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置いてけぼりの異世界ハンドメイド  作者: 借屍還魂


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溢れる手紙

 ランバート様が出ていった後も、確認の為に騎士が何度も店を出入りすることになり、全てが落ち着いた時には既に日が暮れ始めていた。

「……作業、ギリギリ終わってよかった」

 本格的な事情聴取は午前のうちに終わったので、午後は出入りする騎士に声を掛けられれば答え、後は作業をしながら待っているだけだったのだ。とはいえ、当初の予定とは違い、余裕があれば休むどころか疲れるばかりの一日だった。

「そうだ。プリンター」

 一応、見られないように工房の中に入れたままなのだった。工房の中に置いていても無事に作業は終わったのだろうか。移動させたことを伝えてから返事も見ずに放置していたのでどうなっているかが分からない。

「【工房】」

 工房の中に入ると、プリンターと作業用の道具箱が部屋の中央に鎮座していた。プリンターの位置は変わっていないが、道具箱の位置が変わっている気がする。記憶が確かなら、プリンターの真上に置いておいたはずだが、今は隣に置いてある。

「……アームが出てきて作業できるから、少しくらい移動できてもおかしくないか」

 プリンター上部を改造するときに、上に乗ったままでは作業ができない。そう考えるとおかしな点は何もない。うん、と一人で納得し、まずはプリンターから移動させようと両手で抱える。

「お、重い……」

 持ち上げようとしたのだが、改造前に比べて格段に重たくなっており、中々持ち上げられない。持ち方を工夫してみても全く動く気配がない。疲れすぎて力が出ないのだろうか、と道具箱の方を持つと、此方はあっさりと持ち上げることができた。

「…………先に、手紙の方を確認しよう」

 もしかすると、今回の改良点の中に、移動性能の向上が含まれているかもしれない。中からキャスターが出て来たり、一時的に軽くなるような仕掛けがあったりすることを期待して、店の方に戻る。

「引き出しに入れておいた……、って、な、なに?」

 小箱が入っている引き出しを開けると、カタ、カタ、と箱の蓋が小刻みに震えていた。正直、かなり怖い。一体、何が入っているのだろうか。

「あ、開けても大丈夫、だよね……?」

 冷静に考えると、B様がわざわざ私に危害を加えるようなものを入れる必要はない。だから、きっと大丈夫。自分で自分に言い聞かせ、カタカタと鳴り続ける箱を震える手でカウンターの上に置き、そっと蓋の留め金を外す。

「え」

 留め金を外した瞬間、ガン、と勢いよく蓋が開いたので思わず手を引っ込める。すると、箱の中から封筒が溢れてきたのだ。

「これ……、B様から?」

 元々、小箱は手紙が丁度収まる位の大きさだ。なので、厚みのある封筒を入れれば箱に収まりきらなくなるのは明らかだが、その厚さの原因が何なのか、全く想像がつかない。

「紙ではなさそう」

 黒い封筒を一枚手に取り、中央の膨らんでいる部分を軽く押さえる。硬い感触が指先に返ってくるので、紙ではないだろう。不思議に思いながら溢れた封筒も集めて並べてみると、普通の厚みのものが殆どで、分厚い封筒は最初に箱から出てきた一つだけだという事が分かった。

「……取り敢えず、開けてみよう」

 まずは、普通の厚さのものから。と箱の一番下にあった封筒を開ける。

『都合が悪いなら作業を一時中断するが、どうする?』

「これは、移動させることに対する返事かな」

 返事をする余裕が無くて申し訳ない気持ちになる。謝罪するにしろ、全部読んでから出ないと駄目だな、と気持ちを切り替えて次の封筒を手に取る。

『返事がないので作業を続けさせてもらう。道具箱を放した場所に移動させたら強制的に作業を中断できる』

『作業は終わった。全体的に使いやすくなったが、重たくなっているから移動させる時は誰かに頼った方が良い』

『随分と時間が掛かっているようだが、何かあったのか?』

『これを見たらすぐに外に出て、見回りをしているランバートを探せ』

 休日と言っていたはずなのに突然の来客があり、時間が経っても返事がない。それで何かあったのではないかと心配して何度も手紙を送ってくれていたらしい。優しい人だな、と思いながら、厚みがあった最後の封筒を開けると、中からコロン、と石が出てきた。

「これ……、マラカイト?」

 深い緑色が特徴的な石だ。確か、ヨーロッパでは魔除けとして子供に持たせる風習があった筈。危険が迫ると砕けて知らせてくれる、という石だ。

『事情は凡そ聞いた。どうやら随分と面倒事に巻き込まれやすい体質のようだから、持っておくと役に立つだろう』

「……やっぱり此処でも魔除けの石か」

 そんなに面倒事に巻き込まれているだろうか。この国における常識が無いので正確な判断はできないが、この短期間で騎士団にお世話になった回数を考えると、おそらく多い方なのだろう。

「…………明日からは気を付けよう」

 もう成人しているのだし、迷惑を掛けてばかりではいられない。明日からは一般市民として控えめに生きていくことを誓いつつ、貰ったお守りの加工方法を考えるのだった。


次回更新は4月15日17時予定です。

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