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深夜の移動

「呪いの痕跡を、調べることは可能でしょうか?」

 できる限り簡潔に用件を述べる。すると、目の前の魔導士様は僅かに体を揺らした。何かおかしい事を言っただろうか。

「何のために?」

「現在、騎士団の詰所に拘束されている人の無実を証明するため、ですかね」

 そう言うと、少し考えるような素振りを見せる。用件を述べたときに比べると微妙な反応だ。

「それだけか?」

 これは、多分、善意だけで態々研究所まで来たのか、という意味だろう。これは、思っている事を全て、正直に答えたほうがよさそうだ。

「後は、興味ですね。何故、私たちと会話した事で呪いが解けたのか。そもそも呪いとは何なのか。解けてしまった呪いを証明するとはどういうことなのか、と言った知的好奇心がないとは言いません」

「成る程。では次に」

 詳しい状況と、呪いについての現時点での考察を、と言われた。取り敢えずは話を聞いてくれるらしい。

「……と言う事で、本日、騎士団の詰所に状況を伝えに行き、現在は事情聴取のために詰所で待機しています」

 先に状況だけ簡潔に述べ、言葉を切ると、無言で続きを促される。専門の人に考察を述べるのは勇気がいるが、言わなければ引き受けてくれないという、確信があった。

「呪いについて専門外なので、突飛な話かもしれませんが」

「構わない。呪いについてはわかっていない事も多い。凝り固まった視点では見えない事もある」

「では。現時点では呪いは認識に関するものだと考えています」

 そう判断した材料を引き合いに出しながら、丁寧に説明をしていく。お互いに顔の認識ができていなかった事と、知り合いと話す事で徐々に認識できるようになった事からそう考えた、と。魔導士様は途中で遮る事も、頷く事もなく私の話をただ聞き続けた。

「ということで、呪いだと判断し、此方を紹介して頂きました」

「そうか」

 最後まで説明すると、小さく頷きながらそう言われた。声音は穏やかに聞こえる。反応を見る限り、そこまで悪い説明ではなかったのだと思う。

「その考察は、凡そ合っていると思う。実際に見てみない限りはわからないが」

「それでは……」

 引き受けてくれる、と言うことだろうか。ぱっと顔を上げ、魔導士様の方を見ると、僅かだが笑ったような気がした。

「ああ。見に行こう」

 そう言うと、魔導士は私に手招きをした。近くに寄れ、ということらしい。言われた通り少しだけ近付くと、もう少し、と言われた。

「このくらいですか?」

「いや、もう少し……」

 思ったよりも近付かないといけないらしい。少しずつ近付いていると、面倒になったのか魔導士様の方から一気に距離を詰めて来た。

「失礼」

「え」

 突然肩に手を置かれたかと思えば、ふっと足元が消えるような感覚がする。驚いて反射的に目を閉じる。

「到着した」

 そう言われると同時に肩から手が離れていく。恐る恐る目を開けると、見覚えのある詰所の前に立っていた。

「え……?」

「対象者は中にいるのか?」

「あ、はい。そのはずです」

「そうか」

 スタスタと歩いて中に入って行ってしまった魔導士様を追いかけ、私も詰所の中に入る。扉が開いた音で気付いたのか、奥の部屋からランバート様が顔を出した。

「これは……」

 魔導士様と私の顔を見ると、ランバート様は信じられないと言ったように目線を交互に動かした。そして、魔導士様に向かって何か言おうとしたのだが、片手で制された。

「この件を引き受けることにした。呪いを掛けられた可能性がある人物は、この中か?」

「そうです。他の騎士には私から説明して来ます」

「任せた。ルイーエ嬢は休ませた方がいいだろう。時間が時間だ」

 そう言うと、魔導士様はラウラさんとドナートさんが待っている部屋の中に入って行った。

「あの、ランバート様」

「どうかしましたか?」

「私にお手伝いできることはありますか?」

 魔導士様にはああ言われたが、自分だけ待っている訳にはいかないだろうと思い、声を掛けるが困ったように眉を下げられた。

「大丈夫ですよ。研究所まで歩いて疲れたでしょうし、もう遅い時間ですから休んで下さい。仮眠室もありますから」

 そう言って一つの部屋を指し示される。これは言っても引いてくれそうにないかな、と大人しく従うことにする。

「わかりました。少し休ませて頂きます。何がわかれば起こしてください」

「勿論です」

 仮眠室は簡単なベッドが幾つか置かれているが、今は利用者がいないようだった。有難く一番奥のベッドに横になる。

「思ったより、疲れて……」

 気疲れしていたからか、すぐに意識が薄れていく。瞼が上がらなくなり、すぐに眠りに落ちた。


「引き受けてくださるとは思っていませんでしたよ」

「……話を聞いた時点では、引き受ける気はなかった」

「では、何故気が変わったのですか?」

「……彼女の視点は面白い。前回の件も、今回の呪いの考察もだ。その考察の検証をするのは悪くないと思っただけだ」

「そうですか。それで、結果は……」

「ああ。今回の原因は……」

次回更新は4月1日17時予定です。

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