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呪いの証明

 扉をノックする音が聞こえて、ベッドから体を起こす。体を起こし、髪などを簡単に整えるには十分な時間を置いてから、外から声を掛けられる。

「ルイーエ嬢。結果が出ました。今から奥の部屋で話をするとのことです」

「ランバート様、ありがとうございます」

 もう結果が出ているとは驚きだ。扉を開けて廊下に出ると、やけに人気が少なくなっているように感じた。夜だから最低人数しか残していないのかもしれないが、魔導士様と一緒に此処に戻ってきた時よりも人が減っている気がする。

「ルイーエ嬢、此方です」

「……はい」

 その事を疑問に思いつつも、案内された通りに奥の部屋へと入る。部屋の中央ある長椅子にはラウラさんとドナートさんが座っていた。向かい合うように魔導士様が座っており、部屋の入り口には騎士が一人ずつ立っている。

「店主さん」

「此処に座っても大丈夫ですか?」

「勿論です」

 私はラウラさんの隣に座り、ランバート様は魔導士様の隣に座った。全員が揃ったことを確認すると、魔導士様が咳払いを一つしてから話を始めた。

「今回、呪いが掛けられていた痕跡について調べたわけだが、簡単に結論から言おう」

 ごくり、と誰かが固唾を飲んだ。長々しい前置きをせず結論から言うあたり、魔導士様はかなり研究者気質なのだろう。まだ心の準備ができていないのか、ラウラさんはかなり不安げな表情だ。

「そこに座っている男に呪いが掛けられていたのは、紛れもない事実だ」

「では……」

「他者から認識されず、不審人物扱いされていたことに関して、本人に非はない」

 魔導士様が断言する。呪いが掛かっていたこと、その効果によって認識できなくなっていたことは証明できたらしい。ラウラさんとドナートさんの表情が一気に明るくなる。これで詰所から帰ることができる。そう思った時だった。

「罪に問われないことは確かだが、すぐに帰らせるわけにはいかない。もう暫く此処で待機してもらう」

「何故ですか?」

「これ以降は厳密に言うと此方の仕事ではないが……」

 ちらり、と魔導士様がランバート様の方を見た。恐らく、これ以降は騎士団側の仕事という事だろう。とはいえ、魔導士様も関わりがない訳ではない、となると、内容に予想がつく。

「……国として、ドナートさんへの補償をどうするかを決定しなければならないという事ですか?」

「その通り」

 魔導士様が頷いた。騎士の数が少ないように感じたのは、王城への伝令に行っているからなのだろう。

「店主さん、それは、どういうことですか?」

「ドナートさんが呪いに掛けられたのは、国境警備の任務中の事ですよね?」

「はい」

「その間、ドナートさんの安全を守る責任は、国境警備隊の隊長ひいては国にあります」

 国境警備の仕事をするのは、街から選ばれた訓練も受けていない若者。国もそれを理解した上で、無理のない仕事を与えていたはずだ。だが、運悪くドナートさんの任期中に野生動物が大量発生し、見回りの間に駆除も行うことになった。

「調査報告を聞く限り、あの付近の森は神隠しに逢う事で有名らしい。地元の人間でも霧の日は近付かないそうだ」

 いつの間にか手に書簡のような物を持っている魔導士様が言う。とはいえ、地元の人間は対処法も知っているようだから、数日で行方をくらませた人間が戻ってくるらしいが、と更に付け加えた。認識されることで呪いが薄れるなら、自分の街に戻れば当然呪いの効果が切れるからだろう。

「ということで、元々、呪いの兆候がある場所に何も知らない国境警備の若者を向かわせ、決して短くない時間を使わせた責任を、この国は負わなくてはならないという事だ」

「なら、彼は……」

「何度も言わせるな、時間の無駄だ。何の罪にも問われない。謝罪するのは国の方だ」

 魔導士様は今にも涙を零しそうなラウラさんに、ぶっきらぼうに言った。ラウラさんは下を向き、肩を震わせる。ドナートさんは無言でその背を擦った。

「……来たか」

 魔導士様が呟くと、詰所の入り口が開け放たれる音が聞こえ、此方に向かって慌ただしい足音を立てながら誰かが近付いてきた。入り口に立っている騎士が一瞬身構えたが、ランバート様が苦笑気味に扉から離れるように指示をしたので、不思議そうな顔をして言う通りに一歩離れた。

「ご、ご報告!!」

 次の瞬間、扉が外れそうな勢いで開けられた。そして息を切らした騎士が胸元から書簡を取り出し、倒れこむようにランバート様に手渡す。王城からの返事だろうか。ランバート様は入り口の騎士に言って伝令役を仮眠室に運ばせた後、無言で書簡を広げた。

「……今回の件では、国は全面的な非を認め、王都を騒がせた不審人物の件は不問とするとのことです。また、行方不明となった日から本日まで、通常の生活が行えなかったことから、国境警備の仕事を行っていたものとして金銭的な補償を行う、と」

 目的である、無罪の証明が達成された。呪いが掛かっていた期間の給料も払われるのなら、二人が地元に戻って生活することも可能だろう。これで一件落着かな、と抱き合う二人を見て微笑んだ。


次回更新は4月2日17時予定です。

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