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意思確認

 ランバート様曰く、この国は他国と比べ、圧倒的に魔法を扱える人間が多い。国民全員が僅かとは言え魔力を持っており、魔法で生計を立てているものが多い。貴族や王族といった人々には当然、魔法を扱える護衛が付けられるし、本人も護身用程度の魔法を使えることが多い。

「しかし、それはあくまでもこの国に限った話です」

「ということは、他の国はそこまで魔法が発達していないという事ですか?」

「はい。特に、ネイジャンは魔法を扱えるものが希少と言われています」

 砂漠の国であるネイジャンは、国民一人一人の身体能力が高い傾向にあるらしい。この国より小柄な人が多いが、身軽さや極限状態での活動能力が飛び抜けて高い。が、身体が強い反面、魔力を持たない者が多いという。肉体が強ければ魔法が必要ないからだろうか。

「魔力の有無については解明されていないことが多いので、何とも言えないのですが……」

「重要なのは、ネイジャンは魔法を扱えるものが少ない。つまり、この国とは違って要人も魔法を使えないと考えた方が良いという事ですね?」

「そうです。そんな国に、魔力が無くても魔法効果が発動する物があるとすると、どうなるでしょうか?」

「…………競って入手しようとすると、思います」

 希少価値があるものは、持っているだけで権力を示すことができる。自分で使ってもよし、交渉材料にしてもよし、と使い道は沢山ある。だが、それはあくまでも、魔法付与の効果が強い場合に限るのではないか。

「私の作るものに付与されている効果は、そこまで強い物ではないですが……」

 虹の指輪は、装着者に少しだけ元気を与える効果。黒いマフラーは、装着者の認識を強化する効果。ランバート様には伝えていないが、アンクレットは逆に装着者に対する認識を阻害する効果だ。意図的に製作した最後の一つ以外、大した効果ではなかったはずだ。

「そもそも、魔法付与ができる人物自体が少ないのです。それに、此処まで相手が把握しているとは限りませんが、ルイーエ嬢の成長速度は驚くほど速い」

「どういうことですか?」

「ルイーエ嬢は王都に来てから魔法付与ができるようになったと言っていました。つまり、最初の時点では微量な魔力しか持っていなかったはずです。そこから付与が可能になり、その効果が呪いを解除する一因となる程に、効果が上昇しています」

 偉い人からすると、確保しておいて損はない存在、という事らしい。今迄、国に報告すること無く、更に魔法付与された物を作ることを要求してこなかった、ランバート様という協力者を得ることができたのは、本当に運が良かった。

「……確認しておきますが、ルイーエ嬢は、王宮や魔法研究所で働く意思は?」

「ありません。私は、此処で店を続けていきたいと思っています」

 私の答えを聞いて、ランバート様は苦笑した。身の安全だけを守るには、国に保護してもらうのが一番簡単なのは理解している。しかし、権力闘争には巻き込まれたくないし、店への愛着もある。他に生計を立てる術を得たとしても、今更店を辞める気はない。

「わかりました。できる限り、協力します」

「ありがとうございます」

 すると、ランバート様は腰に付けていた袋の中から、更に小さな袋を取り出した。騎士団の支給品と思われる腰の袋に比べて、随分と厚く、しっかりとした布で作られている袋だ。よく見ると細かい刺繍もしてある。

「ルイーエ嬢、これを持っておいてください」

「あの、これは、大切なものなのでは?」

 どう見ても重要そうな袋に入れられている物を簡単に受け取れるはずもない。差し出された袋をランバート様の方に押し返すと、有無を言わせず手の中に握らされた。意外と強引である。

「私が持っていても大した意味はない物です。寧ろこれは、他の人物が持っているからこそ意味があるような物なので……」

「……中身は何ですか?」

 諦めて袋を受け取ることにして、次は保管方法を考える為にも中身を確認しようとした。が、袋のひもを緩めようとした手は、ランバート様の手によって阻まれた。先程から実力行使が多い気がするのは、きっと気の所為ではないだろう。

「非常時以外に開けないでください」

「そう言われると更に怖いのですが……」

「扱いはそこまで丁寧でなくても大丈夫ですから、店にいる時間は肌身離さず持っていてください。守り石ではどうしようもないような非常事態の時に袋を開ければ、きっと役に立ちます」

 わかりましたか、と聞かれ、首を縦に振る。袋をぎゅっと握りしめると、中には球状の硬い物体が入っていることは分かった。

「これを開けることが無いことを祈るしかないですが……」

 そう言ったランバート様の表情は、逆光になっていて見えなかった。

「そろそろ詰所に戻ります。また、何かあればいつでも言ってください」

「いつも、ありがとうございます」

「では」

 そう言って、ランバート様は店から出ていった。これからどうするべきか、考えることは沢山あるが、まずは目の前の仕事から。そう気持ちを切り替えて、カウンターの椅子に腰かけ、糸と針を手に取った。


次回更新は4月14日17時予定です。

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