするが、2人は良い人なので大丈夫だ。

「何かあったら此処に来ると良いわ。いつでも相談に乗るから。勿論、薬が必要な時も来てね」

「ご丁寧にありがとうございます……」

「それ、外でやったら駄目よ」

「あ」

 指摘され、ぴたりと動きを止める。くすくすと笑いながら、注文した薬を受け取り、代金を払う。気をつけてね、と送り出され、靴を履き直す。

「早く帰らないと」

 初めて他の日本人に会ったからと言って、随分と話し込んでしまった。早く薬を持って帰らないと、と入り口の戸を開けたその瞬間だった。

「うわっ!?」

「え」

 なんと、扉の目の前には人が立っていたのである。衝突は避けようと体を捻ったが、勢いはそのまま地面に倒れ込んだ。

「だ、大丈夫ですか?」

 さっきも似たようなことがあったな、と体を起こしつつ、扉の前に立っていた人に声を掛ける。避けたので怪我はないだろうが、確認は大切だ。

「あれ?」

 中々返事がないな、と思って相手を見ると、そこに立っていたのは白いローブを着た、紫色の瞳の人物だった。

次回更新は4月19日17時予定です。

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