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和風な薬屋

 市場の近くを歩いていると、路地の方から仄かな光が見えた。日中来た時には全く気にかけなかった場所だ。

「こっちかな?」

 路地に入ると、小さな一軒家の玄関にランプが掛けられているのが目に入った。営業中、ということを示すためか、扉が僅かに開けられている。

「…………落ち着く、デザイン」

 薬屋、という情報から、一軒家と言っても森の一軒家というか、西洋的な小さな家と思っていた。が、今目の前にある店は、どう見ても和風というか、ぶっちゃけ平家である。屋根も煉瓦ではなく瓦だ。どうしてこんな所に日本家屋が、と思わず疑ってしまう。

「此処、だよね?」

 扉の横に看板があることを確認してから、ノッカーを鳴らし、僅かに空いている隙間から声を掛ける。此方も、ノッカーというよりは呼び鈴というか、小さい鐘である。

「ごめんください」

 一拍、二拍。待ってみるが、中々返事がない。中に入っても大丈夫だろうか、と周囲をキョロキョロと見回したその時だった。ぎぃ、と木が軋む音が聞こえたかと思うと、風もないのに扉がゆっくりと開き始めた。

「どうぞ、お入りください」

「……失礼します」

 入り口で固まっていると、中から声がした。落ち着いた、女の人の声だ。そっと店の中に入ると、カウンターの向こう側に沢山の瓶が並べられた棚が目に入った。同じ大きさの引き出しが沢山ある棚だ。薬棚、というものだろうか。

「……すごい」

「椅子に座ってお待ちください」

「はい」

 カウンターの手前側には、木製の椅子が並べられており、私の他には誰も待っていないようだった。なんとなく、一番奥の方にある椅子に座ると、目の前に扉があった。

「カウンターの向こう側と、この部屋が直接繋がってないということは、扉の向こう側が作業場になってるのかな?」

 よく見ると、扉には同じ色のプレートが掛けられていた。『相談室』と書かれていることから、向こうの部屋で欲しい薬についての話をするのだろう。

「…………せん、そのような…………」

「……では、母上は……」

 扉の向こうから僅かに声が聞こえてくる。前のお客さんが相談している最中なのだろう。だが、あまり雰囲気は良さそうにない。

「っ、失礼する!!」

「お待ちください!!」

 ガタン、と向こう側から音がしたかと思うと、目の前の扉が勢いよく開き、男性が飛び出してきた。

「な!?」

「え」

 私が、よりにもよって扉の目の前に座っているとは思わなかったのか、男性は勢いを殺しきれず、そのまま突進してくる。

「だ、大丈夫ですか?」

 反射的に衝突は避けたものの、私も男性もそれぞれ床に倒れ伏すことになった。それを薬屋の店主であろう女性が順に助け起こしてくれた。

「……すまない」

「ありがとうございます」

 背中が痛いな、と思いながらも起き上がると、白いローブの人物と、紫のローブの人物が目に入ってきた。ぶつかって来たのは白いローブの人の方だ。

「あれ…………」

 フードの下に見えた肌は、この国の人に比べて明らかに日に焼けており、瞳も深い紫色だ。顔のつくりも、この国の人とは違う気がする。

「……なんだ?」

「あ、すみません」

 顔をまじまじと見てしまい、白いローブの人物は怪訝そうな顔をする。初対面なのに失礼だったな、と謝ると、何も言わずに顔を逸らし、フードを深く被り直した。

「お待たせしましたお客様。奥の部屋にどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「では……」

 白いローブの人物は帰るようだ。用事が終わったのだから当然か。出て行くその人に会釈をすると、彼は一瞬、固まったような気がした。

「どうしました?」

「いえ……」

 すぐに出て行ったので、多分、気のせいだったのだろう。不思議な人だったが、もう会うこともないだろう。

「此方です。本日はどのようなご用件で?」

「ジュディさんのお使いで来ました。トッド君とターシャちゃんが熱を出しそうなので、熱冷ましをください」

「ああ、いつものですね。少し待ってください」

 何度も利用したことがあるのか、すぐに薬を取りに行ってくれた。それにしても、待合室から見える範囲の薬も多かったが、この部屋も棚だらけだ。

「管理が大変そう……」

 エアコンも除湿機もないのだから、薬の材料を保管するのも大変だろうと思ってつぶやくと、ふふ、と笑い声が聞こえた。

「魔法で管理しているので、そこまで大変ではないですよ」

「ま、魔法で?」

 部屋全体、というか、薬の種類ごとに分けて、魔法を掛けて管理するのはもっと大変な気がする。驚いていると、相手も驚いたように目をまん丸にして私を見ていた。

「貴女も似たようなものでしょう?」

「え?」

 女性がフードを取ると、ぱさりと長い髪が見えるようになった。この国ではあまり見ない、真っ黒な髪。

「貴女も、日本から此処に来たのでしょう?」

 よかったら此方で少しお話ししましょう、と女性が扉を横にスライドする。カラカラと音を立てて扉が溝に沿って動く。そして、その向こうには、畳が敷かれた部屋が広がっていたのだった。

次回更新は4月17日17時予定です。

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