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縄編みのマフラー

 結局、不審人物に声を掛けられた日は、騎士団の事情聴取で終わった。疲れていて特に何かする気も起きなかったとはいえ、全く商品を作ることができなかった。その埋め合わせとばかりに製作に力を入れているうちに、あっという間に3日が経過してしまった。

「そろそろ、手芸教室の最終日を決めないと……」

 他のことに追われている間に、参加者の殆どはマフラーを9割程度完成させていた。完成までの時間はかなりばらつきが出ると思っていたのだが、思ったよりも進度は同じくらいになった。

「ソニアちゃん達は、編み物する時間が確保できてるからかな……」

 本来編み物教室に参加する年頃の子たちは、慣れていない代わりに、元々教会で教わる予定だった時間をマフラー作りに充てることができたからだろう。嬉しい予想外だ。

「後、予定が確認できてないのはソニアちゃんだけかな」

 気合が入りまくっていたソニアちゃんは、もう一人の初心者の子と比べて少々時間が掛かっていた。代わりに、編み目に差がないので太さが均一で綺麗に出来上がっている。プレゼントにしても問題ない出来栄えだろう。

「今日も張り切ってたなぁ……」

 落ち着いた辺りで予定を聞きに行こう。それまでは私も作業をしていようと、工房に入ったのだった。


「さて、今日で編み物教室は終了です。最後に、伏せ止めという方法を使って仕上げをします」

 編み終わりがほどけないように糸の始末をしないといけないのだ。今迄とは少しだけ違う作業をしないといけないが、此処まで編めた人には簡単だろう。

「殆どの編み方は、通常の表目と裏目と変わりません」

 伏せ止めをする時は、表目で編んでいた時は表目で、裏目で編んでいたところは裏目で編みながら進めていくのだ。

「まずは、最初の2目を今迄と同じように編みます。此処で一旦手を止めておいてください」

 此処まで来ると手慣れたもので、全員、手早く2つの目を編んだ。此処からが伏せ止めである。

「左針を手前から、最初に編んだ目に左から右に向けて入れます。その後、最初の目を2つ目の目に被せて、針から外します」

 そうすると、2つ目に編んだ目だけが残る。この、一つ目を編んだら次の目を被せるという作業を、段の終わりまで繰り返していくのだ。段の最後の目だけ、また違う作業があるので自分のマフラーを編みながら他の人の作業を待つ。

「裏目の所はどうするんですか?」

「裏目で編んでいたところは裏目で編んで、前の目を被せていきます」

 質問もそれだけで、全員黙々と編み進めていく。全員の手元を見ながら、改めてマフラーを見ていくと、感慨深い気持ちになってくる。最初は難しい模様だとは思っていたが、初心者も含め、全員普段使いできるレベルで仕上がっている。

「アユムさん、最後の目まで編めました」

「全員編み終わりましたね。では、最後の目の処理について説明します。最後の目を編み、輪が一つにします」

 最後の輪を少しだけ大きい状態にしてから、糸を15センチ程度残して毛糸を切る。そうしたら、最後に残った輪に糸の端をくぐらせて引き締めるのだ。これで基本的には、ほどけることはない。

「これでマフラーの形自体はできました。最後に、編み始めと編み終わりの糸を裏側の目にくぐらせて、糸を目立たないように切ったら完成です」

 自分が作っていたマフラーの糸を切る。パチン、という気持のいい音がして、マフラーが完成した。ゴム編みをしたおかげで伸縮性もあり、模様も入っているのでお洒落に見える。使い勝手のいいマフラーだ。

「最後の糸始末がやりにくい場合は、毛糸が通るだけの穴が開いている針を使ったり、かぎ針で引っ掛けて目に通したりするといいですよ」

 目を伏せてしまっているので、棒針で糸を通していくのは不可能ではないが難しい。編み物の基本セットについていたとじ針を順番に貸し出し、それぞれの仕上げを見守る。

「先生のお陰で完成しました。ありがとうございます」

「模様が複雑で不安でしたけど、綺麗にできて良かったです」

 完成すると、お礼を言って順番に帰って行く。その足取りは軽い。一番に見せてあげたい人がいるというのは良い事だ。

「アユムさん、ありがとうございました」

「ソニアちゃんも、無事に完成してよかったね。上手にできてるよ」

「はい。あ、あの……」

 順番に並んでいたソニアちゃんが完成したマフラーを見せてくれる。紺色の、少し長めのマフラーだ。男の子が使いやすいようにと、色々と考えてあるのが伝わってくる。

「それを渡しに行くんでしょう?ジュディさんには伝えておくから、いってらっしゃい」

「ありがとうございます!!」

 にこりと微笑むと、ソニアちゃんは出来たばかりのマフラーを大切そうに抱きかかえ、走って出ていった。受け取って貰えると良いね、と笑顔で見送る。

「店主さん」

「あ、ごめんなさい。ラウラさんで最後ですね」

「はい」

 ソニアちゃんが見えなくなったところで、ラウラさんが完成品を見せに来てくれた。編み終わるのは早かったのに、糸の始末に時間が掛かったのだろうか。最後になったのはちょっと意外である。

「実は、もう一つ編んでいて……。其方の仕上げも此処でさせて貰ったので、時間が掛かったんです」

「あ、そうだったんですね。大丈夫ですよ」

 最初、縄編みには苦戦していたが覚えてからは早かったので、おかしくはない。教室では見かけなかったマフラーも見せてくれるようで、ラウラさんは大きめの籠に手を入れた。

「これです」

「…………綺麗な、青色ですね」

 教室で見ていた黒いマフラーと、鮮やかな、特徴的な青色のマフラー。その青は、なくしたストールの青色に、とても良く似ていた。


次回更新は3月24日17時予定です。

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