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薬を買いに

 ランバート様に貰った袋もあるので、B様に貰った魔除けの石も一旦袋に入れて持ち運ぶことにした。落ち着いた頃にワイヤーラッピングをしようと思っている。

「注文の品も全部完成させたし、気持ちを切り替えて、今日から改めて頑張らないと」

 作業日の翌日という事もあり、今日は朝から受け取りのお客さんが大勢来ることが予想される。開店準備は早く終わったので、予め完成した商品の引き渡しの準備もすることにする。昨日、精神的に疲れ果てていたこともあり、店をそのままにしていたので時間にはかなり余裕があるのだ。

「ランバート様もB様も、トラブルに巻き込まれないように情報共有をしてくださると言っていたし、大丈夫なはず」

 今回、私の店に突然男が入ったことに関しては、店の名前を伏せつつも王宮に報告されたらしく、安全対策が見直されたらしい。どのような身分であっても、屋敷から出て行動する場合は騎士が一人は付くことになり、且つ、貴族区域から出る場合は前日からの申請が必要になった。

「その代わり、騎士がお使いをしないといけなくなったらしいから、ちょっと申し訳ないけど……」

 王都の住民からしても、他国の人間が突然来るよりは、見慣れた騎士が店に来た方が安心だろう。王宮側としても、この国で秘密裏に動かれることを防ぐ良い理由になったのだと思う。

「……国の方針なんて、私には関係ないよね」

 ぽつり、と呟く。これからも、極力、目立たないように生活していくのが私の目標なのだから。余計なことは考えず、店の事だけを考えていればいいのだ。深呼吸をして、店の扉を開けた。


 安全対策を見直したお陰か、今日は一日忙しくはあるが平和に過ごすことができた。編み物の注文も落ち着いてきて、翌日には渡せる数になった。その分、凝ったデザインの人が多いのでやりがいはある。

「アユム、ちょっといいかい?」

「どうしました?」

 夕食の片付けも終わり、注文の品を作ろうと自室に戻ろうとした時だった。珍しくリビングではなく、トッド君とターシャちゃんの部屋にいた筈のジュディさんが、難しい表情で私を呼び止めた。

「悪いんだけど、薬を買ってきてくれないかい?」

「薬、ですか?」

 お使いに行くのは全く構わない。が、誰か体調が悪いのだろうか。夕食を一緒に食べている時にはわからなかった。強いて言えば、トッド君とターシャちゃんが少し眠そうだったが、一日中外で遊んでいたから疲れているのかと思ったくらいだ。

「確実という訳じゃあないけど、トッドもターシャも、熱を出しそうな顔をしてるから、一応ね」

「だ、大丈夫ですか?」

 この国は魔法が発達しているとはいえ、現代日本ほどの医療水準であるとは思えない。ただの風邪でもこじらせれば大変なことになってしまうかもしれない。そう思って聞き返すと、ジュディさんは安心しな、と少し笑った。

「すぐに薬を飲ませれば酷くならないと思うよ。大方、昨日は街中を走り回ったって言ってたから、疲れているんだろう。ただ、私もカルロも、明日も仕事があるからね。今のうちに薬を買いに行きたいんだけど、既に体が怠いのか、中々離れそうになくて」

「体調が悪い時に親にいて欲しいのは当然ですよね。ソニアちゃんは大丈夫そうですか?」

「取り敢えず、今は二人とは離れて貰ってるよ。カルロが面倒を見てるけど、放っておいても大丈夫だと思うよ」

 ジュディさんもカルロさんも手を離せない状況、という事だ。トッド君とターシャちゃんが昨日街を走り回ったのは、ランバート様を探してくれたからだろう。なので、責任は私にもある。

「薬は何処に買いに行けばいいですか?」

「行ってくれるのかい?助かるよ。薬屋は市場から一本入った通りにある、小さな家だよ。他の店と違って、夕方からしか営業していないからわかるはず」

「わかりました」

 薬屋で、一本入った通り。という事は、食品の中でも山菜や珍しい物を扱っている通りの方。背の高い建物が多い中では、小さな家があれば目立つはず。凡その位置はわかるので近くを探して歩けば大丈夫だろう。

「熱冷ましの薬、って言えば通じるはずだよ」

「じゃあ、早めに行ってきますね」

「本当に助かったよ、暗いから気を付けて」

 一度三階に戻り、ローブを上から羽織り、買い物用の籠を持って部屋から出ようとする。すると、丁度ローブの留め具が限界を迎えたのか、カラン、と小さく音を立てて落ちた。

「……流石に、風が入り込むと冷えるよね」

 付け直す暇はないが、ローブの前を開けっ放しにすると寒い。仕方がないので明日から売ろうと思っていたブローチを一つ手に取り、それでローブを留める。

「帰ったら新しいのを作ろう」

 取ったブローチは、ニゲラ、という花をモチーフに作ったものだ。青い糸を活かした花を作るために、青い花を調べながら作った。とはいえ、他の物に比べると青色が少ないので自分用にするには丁度いいだろう。

「よし、行こう」

 籠に入れてあるが、目立つのでガラスの灯りは使わない。街灯の明かりを頼りに、薄暗い路地へと繰り出した。


次回更新は4月16日17時予定です。

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