編み物の花
「【工房】」
店を閉めると同時に工房に入り、テーブルの上に針と糸を並べる。想像以上に花のモチーフが人気だったため、使えそうな糸がどの程度あるのかを確認しなくてはいけないのだ。
「フープイヤリング系を作ろうと思ってたけど……」
そっちは落ち着いてからになりそうだ。色とりどりの糸で飾り付けられたフープイヤリングは、服に合わせて使いやすい。単純に編むだけではなく、模様も入れることができる。
「モチーフ繋ぎでブレスレットとかもやりたいな……」
また、雪の結晶のようなモチーフをビーズとビーズの間を繋ぐパーツとして使うのもいい。そんなことを考えているうちに、テーブル上に糸を並べ終えた。
「ビーズを入れても可愛いな」
糸にビーズを通しておけば、モチーフにビーズを入れて作れるのだ。花弁の端だけビーズを入れると印象が一気に変わる。
「基本の10色に、貰った青い糸。パステルカラーとダークカラーも少しある」
沢山の糸の中から、緑系の色を分けて置く。パステルカラーの中に入っていた若緑色、ダークカラーの中に入っていた深緑色、そして、基本の色に入っていた黄緑色と緑色。
「4色か……」
欲を言えばもう少し種類があった方が実際の植物に近い色の組み合わせができるだろうが、ないものを言っても仕方がない。
「取り敢えず……」
植物には欠かせない、葉っぱを編んでいく。色々な編み方があるが、今回は簡単な、鎖編みをして周りを細編み、中長編み、長編み等で編んで形を作る方法にした。
「葉の形を少しずつ変えて、何個か作って展示しておけばいいかな」
丸めの葉っぱ、細めの葉っぱ、先端が細くなっている葉っぱ。大きさも少しずつ変えて、4色の糸で1枚ずつ葉っぱを作る。
「よし」
『アイテム:かぎ編み葉っぱ 製作完了』
『【工房】スキルポイント20獲得』
『【編み物】技能ポイント20獲得』
葉っぱは1枚あたり5ポイント貰えるらしい。試作品ができたところで、夕食の準備をしなくてはいけない。朝食の準備ができなかった分、しっかり働かなくては。
「ご飯を食べたら花も作ろう」
赤、オレンジ、黄色、ピンク。紫、青、水色、白。花に使える色はたくさんある。何から作ろうかな、と足取り軽く工房から出た。
細編み、鎖編み、中長編み、長編み、長々編み。くるくると糸をかぎ針に巻きつけ、輪を作り、引き抜く。リズム良く繰り返される単調な作業で、段々と作られていく花の形。
「よし、完成!!」
深夜、日付が変わって暫く経った頃。思いつく限りの花モチーフを作成した私は、完全に寝るタイミングを逃していた。
「途中から時計見るのをやめたけど、冷静になると凄い時間になったな……」
11時を過ぎた辺りで、ワーカーズ・ハイに近い状態になり、眠気よりも創作意欲が大幅に勝ってしまったのだ。
「手が痛い……」
ずっと編んでいたので微妙に手が痛い。お陰で薔薇やビオラ、フリージアやシロツメクサなど、様々な花がテーブル上に咲き誇っているのだが、現在の時計は3時を指している。
「今から寝たら絶対に起きられない気がする」
かと言って、寝ないと体力的に辛い。が、一番疲れる作業であるポップの作成が終わっていないのが致命的である。あれは魔力と集中力を同時に使うからか、物凄く疲れるのだ。
「……先にポップを作って、工房に戻ってアラーム掛けるのが確実かな」
仕方がない、と作品を抱えて工房から出て、そっと自室の扉を開ける。他の人達を起こさないように、物音を出来るだけ控えめに店に移動し、カウンターに入る。
「作った花と葉っぱのイメージ……」
テーブルの上に葉っぱと花を並べ、それらを見ながらイメージを固めていく。小さな編み目まで正確にイメージが出来たら、プリンターで印刷する。
「ふぅ……」
どれだけ似せても、編み物なので作品には実際の植物にはない編み目ができる。完成してから想像と違う、と言われない為にも極力作品の見た目通りに印刷したつもりだ。
「後は糸のサンプル……」
花の色を考えるための色見本を貼らないといけない、が。
「駄目だ……、目が開かなくなってきた。寝よう」
印刷した紙と実物を見比べ、中々の出来栄えに満足していると目が限界を迎えた。長時間細かいものを見続けていたので乾燥したのだろう。壁を手で確認しながらベッドに横になり、そのまま工房に入る。
「わ」
横たわった状態で工房に入ったからか、いきなり目の前に畳があらわれたかと思うとそのまま顔から叩きつけられた。大して痛くないが、既に起き上がる気力もない。
「……そういえば、前より体は疲れた感じがしないな」
プリンターを使ったのに、全身が重くなるような疲労感はない。目はもう少しも開けていられないけれど。
「もしかして、魔力の扱いが上手くなったのかも」
魔力も、技術も成長してるといいな。この世界で生きていく術を得たと言うことだから。と思いつつ、そのまま意識を手放した。
次回更新は4月6日17時予定です。