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教会の反応

「鉱石、ですか……?」

 ランバート様が用意したという箱に入っていたのは、一見、変哲のない鉱石に見える。装飾品にする為の特殊なカットが施されているわけでもない、ちょっと綺麗な石だ。

「はい。本来なら、何らかの形に加工するものなのですが、そこまでするのは微妙かと思いまして……」

「えっと……」

「大丈夫です。説明します」

 この石の意味が全くわかっていない私に、ランバート様は困ったように微笑んだ。世間知らずということは覚えていてくれたらしい。すぐに説明を始めてくれた。

「これは、簡単に言うと守り石です。魔法が使える者に、初めて渡される物です」

「……魔力で発動するということですか?」

「はい。魔力を込めると透明な防御壁を構築する補助道具です」

 慣れてくると防御の魔法も自分一人で使えるようになるらしい。この石は、まだ魔力を込める、ということしか出来ない子供が魔法を扱えるようになるまで持つ物だそうだ。

「ということは、一般的には親が子供のために用意する物なのですね」

「その通りです。大抵の場合はネックレスに加工するのですが……」

「……私、成人していますからね」

 事情があるとはいえ、女性にアクセサリーを贈ったとなると余計な噂も立ちそうだ。そう思って頷くと、ランバート様は首を傾げていた。

「いえ、ルイーエ嬢はこうして店を持っている位ですから。勝手に加工するよりはご自分で好きなデザインにして頂く方が良いかと思いまして」

「あ、そ、そうですか。お気遣い、ありがとうございます」

 単純に私の性格を考慮してのことだった。慌ててお礼を口にするが、驚きで言葉が詰まってしまった。

「石の加工が必要なら、職人に依頼しますが……」

「大丈夫です。このまま使わせていただきます」

 石に穴を開けなくても、ワイヤーなどで周囲を覆う方法もある。後でじっくり考えよう。

「わかりました。それでは、今日のところは……」

「そうですね」

 これで持ってきたものの説明は終了だ。ランバート様が外に出られる時に戸締りをして、私も用事をしに行こう。そう思って一緒に階段を降りていく。

「あの、ルイーエ嬢」

「はい?」

 暫く無言でついて行っていたのだが、突然前を歩いていたランバート様が振り返る。

「わざわざ見送ってもらわなくとも、私は大丈夫ですが……」

「あ、いえ、私も外に行こうかと」

 元々用事があったので気にしないでください、と伝えたつもりだった。しかし、ランバート様は一気に表情を険しくした。

「……先ほどの石は」

「後程加工しようかと」

 すぐには良いデザインが思いつかないので、ゆっくり考えたい。アクセサリー店を回る間に思いつくかもしれない。

「……私もついて行きます」

「え?」

 今、何と言ったのだろうか。聞き返そうとすると、ランバート様は有無を言わせぬ雰囲気で言葉を続けた。

「この後の予定はないですから。ルイーエ嬢、どちらに行く予定ですか?」

「教会と、付近の装飾品店を回ろうかと……」

「ご一緒します。良いですよね?」

 はい、以外の答えを聞く気がない質問である。私は少し考えた後、小さく頷いた。良い返しが思いつかなかったのである。


 恐らく、護身用の石も持たずに歩き回ることを危惧したのだろう。だが、子供ではないのだから近所を歩くくらい平気である。

「お久しぶりです、神父様。何か困っていることはありますか?」

「これはこれは、ランバート様。お陰様で、皆平穏に暮らしております」

 この教会は、王都で一番大きいので貴族や騎士との関わりもあるのだろう。神父様は、ランバート様の事を知っているようだった。

「本日はどのようなご用件で?」

「今日は私の用事ではなく、此方の女性が」

「……アユム・ルイーエです」

「初めまして。この教会の神父を務めております。本日のご用件は?」

 簡単に挨拶をすると、すぐに用件を聞かれた。編み物教室について説明をし、過去のシスターがどのように教えていたのかを尋ねた。

「少々お待ちください。過去の記録があったはずです。持ってきますね」

「ありがとうございます」

 事情を説明すると、神父様はニコニコと笑顔を浮かべたまま、奥の部屋の方に行った。資料を探しに行ってくれたのだろう。

「編み物教室を開くのですか?」

「はい。組紐教室は好評でしたので」

「手芸は嗜みですからね、身につける機会があることは良い事です」

 ランバート様の言う手芸、というのは、刺繍などの事だろう。平民がいう手芸とちょっと違うが、肯定的な意見は嬉しいものだ。

「私共としても、今年は手芸に長けたシスターがいなかったので気を揉んでいたのですよ」

「神父様」

「子供たちの学びの機会を設けていただけるとは有り難いです。此方の資料、どうぞお役立てください」

 丁寧に纏められた書類の束を受け取る。先代のシスターは、教えた内容や子供の様子、改善点などを丁寧に記録していたようだ。

「ありがとうございます。資料、お借りします」

「返却は、手芸教室の後で構いませんので」

「わかりました」

 神父様が協力的な方で良かった。資料を胸に抱き、教会を後にした。

次回更新は3月13日17時予定です。

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