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裏口から音

 花のバレッタを売り始めた翌日も、店は大盛況だった。注文もかなり頂いたので、作業日である今日のうちに出来る限り完成させたい。

「箱の準備をしておかないと」

 作業もしないといけないが、B様がプリンターを改良してくれる日でもある。プリンターの近くにさえ置いておけば良いということで、設置を済ませたら手紙を送る。

「……動くんだ」

 手紙を送るとすぐに、置いていた箱からアームのようなものが出てきた。マジックハンドのようなものは真っ直ぐにプリンターに向かい、カチャカチャと音を立てながら作業を開始した。

「後は放っておいて大丈夫、なのかな?」

 終わったら連絡が来るだろう。一応、此処から離れずにいることにして、椅子に座り直し、糸と針を手に持つ。

「次は、赤い薔薇が4つ」

 くるくると手に糸を巻きつけ、花弁を作っていく。ここ数日で作業にも慣れ、段々と作るスピードも上がっている。この調子なら夕方には作り終わるだろう。早めに終わったら今日は早く寝よう。

「…………あれ?」

 薔薇を1つ作り終え、2つ目に取り掛かった頃。ガチャ、という金属音が聞こえ周囲を見渡す。

「作業が終わった、訳では無さそう」

 文通用の小箱には何も入っていない。プリンターを改造しているアームも忙しなく動いており、その作業の過程で金属音が発生した訳でも無さそうだ。

「どっちかというと、鍵が掛かってる扉を回したみたいな音がしたような……」

 それにしては音が大きかった気がするけれど。音の大きさからして、隣の家か、それともこの家か。

「今はカフェが開いてる時間だから、お隣かな?」

 ジュディさんとカルロさんは仕事中。ソニアちゃんは教会に行っている時間だし、トッド君とターシャちゃんは裏口を使わない。私も此処にいるので、音の原因はこの家の住人ではない。

「作業作業……」

 気を取り直して針を持ち直した時、再び金属音が聞こえてきた。今度は音が荒っぽく、何度もガチャガチャと言う音が聞こえる。ついでに、ジュディさんが何かを言う声。

「隣じゃ、ない?」

 カフェの方から聞こえる、ジュディさんの声。何か、あったのだろうか。道具をカウンターに置いて、慌てて階段を駆け降りて行く。音は、裏口の方からしたはずだ。

「ジュディさん、何が……」

 そっと階段から裏口の方に顔を出すと、ジュディさんが険しい表情で振り返った。

「アユムは部屋に戻っていいよ」

 音量が大きい訳ではないが、鋭い声だった。私は裏口へと近付こうとしていた足を止め、ジュディさんの背後を見る。

「…………」

 そこに立っていたのは、この辺りではあまり見かけない服装の人物だった。顔も隠しているし、何となく、この国の人ではなさそうだ。そう思った瞬間、ランバート様の手紙の内容が頭に浮かび、慌てて自室に戻ろうとした。

「おい」

 が、後ろから呼び止められた。私ではないと思いたかったので、一度は無視したのだが、今度はそこの娘、と低い声で呼び止められ諦めて顔を出す。

「……私、ですか?」

「そうだ。お前、この上にある装飾品店の店主だな?」

 どう答えたものか、と一度考え込む。此処で適当に誤魔化してもいいが、最初にジュディさんと呼んでしまっているし、上にあるのが装飾品店とわかっている時点である程度私やこの家に関する情報を持っている可能性が高い。

「アユム……」

 ジュディさんが心配そうな顔でこちらを見てくるので、大丈夫ですよ、と微笑む。相手は服装や態度からして身分が高い人の使いだろう。裏口から突然入ろうとするくらいなので強硬な手段も辞さないだろうから、下手に誤魔化せば心象が悪くなり、色々と無事でいられる確率が下がるだけだ。

 背を伸ばし、深く息を吸い、出来る限りはっきりとした声で答える。

「確かに私が店主ですが、何か御用ですか?」

 最後に微笑んで見せると、使いの男は不機嫌そうな顔をして一歩近付いて来た。完全に建物の中に入られ、ジュディさんが眉を顰める。

「商品を見せろ」

「申し訳ございませんが、本日は定休日でして……」

 これで今日は帰ってくれないかな、と思いつつ定休日であることを伝える。作業時間が足りなくなるし、何より今はプリンターの改良中だ。店に入られるのは少々都合が悪い。

「もう一度言う、商品を見せろ」

「……畏まりました。少々お待ちください」

 駄目だった。仕方がないので急いで階段を上がり、プリンターと作業している道具だけでも隠してしまわないと。

「……作業、終わってない」

 同時に抱えるのは流石に難しい。手紙を送ってもすぐに止まるとは限らないし、そもそもプリンターを見られたくない。かくなる上は、

「【工房】」

 手に持ったまま工房に入れば、その道具も一緒に移動する。ちゃんと一緒に移動できたことを確認して、慌てて工房から出る。文通用の小箱は引き出しに入れる。

「一応、伝えた方がいいかな……」

「まだ準備ができないのか?」

「申し訳ありません、お待たせしました!!」

 突然の来客につきプリンターを移動させました。とだけ書いたメモを箱に入れ、入り口を開けに走った。

次回更新は4月10日17時予定です。

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