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疑いと誠意

 話をしているうちに、呪いの解除に必要なのは会話ではなく、相手の認識なのではないかと仮説を立てた。

「ラウラさんが、『もしかすると声の主人はドナートさんではないか』と考えていたことで呪いが弱まっていたのではないでしょうか?」

「そして、もう一度声を掛けたときに、ラウラが俺だと確信し、名前を呼んだことで呪いが解けた?」

「かもしれません」

 特に、現在ドナートさんの首に巻かれている黒いマフラー。あれが巻かれてから私からもドナートさんの顔が認識できるようになった気がする。一針一針、ドナートさんのことを思って作られているマフラーだからだろう。愛は偉大である。

「王都に来るまでも他の人に声を掛けていたんですか?」

「いや、王都に来てから、一度、懐かしい青色を見かけて故郷を思い出した。それから街の知り合いに似ている服装の人にだけ声を掛けていた」

 知り合い以外に声を掛けても無駄だとわかっていたので、不審がられないためにも人目につかないように行動していたらしい。方針が変わったのはここ最近の事で、丁度不審者の目撃情報が集まり出した時期と完全に一致する。

「出身地を聞いて回っていたのは、私を探してくれていたの?」

「ラウラというか、誰でもいいから知り合いを探していた」

「私を探していた訳じゃないのね」

「偶然かもしれないが、ラウラに会えたのは本当に嬉しい」

「……私も嬉しい」

 暫く探していると、青色のストールを着けている人をちらほらと見かけるようになったので、その人に声をかけるようになったらしい。私もその一人だったということだ。

「そういえば、一人、ストールを落として行った女性が……」

「それ、私かもしれません……」

「店主さんにも会ってたのか?」

「はい」

 落とした時の日時と会話内容を伝えると、ドナートさんは納得したようで、綺麗に畳まれたストールを取り出した。

「ふらついたかと思えば落として行ったから驚いた」

「すみません。ありがとうございます」

 取られたかもしれない、と疑っていたので大変申し訳ない気持ちになる。私が口を閉じていると、ラウラさんがそっとドナートさんの両頬に手を添えて尋ねた。

「ドナート、今はきちんと顔を認識できる?」

「できる。ラウラの顔も、店主さんの顔も。そちらからも俺の顔が認識できるか?」

「大丈夫です」

 室内に入ってマフラーを外しても、顔が見えなくなるということはない。だが、完全に呪いが解けたとは言い切れない。

「一応、呪いの影響などはきちんと調べた方がいいと思うのですが……」

「……そうなると、王宮へ報告が行くでしょうね」

 ドナートさんの方を見て言うと、ラウラさんが床に視線を落とした。王宮に報告が行けば、当然、最近騎士団に探されていた不審人物がドナートさんのことだとわかるだろう。

「…………呪いが掛けられていたとはいえ、王都の人に声を掛け、迷惑を掛けたことは事実。先に騎士団に名乗り出る」

「ドナート……」

 騎士団が、どの程度不審人物への警戒を強めているのかがわからない。つまり、名乗り出た場合にどういう扱いを受けるのかも予想がつかないのだ。

「呪いについて説明すれば、納得してもらえるかもしれませんが……」

「呪いが解けている今、呪いが掛かっていた証拠はない」

 楽観視するのは良くないだろう、とドナートさんは言った。ラウラさんの顔が段々と青白くなっていく。折角再会できた恋人が、騎士団に捕まるかもしれないと思えば当然か。

「私も、私も一緒に騎士団に行く。駄目だって言っても、付いて行くから」

「ラウラ……」

 私とラウラさんができることは、呪われていたということを主張することだけだ。私たちの主張にどれだけ効果があるかはわからないが、少しでも力になりたいと思う。

「わかった。一緒に行こう」

 疑いを解く為には、迅速かつ誠意を持った行動が必要である。私たちは、一番近くにある騎士団の詰所に向かうことになった。


 作業場や工房が近いこの通りは、気難しい職人も多いことがあり、すぐ近くに詰所が置かれているらしい。ラウラさんの部屋から2、3分ほど歩けばその詰所が見えてきた。

「店主さんはその店で待っててくれ」

「私の話だけでは信用して貰えなかったら、呼びに来ます」

「わかりました」

 できる限り大事にならないように最初は二人だけで行くと言われたので、指定されたカフェで大人しく待つことにする。カフェからは詰所の入り口が見えるので、何かあったらすぐに反応できる。

「紅茶とケーキで」

 注文を済ませて、二人が詰所に入っていくのを見送る。思ったよりカフェは混んでいるようで、中々空いている席が見当たらない。できれば詰所が見える席がいい、と彷徨いていると、横から声を掛けられた。

「相席でも宜しければ、此処が空いていますが」

「ありがとうございます」

 何となく聞き覚えのある声だな、と思いながら視線を向ける。すると、そこには笑顔を浮かべたランバート様が座っていたのだった。

次回更新は3月27日17時予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ランバート氏に今回の話をすれば丸く収まるのでは? 明日も楽しみにしています。
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