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気さくな店主

 女性に案内され、建物の三階部分に移動する。2階に家族で住んでいるだけあって、かなり広めの作りになっている。

「キッチンとか、生活に必要な設備は一通り揃ってますよ。1人で暮らす予定なら、使わない部屋もあるでしょうから規模の小さい店なら開けるかと。置いてある家具は自由に使って頂いて大丈夫です」

「ありがとうございます」

 水回りは階段から遠い場所に纏められているので、出入りのことも考えると階段横の部屋を店にしたら丁度良さそうだ。家具をそのまま使っていいのもありがたい。

「うちとしては、決まり次第いつでも住んでもらって構わないですけど……」

「あ、では、今日からでも大丈夫ですか?」

 まだ日は暮れていないし、今から布団だけ買い換えれば十分だろう。荷物も今全て持っているし、宿の女将さんにも気に入ったら戻ってこない、と伝えてある。

「私が言うことじゃないかもしれないけれど、そんなに簡単に決めて大丈夫なのかい?」

 驚いたのか、女性が少し崩れた口調で確認してきた。店を開くなら色々見て回るのが普通なのだろうが、私は伝手も信用もない。此処以外に住ませてもらえるかも怪しいのだ。住めるのなら、多少家賃が高くても問題はない。

「はい。他に宛ても無いですし、設備にも不満はないので。後、今からお世話になりますし、話しやすいようにしていただければ……」

「それなら遠慮なく。空いてて良いことはないし、其方がいいならいいけど……」

「ご挨拶が遅れました、私は類家……」

 言いかけて、ふと思い出す。この国では、ファーストネームを先に名乗るのではなかったか。

「……アユム、ルイイエです」

 フードを取って頭を下げる。すると、女性は目を丸くした後、朗らかな笑顔を浮かべて言った。

「薄々思ってたけど、若いお嬢さんだったんだね。私はジュディ・オルド。よろしく、えっと……」

「アユム、と呼んでください。ルイイエ、は発音しにくいですよね」

 女だからと断られることもなく、笑顔でジュディさんは右手を差し出してくれた。私も右手を出し、しっかりと握手をする。

「よろしく、アユム」

「此方こそよろしくお願いします」

 賃貸契約が完了したところで、家賃について尋ねたのだが、店が成功してからで良いと断られてしまった。申し訳ないのでいつでも払えるようにある程度のお金を残しておき、早速開店準備をすることにしたのだった。


「早速出掛けけるのかい?」

「はい。差し当たり布団と、テーブルクロスでも買ってこようかと」

 寝室とする部屋に荷物を置いて階段を降りていると、ジュディさんに声を掛けられる。テーブルは十分にあるのだが、アクセサリーを並べるのなら白いクロスの上に置いた方が美しく見えるのだ。

「クロスはうちの余りを使っても良いけど……、布団は好みがあるだろうからね。日が暮れる前には戻っておいで」

「はい」

 純粋に一人歩きを気にしてくれているのだろう。遅い時間に家を出入りされると気になるだろうし、今日は疲れているので早めに休みたい。大人しく頷いた。

「さっき鍵は渡したけど、そのままだと不便だろう。この革紐を使うと良いよ」

「ありがとうございます」

 黒い革紐に鍵を通し、首からかけて服の中に仕舞い込む。これなら失くすことはないだろう。外に出るついでに、晩御飯も買ってこないといけないな、と考えながら階段を降りる。

「……今度は迷子にならないようにしないと」

 取り敢えず、左の壁に沿って見ていくことにした。意外と近い場所にシーツを扱う店があり、無事に購入することができたのだった。

「表には飲食店が並んでるけど、一本入ると色んな店があるのかな……」

 飲食店経営者も自分達の暮らしがあるし、当然といえば当然だろう。食材を扱っている店もすぐに見つかり、夕食用のパンを幾つか買った。

「これだけあれば、明日の朝も大丈夫かな」

あれもこれもと買っていると、瞬く間に荷物で両手が塞がってしまった。今日のところは買い物を終えていいだろう。

「……戻りました」

「あ、ま、まだだめ!!」

 カフェに戻り、横をすり抜けて部屋に戻ろうとした時だった。階段の真ん中にターシャちゃんが座っており、私を見るなり両手を広げて通せんぼをした。

「トッド、おねえちゃん、かえってきた!!」

「わかった!!」

 何がわかったというのか。押しのけて通るわけにもいかないし、どうしたものか。トッド君が走っていく音だけが聞こえてくる。

「ターシャちゃん」

「なぁに?」

「通してくれないかな?」

 できる限り優しく尋ねてみる。すると、ターシャちゃんは少し考えた後、ゆっくりと首を横に振った。

「んーん」

「駄目ですか……」

 そっと足を一歩踏み出すと、きっと眦を吊り上げて手を一生懸命広げる。何があっても通さないという強い意志を感じる。諦めて暫く見つめ合っていると、トッド君が走って戻ってきた。

「ターシャ!!いいって!!」

 すると、ターシャちゃんは立ち上がり、私のローブの裾を引っ張った。

「おねえちゃん、いいよ!!」

「いいの?」

 何故か二階に案内され、ターシャちゃんに続いてリビングに入った瞬間だった。

「アユム!!改めて、今日からよろしく!!」

 テーブルの上には、色とりどりの料理が並べられていたのだった。

次回更新は2月12日17時予定です。

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