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多分、大丈夫

 ランバート様の手紙に書かれていた内容は、半分はB様の伝言と一緒だった。しかし、後半に書かれていた内容は予想外のものだった。

「極力、目立たないように生活してください……?」

 現在王都に滞在している人は、他国の偉い人ではあるが、色々な事情があって王宮ではなく城下町にある貴族邸宅の方に滞在していること。そして、あまり大々的には言えないが、城下町の市場や店に顔を出す可能性があるという事だった。

「なので、王都で働く騎士や魔法使い、文官も皆、気を張っています……」

 それはそうだろう。相手に何かあったら国際問題に発展しかねないというのに、一番安全な王宮の中には留まってくれないのだから。私はまだ王都暮らしに慣れておらず、道に迷ったりする可能性がある。今の時期に王都に不慣れな様子を見せると疑われるので出歩かない方が良い、という事だろう。

「できれば店の活動も控えめにしてほしいですが、恐らく無理だと思うので、魔法付与をした物だけは人目に触れないように気を付けてください、か」

 魔法の研究所が幾つもあって、魔法を生業としている人も多いこの国でさえ、魔法付与をした物は珍しいと言っていた。確率はゼロに等しいが、万が一でも見られると面倒なことになりかねないので気を付けてほしい、と繰り返し書かれていた。

「トッド君とターシャちゃんにどうやって説明したらいいかな……」

 相手がかなり魔法に長けていない限り、三人に渡した虹色の指輪の効果には気付けないらしい。が、護衛として魔法使いを連れている可能性は高い。その為、外に着けて出ないように伝えておいてほしい、と書かれていた。

「滞在が長期間になると流石に言い訳も難しくなる気がするな……」

 取り敢えず、テグスが切れかけていないかの確認をする、という名目で三人の指輪を預かることにしよう。店の活動については、暫く新商品を出さずにしていればそこまで目立たないだろう、と結論付けて、返事を書くことにした。

「これで良いかな」

 ぱたん、と小箱の蓋を閉じる。返事を待つ間に、少し作業をしようかな、と思って糸と針に手を伸ばす。が、すぐに箱から音がした。どうやら、もう返事が来たらしい。

「早い……」

 返事には簡潔な文が幾つか並べられており、次の休みの日にプリンターを改良することになった。また、店の活動方針も簡単に伝えておいたのだが、其方に関しての反応は特になかったが、ランバート様へ伝言してくれると思う。

「……そういえば、魔法使いと魔導士の違いって何だろう」

 ランバート様の手紙には魔法使い、という単語が用いられていた。一方で、魔法研究所に行った時には魔導士様に出会った。意味の違いはあるのだろうか。

「B様に聞いてみようかな」

 そう思ったが、送られてきた返事を見て、やめた。簡潔な文章をすぐに返す、ということはかなり忙しいのだろう。急ぎではない、あまり重要でない質問に時間を割く余裕はない筈だ。

「受注の書類は……、部屋か」

 私も作業に戻ろう、と道具を持って店を後にする。自室に入る直前、カタン、と音がしたが、風で窓枠が揺れただけだった。


 翌朝。カフェの開店と同時に聞こえてきた足音に苦笑しつつ、店の扉を開ける。

「いらっしゃいませ」

「おはようございます、店主さん。商品の受け取りは……」

「此方です。デザインを描かれる方は、こちらのテーブルに紙と筆記用具を準備しておりますのでご利用ください」

 注文をするお客さんが多いことは予想できていたので、今日は最初からテーブルを一つ使ってデザイン案を描くスペースを作っている。その間に、既に完成した商品を渡すことでお客さんの待ち時間を減らす作戦だ。

「店主さん!!」

「ラウラさん、ドナートさん。いらっしゃいませ」

何人かのお客さんへの引き渡しが終わった後、ラウラさんが店にやって来た。注文されたバレッタと同じ花で作られた花束を左手に、右手はドナートさんと手を繋いでおり、幸せです、という感情が見ているだけで伝わってくる。

「見てください。思い出の花束をイメージして作って貰ったら、幸せな思い出が増えました」

 店に入ってくるなり、ラウラさんは私に花束を見せてくれた。余程嬉しかったのだろう。良かったですね、と返すと、照れ臭くなったのかドナートさんに早くバレッタを出すよう言われてしまった。

「此方です」

「わあ、素敵です!!」

「喜んで頂けて何よりです」

 早速着けてもいいですか、と聞かれて頷く。すると、ドナートさんが無言で私の方に手を出した。これは、渡せ、という事だろうか。

「俺が着ける」

「ありがとう、ドナート。ねえ、今日はこのままデートしない?」

「そうだな」

 ラウラさんがカウンター横に置いておいた鏡で髪型を確認している間に、そっとドナートさんに代金を渡される。少し多めの額だったので慌ててお釣りを出そうとすると、小声で素晴らしい商品に対するお礼ですので、と言われた。

「ラウラ、行こう」

「ええ」

 そして二人は手を繋いで店から出ていった。二人の姿が完全に消え、短い静寂が流れた後、先程までデザインを描いていたお客さん達が一斉に立ち上がり、私の方に詰め寄ってきた。

「「「注文、お願いします!!」」」

「すみません、商品をお渡しできるのが早くても四日後になるのですが……」

「「「大丈夫です、よろしくお願いします!!」」」

 どんどんと目の前にできていく注文待ちの列を見て、目立たずに営業するのは暫く難しいかもしれないです、と心の中でランバート様に謝った。


次回更新は4月9日17時予定です。

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