表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/218

マフラー、その後

 不審人物騒動の後始末は騎士団が行ってくれるとのことで、私とラウラさん、ドナートさんの3人は帰っていいことになった。

「後は騎士団だけで対応できるだろう」

「はい。お任せください」

 そう言って魔導士様は書簡を幾つか取り出し、騎士に渡した。もう帰る気なのだろう。お礼を言わなくては、と慌てて立ち上がる。

「あの、魔導士様。この度は誠にありがとうございました」

「ルイーエ嬢の説得なしに協力する気もなかったので、お気になさらず。事態解決は貴女の功績だ」

「いえ、そんな……」

 お礼を言おうと思ったら予想外の返答がきた。少しの間言い淀んでいると、ああ、と何故か魔導士様が頷いた。

「ついでだ、ルイーエ嬢。家まで送ろう」

「え」

「一人歩きするには暗い。それに、店を持っているなら一刻も早く帰った方がいいだろう」

 確かに、店のことを考えると出来るだけ早く帰りたい。ラウラさんとドナートさんの方を見ると、大丈夫ですよ、と頷かれた。

「お願いします」

「家の場所を出来るだけ詳細に思い浮かべたら手を此方に」

「はい」

 差し出された手に自分の手を重ねれば、独特な浮遊感がする。ふわり、とカフェの前に着地するとローブの中で何かが音を立てた。

「あ」

「何か忘れ物でも?」

「いえ、これは、どうしたものかと……」

 音を立てたのは、研究所に行く間の灯りとして貰ったガラス玉だった。返却不要とは言われたが、普段夜に出歩く事がないので見張り番の人が持っていた方が良いだろう。

「……使えるのか?」

「はい。一応……」

 目の前で軽く光らせてみると、魔導士様は少し考えるような素振りを見せた。暫く光らせていても何も言わなかったので、使い方が間違っているわけでは無さそうだ。

「持っておくと良い。何かと役に立つだろう」

「そう、ですか」

「では」

 そう言い残すと、魔導士様は姿を消した。研究所に帰ったのだろう。それにしても、謎の多い人だった。

「……早く寝よう」

 結局、ガラス玉は返却されることなく私の物になった。折角なので存分に活用しようと思い、ガラス玉で周囲を照らしながら部屋に戻った。


「「アユムー!!」」

 どす、と腹部に衝撃を受けて意識が急浮上する。重たい瞼を何とか開くと、トッド君とターシャちゃんがベッド横に立ち、私の腹の辺りをバシバシ叩いていた。

「トッド君、ターシャちゃん、おはよう……」

「「おはよ!!」」

 いつもは私の部屋まで入ってくることは少ないのだが、昨日、深夜にひっそり帰って来ているので、心配してくれたのだろうか。

「朝から元気だね」

「うん!」

「じゃあ、あとで!!」

 頭を撫でると満足そうに笑って二人は走っていった。本当に起こしに来てくれただけらしい。

「アユムさん、お帰りなさい!!」

「ソニアちゃん。ただいま」

 体を起こし、軽く伸びていると僅かに開いていた扉の隙間から、ソニアちゃんが顔を出していた。にこにこと笑顔を浮かべたまま、側まで寄って来た。

「アユムさん、昨日、マフラー渡したんですけど」

「そうだったね。丁度入れ違いになって……」

 ジュディさんへの伝言はしたのだが、結果を聞いていないのだった。この笑顔を見る限り、悪い結果ではなかったのだろう。

「受け取って貰えました!!それに、思ったより気に入ってくれたみたいで、今度お返しで一緒に出掛けることになったんです!!」

「良かったね」

 手作りのマフラーを渡しに行くソニアちゃんの勇気も中々だが、お返しにデートとは、相手もかなり好意的なのではなかろうか。

「お出掛け、楽しみだね」

「はい!!あ、でも、おとうさんには言ってなくて……」

 頬を染めて頷いたソニアちゃんの声が段々と小さくなっていく。父親に言いにくいのはわかるが、まだ伝えていなかったらしい。

「何も言ってないの?」

「はい。渡したことも、お出掛けすることも、何も……」

 とはいえ、お出掛けとなると誰と、何処に行くのか聞かれるのではないだろうか。

「ジュディさんには?」

「昨日、帰ってすぐに言いました」

「その時の反応は?」

「『よかったね』って言われました」

 なら、ジュディさんにだけ伝えておけば誤魔化してくれるだろう。同じような経験があるジュディさんは、ソニアちゃんにとって心強い味方になると思う。

「……そういえば、ソニアちゃん」

「はい」

 良い報告を聞いていてすっかり忘れていたことがある。私を起こしに来たトッド君とターシャちゃんは、既に着替えていたはずだ。

「トッド君もターシャちゃんも起きてるってことは、今、何時くらい?」

「……朝ご飯は食べ終わって、おかあさん達は開店準備してます。アユムさん、疲れてるだろうけどお店があるから、ご飯食べ終わったら起こしに行くように言われてて」

 つまり、開店時間まで殆ど余裕はないということだ。慌ててベッドから降りると、ソニアちゃんが扉を開けてくれた。

「朝ごはんはテーブルに置いてあります。後で私が片付けるのでキッチンに置いてください」

「えっ、ごめん、ありがとう!!ご飯作る時間に起きれなくて申し訳ない……」

「編み物教室のお礼ですから!!」

 ほらほら早く、と背中を押されて、慌てて階段を駆け降りる。今日からまた、通常どおりの営業再開である。

次回更新は4月3日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ