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四つの箱

 編み物教室の開催を決めて数日。注文をこなしつつも、タッセルをブレスレットのパーツにして商品の幅を広げたりと、忙しく過ごしていた。

「もう休日か……」

 忙しいと時間が過ぎるのは早く感じる。休みの日が連続していないことも原因だろうが、気付けばランバート様との約束の日になっていた。

「何時頃来られるんだろう」

 カフェがお休みなので、ジュディさんとカルロさんは二人で買い出しに行っている。トッド君とターシャちゃんは、ランバート様に会いたくないからかソニアちゃんと一緒に出掛けていった。

「下で待ってた方がいいかな」

 という訳で、現在、この家にいるのは私だけである。3階にいると下で声がしても中々気付けないので、一階のカフェでランバート様を待つことにする。

「あ」

 一階に到着し、カフェの入り口を見た時だった。丁度、人影が映ったのである。その手には大きな荷物が抱えられている。このままでは扉が開けられないだろう。

「今、開けますね」

「すみません、手が塞がっていて……」

 一度降ろしたら再び持ち上げるのも大変そうな程の大きさだ。これは、一気に3階まで持って上がって貰った方がいいかもしれない。

「ルイーエ嬢、此方は……」

「店の方に置きましょう。あの、大丈夫ですか?」

「扉の開け閉めはできませんが、重さ自体はなんてことないですよ」

 これでも騎士ですから、とランバート様は笑顔を浮かべた。それでは、とお言葉に甘えて店の方に向かう。

「それにしても、前回の箱はもう少し小さかったように思うのですが……」

「ああ、それに関しては諸事情がありまして……」

 どんな事情だろう。首を傾げると、見てもらった方が早いですね、とランバート様は持っていた荷物をカウンター内に置き、包んでいた布を取った。

「…………これは?」

 目の前に現れたのは、前回の改良版であろうプリンターと、その上に重なっている黒い工具箱のようなもの、アンティークな鍵付きの小箱と、ジュエリーボックスだった。

「……あの、多くないですか?」

 しかも、どう見ても関係がなさそうな箱もある。四つの箱をどうやって纏めて持ってきたのだろうか。バランスを保つのが大変そうである。

「なんでも、円滑に改良をしていきたいということで、色々持たされました」

「色々、ですか?」

「はい。まず、此方が前回の改良品になります」

 ランバート様は置いていたプリンター1号機を横に避け、新しいプリンターを置いた。箱の大きさは前回と変更はないようだ。

「紙の種類を増やす、ということはできないのですが、同じ絵を連続して紙に写せるようになりました」

「あ、箱が二重になったんですね」

 上の部分に真っ白な紙を入れ、下の部分に印刷済みの紙が送られる仕組みらしい。チラシなどを作る際にかなり助かるだろう。

「それで、残りの三つは……」

「二つは頼まれたもので、最後の一つはわたしからルイーエ嬢に渡すものです」

「そう、ですか……」

 ランバート様はまず、アンティーク調の小箱を机に置き、そして懐から鍵を取り出した。恐らく、箱の鍵だろう。

「この鍵を持って、魔力を流しながら鍵穴に差し込んでください」

「えっと、その前に、この箱は何のために使うものなんですか?」

 流石に、何のためのものかわからないまま、魔力を流すなんて重要そうなことはしたくない。両手でバツ印を作って説明を求めると、ランバート様は苦笑した。

「……連絡用、でしょうか」

「連絡?」

「はい。これは手紙のやりとりをする為のものらしいです。二つの箱と一つの鍵でセットになっており、同じ鍵を使った二つの箱の間で物のやり取りができます」

「成る程」

 つまり、この箱に手紙を入れると、開発者の方に手紙が届く。素早いフィードバックができるようになるということだ。魔力を登録した人にしか開けられないので機密性もばっちりだ。

「ですが、この箱に入らないものはどうするのですか?」

「そのためにこっちの箱があります」

 プリンターはかなり大きく、小箱には収まらない。毎回ランバート様が運ぶことに変わりはないのでは、と思ったが、対策は万全らしい。

「これは、遠隔操作できる道具箱のようなもの、だそうです。簡単にいうと、改良の時はこの箱を改良するものの上から下に置けばいいとのことです」

「す、すごいですね?」

 工場の作業アームみたいな感じだろうか。プリンター本体を動かすことなく、小さなパーツの遣り取りを小箱ですれば此処に来ずとも改良することができる。

「ルイーエ嬢の発想が面白かったようで、是非文通を、ということです」

「私でよければ……」

 では、と鍵を差し出されたので、魔力を込めつつ鍵穴に差し込む。すると、カチリと軽い音がして、鍵が穴に吸い込まれていった。これで作業完了らしい。顔は知らない文通相手ができた瞬間である。

「そして、最後は私が頼んだものです」

「は、はい」

 ランバート様は、一番小さなジュエリーボックスを手に取った。大きさ的には、ピアス類だろうか。私、ピアスホールは開いていないのだが。

「此方を」

 パカ、と音を立てて開いた箱の中に入っていたのは、藍色の輝きを放つ、一粒の石だった。

次回更新は3月12日17時予定です。

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