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カフェの住人

 取り敢えず、子供も泣いているし、通りで話をすると人目を集めすぎる。私たちはカフェの中に入り、話をすることになった。丁度お客さんも出ていったタイミングだったのか、中に私たち以外の人はいない。

「取り敢えず、そこに座っておくれ」

「はい」

 四人掛けのテーブルに座るように言われたので、一番下座に座る。文化的に通じないだろうけれど、気持ちの問題だ。私の隣が騎士、正面に女の子、斜めに女性が座る。

「ターシャ、泣いてないで説明しな」

 カフェから出てきた女性、恐らく子供の母親であろう人物が、泣きじゃくっている女の子の背中を擦る。ターシャと呼ばれた女の子は、両手で目を擦りながら、ゆっくりと話し始めた。

「あ、あのね。トッドとね、おはな、もってかえってきたの」

 やはり、あの花はこの子が持ってきた花だったのだろう。花を抱えていて前が見えずにぶつかったのか、それとも他に原因があるのだろうか。

「おうちがみえて、もうちょっとだ、っておもったら、トッドがいなくて……」

 そう言うと、収まりかけていた涙が急に溢れ出した。その、トッドがいなくことに不安を感じ始めたのだろう。話を聞く限り、その子も同じくらいの年頃だろうから、迷子になっているのなら心配である。

「あの……」

「それで、トッドを探して前を見てなくて、騎士様にぶつかったのかい?」

「うん……」

 トッド君を探しに行かなくていいんですか、と聞こうとしたが、女性に遮られた。まあ、話を遮ろうとした方が悪いので一旦黙っておこう。

「騎士様にきちんと謝ったのかい?」

「ううん……」

 じゃあ、どうしたらいいかわかってるね、と母親に言われ、ターシャちゃんは小さく頷いた。椅子から下りて、私たちの方まで回ってきた。そして、おずおずと騎士を見上げる。

「えっと……」

「うん?」

 私と騎士の間までターシャちゃんが来ると、騎士も椅子を避けて目線を合わせるために膝をついた。言い出しにくそうにしているターシャちゃんに微笑んで続きを促すが、照れているのか、ターシャちゃんは何故か私の椅子の後ろに隠れてしまった。

「きしさま、ぶつかって、ごめんなさい……」

「大丈夫ですよ。私の方こそ、直ぐに動けず申し訳ありませんでした」

「そんな、騎士様は何もしていないじゃないですか!!前を見ていなかったこの子の不注意です」

 椅子の陰から顔だけを出し小さな声で謝罪したターシャちゃんに、騎士も謝罪で返し、無事に解決である。騎士が温厚な人で良かった。この国に詳しくないので断言はできないが、ちょっと身分の高い人は平民を軽んじることが多いので、どうなるか内心ハラハラしていたのだ。

「全く、何度か顔を見ているだろうに、何で騎士様とお話できないかねぇ。騎士様、ちょっとお時間ありますか?お詫びと言っては何ですけど、紅茶でもどうぞ」

「ありがとうございます」

 無事解決したのは良いのだが、トッド君は良いのだろうか。ターシャちゃんは何も話さず下を向いているし、女性は早々にキッチンの方へ向かって行ってしまった。

「トッド!!入り口で見てないで手伝いな!!」

「やべ、バレてた」

 どうしよう、と思っていると、女性がキッチンから声を上げた。すると、ターシャちゃんと同じ年頃で、同じ茶髪に緑の目の男の子が慌てて私たちの横を通り過ぎていく。成程、全部お見通しだったようだ。

「トッド!!」

 ターシャちゃんは捜していた相手が見つかって嬉しそうに駆け寄っていく。暫くすると、女性だけが私たちのテーブルに戻って来た。

「お二人共、すみませんね」

「いえいえ、此方こそ」

 女性が私と騎士の前に、それぞれ紅茶を置く。銘柄などは全く分からないが、美味しそうだ。お茶うけに小さなクッキーも付いている。

「それにしても、騎士様が二日続けてくるのは珍しいですね」

「今日は私の用事という訳ではなく、この方を案内してきただけでして……」

 来る途中に言っていた通り、騎士は店の常連らしい。女性が話を始めたのだが、上手くこちらに話を振ってくれた。話を切り出すのは苦手なので有難い。用事があるのが私だと分かると、女性はすぐに話を止め、身体を此方に向けて尋ねてきた。

「これはすみません、どのようなご用事でしょうか?」

「あの、店を開こうと思っていて、宿屋の女将さんに紹介を貰って来たのですが……」

 畏まった態度で聞かれると、やりにくいと感じるのは私だけだろうか。女将さんに貰った紹介状を懐から出して見せると、女性は目を丸くした。

「それなりに広い上、部屋数もあるので店を開くのは問題ないと思いますよ。今からでも見て回りますか?」

「良いんですか?」

「勿論ですよ」

 トントン拍子に話が進んでいく。道に迷ったり、子供に泣かれたりとハプニングが続いていたのでもっと難航するものと思っていたので少々驚いた。

「それでは、私は仕事に戻りますね」

「長々と引き留めてすみませんでした」

「いえ、大丈夫ですよ」

 そう言うと、騎士は去っていった。名前を聞き忘れたが、まあ大丈夫だろう。女性に案内をされ、私は三階へと向かうこととなった。


次回更新は2月11日17時予定です。

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