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2通の手紙

 今日は朝から大盛況で、かぎ編みの花の注文も殺到した。既に今夜一晩では作り切れない数の注文を受けているのだが、今日注文してきた人は熱心に商品を見ていた人の半分程度で、残りの半数は花の種類や色の確認をしてから明日改めて注文に来るとのことだった。

「明日も同じくらい忙しかったら、作る時間は殆ど取れないから、明日注文を受ける人は早くても四日後の引き渡し……?」

 注文を受けた数と一つの作品を作るのに必要な時間を計算していく。明日と明後日は通常の営業日で、三日後はカフェが休みの日なので一日作業に充てる。休みの日に作れば完成はするだろうが、引き渡しが若干遅くなってしまうだろう。

「……困った」

 もう少し作るのが早ければ、いや、一定以上の完成度を保つにはどうしても時間が掛かる。頭の中でそんなことを考えながら夕食の準備をしに2階のキッチンに入ると、既に調理に取り掛かっていたジュディさんが明るく声を掛けてきた。

「アユム、今日は大盛況だったじゃないか」

「はい。昨日から店に出した新商品が人気のようで、沢山のお客様が来てくださいました」

「お陰でカフェも盛況だったよ。それにしても、新商品って何を売り出したんだい?」

 ジュディさんに聞かれ、かぎ編みで作った花について説明をする。元々流行していた、あの青い糸を使用していることもあって注目を集めたのだろう、と言うと、それだけじゃないだろう、とジュディさんは笑った。

「贈り物と言えば花だからね。どんな人にも、花にまつわる忘れられない思い出はあるだろうけど、花はいつか枯れる。それを含めて花は綺麗だけど、思い出の花を形として残して置けるなら、気になるって人は多いだろうさ」

「ですが、花をモチーフとしたものは他にもあると思うのですが……」

 それこそ、他の宝飾品店などでは花の形を模したペンダントや指輪を売っていたし、刺繍のモチーフとしても一般的だ。貴族でもない限り普段から刺繍をする、という人は少ないかもしれないが、贈り物の時などは自分で刺繍をする人は多いと聞いた。

「確かに、刺繍はするけれど、立体的で本物に近い花、っていうのは今までなかったと思うよ」

「そう、なんですか?」

「私が知らないだけかもしれないけどね。編み物はあくまでマフラー、帽子、セーターとかの実用的なものを作るだけだったから、アクセサリー用の花を作るっていうのは馴染みが無いね」

「成程……」

 そして何より、私の店は装飾品店の中では圧倒的に価格が安いものが多い。そう言った要因もあったのだろう、とジュディさんは言う。

「まあ、忙しくても、アユムが辛くないなら頑張ってみると良いよ」

「はい」

 しっかりと頷くと、なら頑張りな、と肩を軽く叩かれた。頑張れるところまで頑張ってみよう。辛くなっても、ジュディさん達はきっと相談に乗ってくれるだろうから大丈夫だ。

「取り敢えず、早く作ってしまおうか」

「そうですね」

 これ切っておいて、とまな板を示される。よし、と気合を入れ直し、キャベツのみじん切りを始めたのだった。


「あ」

 夕食を終え、自室に戻る途中。店の前を通り過ぎようとして、糸と針をカウンターの上に置きっぱなしにしていることを思い出した。

「今日、全く暇がなかったな……」

 そう言いながらカウンターに入り、糸と針を回収すると、アンティークの小箱が目に入る。此方の事も完全に忘れていた。開店前に手紙が来たのに、返事が遅くなって申し訳ない。そっと小箱を開けると、中には黒い封筒が2通入っていた。

「……下の方にあるのが一回目の手紙?」

 ポストだったら上に積み重なってくので、取り敢えず下にある封筒を開ける。中には便箋が1枚入っており、書かれている内容は予想通り、プリンターの改善案を思いついたので次の休日にでも改造したいから都合のいい時間を教えてほしい、との内容だった。

「大きな箱を置いておくだけなら、作業をしながらで大丈夫かな」

 食事時を外せばいつでもいいだろう。次に、上にあった封筒を手に取り、開けようとしたのだが、持った瞬間に先程の封筒と比べ、物凄く分厚いことに気付く。中に入っている紙が固くて膨らんでいる、という感じではない。確実に、複数枚の便箋が入っている。

「嫌な予感が……」

 そっと封筒を開けると、中には色の違う便箋が入っていた。片方は先程と同じ、ごく一般的な紙だが、もう一つ、数枚の便箋を纏めて折ってある方は薄い桜色になっており、どうみても高級そうな紙だ。

「えっと……」

 まず普段の紙の方を見ると、B様からの伝言だった。今、他国の偉い人が王宮に来ている為、警備の仕事が増えてランバート様は暫く店には来ない、とのことだ。それは仕方がないな、と思いつつもう一つの手紙を開くと、B様とは違う筆跡の字が並んでいた。

「ランバート様から?」

 成程、目と同じ色の紙だな、と思いながら内容に目を通す。顔を出せないことに対する謝罪から始まった手紙には、私にとって、予想外のことが書かれていたのだった。


次回更新は4月8日17時予定です。

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