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黒の招待状

「店主さん!!」

 詰所の入り口から走ってきたラウラさんは、私の前で立ち止まると肩で息をしながら顔を上げ、目を合わせてきた。眉は下がり、目には僅かに涙が浮かんでいる。これは、良くない知らせだろう。

「駄目、でした。拘束されるわけではないようですが、今、騎士様方から取り調べを受けています」

「そうですか……。私もすぐに向かった方が良いでしょうか?」

「いえ……。現時点では、私たちの話は聴いてもらえそうにありません」

 話を聞いてもらえるとしたら、ドナートさんからの話がすべて終わってからになるだろう、とラウラさんは言った。それも、何か嘘を吐いていないか、発言に齟齬がないかの確認である可能性が高い。

「呪いについての話をするとは思うのですが、それを信じて貰えるかどうか……」

 ラウラさんは不安そうに言い、詰所の方を見つめた。これは、ランバート様が言った通りの展開になってしまったようだ。このままでは、ドナートさんは何時になったら証明されるかわからない身の潔白が確認されるまで、詰所に留められてしまう。

「ラウラさん。落ち着いてください」

「でも……。折角、再会できたのに……」

「呪いの事さえ証明できれば全て解決しますから」

 はらはらと涙を零し始めたラウラさんにそっとハンカチを差し出し、背中を擦る。目の前で恋人が騎士に連れられて行った光景が衝撃的だったのだろう。一度堰が切れると次から次へと涙が溢れるようで、ラウラさんはハンカチで片目ずつ抑えながら私の方を見上げた。

「呪いについて、何か手掛かりはないでしょうか……」

「……あると言えばあります」

 ただ、本当に呪いを証明できるのか。そもそも、協力してもらえるかは確証が持てないので、ある、とは言い切れない。それでも今の彼女にとっては救いの一言に聞こえたようで、勢いよく両肩を掴まれた。

「本当ですか!?彼の為ならなんだってしますから、教えてくださ……」

 あまりの必死さに体が前後に揺さぶられた。かと思えば、彼女の後ろに大きな影が現れた。その人物は、私の肩に乗っていた彼女の掌をそっと外すと彼女に向かって小さく一礼をし、穏やかな声音で言った。

「それについては私の方から説明させていただくので、ルイーエ嬢から手を放して頂けないでしょうか、レディ」

 ランバート様だ。突然、輝く金髪の騎士に話しかけられたラウラさんは相当驚いたのか、あっさりと私から手を離した。

「き、騎士様がどうして此処に……」

「先程から話題にされていた、呪いの証明についての話をする為です」

 ルイーエ嬢、此方を。と、ランバート様から真っ黒な封筒が差し出された。特に蝋で封をしてあるわけではないようで、ペーパーナイフが無くても簡単に開けることができた。

「簡単に事情を伝えたところ、話だけなら聞くと時間と場所を指定されました」

「ど、どういうことですか?」

「其方の騎士様……、ランバート様に頼んで、呪いを掛けられていたことを証明できる方を紹介して頂いたのです」

 とはいえ、上手く事情を話さないと協力してくれるかはわからない。しかし、これで少し希望が見えたと言えるだろう。

「……夜、赤い星と月が重なる時間に、研究所、ですか」

「女性に夜中、外出をさせることになってしまうのですが……」

「お願いをする立場ですから、お相手の都合のいい時間に合わせます」

 文通相手(仮)のB様も、夜の方が連絡を見るまでが早いと言っていたので、魔法を扱う職の方は夜型の人が多いのかもしれない。なので研究所に伺うのは良いが、問題は、ドナートさんの疑いを晴らすのは早くても今日の夜以降になってしまうという事だ。

「ラウラさんには少々待ってもらうことになりますが……」

「……不安でしたら、恋人と一緒に過ごせるようにして貰いましょう」

「本当ですか?」

「はい。とはいえ、完全に二人で過ごせるわけではありませんが……」

「構いません」

 という事で、ラウラさんは取り調べが終わり次第、ドナートさんと一緒に詰め所で待ってもらうことになった。ランバート様も二人が一緒に過ごせるように取り計らう為にも、詰所に戻ることになる。

「ルイーエ嬢、紹介状についてわからないことはありますか?」

「そう、ですね……」

 時間はわかる。今の時期だと赤い星と月が重なるのは夜の10時くらいの事だ。研究所に到着してからの行動についても書かれているので大丈夫だ。なので、研究所にさえ辿り着ければどうとでもなるのだが、問題は、その研究所の場所である。

「研究所って、何処にあるんですか?」

 研究所、と言っても、王都には沢山の研究所がある。詳しくはないが、魔法に関する研究所も複数あったはずだ。指定されている研究所、というのはそのうちのどこなのかがわからない。

「あ、そう言えば伝えていませんでしたね。指定されている研究所は、国立魔法研究所です」

 国の魔法研究の最高峰である。そして、その研究所は、私が逃げ出してきた、王宮の中にあるのだった。


次回更新は3月29日17時予定です。

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