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休日返上

「ルイーエ嬢、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫です……」

 ランバート様は素早く部屋に入ってくると、私を背に庇い、使いの男と相対した。突然の展開に驚いたのか、使いの男は暫く呆然としていたが、目の前にランバート様が立ったことで我に返ったようだ。不機嫌そうな表情を浮かべ、ランバート様を睨む。

「誰だ、邪魔をするな!!」

「この地域の警備を担当している騎士の一人です。付近の方々から、見かけない人物が裏口で騒いでいたとの話が寄せられています。詰所の方まで来ていただけますか?」

 使いの男がランバート様に怒鳴るが、こういった相手の対応には慣れているのか、ランバート様は冷静に裏口から入ろうとしたことは認めますか、と確認をした。そんな態度が気に入らなかったのか、男はランバート様の肩を片手で強く押し、体勢を崩したところでにやりと笑って言った。

「騎士風情が邪魔をするな。これを見てわからないか?」

 そして、懐から金色の板状のものを取り出した。よくわからないが、表面には複雑な模様が描かれているので、印籠のような物なのかもしれない。ちらり、とランバート様の表情を見れば、僅かに眉を顰めていた。

「これは……」

「俺はキアン様の使いだ。キアン様がこの店の商品を欲しているから、わざわざこんな所まで出向いたというのに、その店主の対応が悪いから用事が済まないだけだ」

 つまり、裏口での会話が長引いたのも、掴みかかってきたのも、全部私の態度が悪かったから、と言いたいらしい。随分と勝手な主張に感じるが、身分社会ではこういった主張が通用することも確かだ。

「処罰を受けるなら店主の方だろう?」

「…………」

 キアン様、という人物についての知識がないので何とも言えないが、使いの男と似たような性格ならば、私はタダでは済まないだろう。言い返せずに黙っていると、ランバート様が安心してください、と小さく微笑んだ。

「確かに、この身分証はネイジャンの国民であることを示すものですが、貴方がキアン様の使いだという証拠にはなりません」

「今、この国に来ているネイジャンの民はキアン様とその家臣だけだ!!それに、もし他に来ているものが居たとしても、金の身分証は持っていないはずだ」

 会話を聞いている限り、男が取り出した板は一定以上の地位があるものしか持てない身分証なのだろう。どうするのだろう、と二人を交互に見るが、使いは不機嫌そうな顔を、ランバート様は真剣な表情を崩さない。

「貴方が正式なキアン様の使いだとしたら、一人でこの店に来ている筈がないのですが、それについての説明をして頂けるでしょうか?」

「は……?」

「キアン様は、我が国の住人の暮らしぶりも見てみたい、という事で王宮ではなく城下町に滞在されています。しかし、安全を守るためにも幾つかの約束をして頂いているのです。その一つに、屋敷から出る際に護衛を付けさせていただく、というものがあります」

 ランバート様曰く、キアン様が滞在しているのは城下町の中でも貴族邸宅が集まっており、特に治安が良い区域である。その区域は出入りできる者も限られている為、ある程度自由に行動しても問題がない、とのことだ。

「この区域は商業区域、特に、飲食店や小売店が並ぶ区域です。治安が悪い訳ではありませんが、キアン様の身の安全を守るためにも、この区域に来られる際は前日までの届け出と当日は騎士団の護衛を付けることが決まっています」

「つ、使いである俺は、護衛なんて……」

「確かに、キアン様本人が来られる場合でないなら、前日までの届け出は必要ありません。しかし、商業区域に入る際に、騎士に声をかけ、一人は護衛として付けるよう取り決めがされています」

「な……」

 案内役と、文化の違いによる問題を起こさないために、という名目で騎士が共に行動する決まりだったらしい。実際はこういった事態を防ぐための監視も兼ねているのだろうが、その辺りはお互い理解している筈だ。

「つまり、貴方はキアン様の使いでありながら我が国との取り決めを破ったのか、それともキアン様の使いの身分を騙ったのか、どちらかの罪を犯していることになります」

「っくそ!!」

 追い込まれた使いの男は、一目散に逃げだそうとした。が、ランバート様は慌てた様子もなく腰に付けていた丸い球を手に取り、相手に投げた。その球は男に当たる直前にぽん、と音を立てたかと思うと、次の瞬間、ネット状に広がった網が男に襲い掛かった。

「……魔法、ですか?」

「捕縛用の道具です。運びやすいように球状にしてありますが、魔力を込めると一気に広がり、対象を地面に縫い付けます」

「放せっ!!」

「大人しく詰所まで来ていただけるなら、解除しますよ」

 じたばたと暴れる男にそう言いながら、ランバート様は窓に近付き、ハンドサインらしきものを送っていた。外に他の騎士が待機しているのだろう。

「この人は別の騎士に連れて行って貰うとして。ルイーエ嬢、申し訳ないのですが……」

「事情聴取ですよね」

「はい。それとは別に、個人的なお話もあります」

 笑顔を浮かべながらも目が笑っていないランバート様を見て、明日、通常通り営業できるだろうか、と不安になったのだった。


次回更新は4月12日17時予定です。

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