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店を買おう

 工房に付いている扉から外に出れば、スキルを発動させた場所と全く同じ場所に戻れるようだ。と、なると、生活スペースと販売スペースさえあれば店としては成立するだろう。

「いつまでも宿で生活するわけにもいかないから……」

 お金に余裕があるうちに店を構えた方が良いかもしれない。脱走には既に気付かれているだろうから、連れ戻す気があるのなら捜索が始まっている可能性が高い。城の中を暫く探したとして、次は近場の宿を探していくだろう。

「逆に、関所に近付くのも危険かな」

 結果、自分の家というものを持つのが一番だろう。そうとなれば早速行動だ。髪束を二つに分けて、三つ編みにする。そして更に後ろで纏めれば、完璧に髪を纏めることができるのだ。この上からローブを被れば、ぱっと見で女性とは思われないだろう。

「これでよし、と」

 自衛の意味もあるが、基本的に女だと舐められて物件を買えない可能性がある。幸い、この世界は栄養状態が良くないのか、平均身長が全体的に低めのようだ。平均より少し高い身長があれば、ここでの男性平均と同じ位になる。

「見つかると良いな」

 取られたりしないように、服の内側に財布を入れて、いざ出発である。


「これは……、完全に迷子だ……」

 小一時間後。歩き疲れた私は道の端で立ち止まっていた。宿屋の女将さんに店を開きたいから物件を探していると相談し、道を教えてもらい、その通りに歩いてきたつもりだった。だが、幾ら歩いても同じ景色が続くばかりで、目的の建物が見えてこないのである。

「……カフェって言われても、この辺りは飲食店が多いみたいだし」

 女将さんに紹介されたのは、カフェの三階にある空き部屋だった。なんでも、幼馴染が近くでカフェを営んでおり、二階は家族が使い、三階は貸し出していたが、最近その住民が引っ越したので空きができたらしい。飲食店でないなら店を開いたりしても大丈夫、という事で紹介して貰ったのだ。

「三階建ての建物も多い……」

 わかっているのはカフェの名前だけだ。だが、時代柄なのか、目立つ看板なんてものはない。地道に探していくしかない、と溜息を吐いた時だった。

「そこの方、お困りですか?」

「え?」

 突然、声を掛けられた。顔を上げると、目の前にいた身なりのいい青年と目が合った。あ、桜色だ。と、相手の瞳の色に何となく懐かしさを覚え、ついつい見入ってしまう。

「何かお困りですか?」

「あっ、えっと、すみません。道に、迷ってしまって……」

 もう一度声を掛けられて、慌てて返事をする。初対面なのに無言で顔を眺められたというのに、相手は気分を害したような様子はなく、優しく話しかけてくれる。

「この辺りは似たような建物が多いですからね。ここに来て日が浅いのですか?」

「はい。来たのは最近で……」

 話をしながら、相手の観察をする。先程は顔しか見ていなかったので気付かなかったが、鎧を着ている。所作も丁寧なので、恐らく騎士か何かだろう。巡回をしていたら、困っていそうな人物がいたので声を掛けたのなら不審な点はない。

「どちらまで行かれるのですか?良ければ案内しますよ」

「い、いえ。そこまでして頂くわけには……」

「困っている方を助けることも仕事の一環ですし、巡回のついでですよ」

 笑顔でそう言われてしまうと、断る方が不自然だ。教えて貰ったカフェの名前を伝えると、それでしたらこちらです、と騎士は歩き始めた。遅れないように慌てて付いて行く。

「見たところ、比較的お若いようですが、今から待ち合わせですか?」

「いえ、待ち合わせというか……」

 話をするのが好きな人なのか、歩きながら聞かれ、答えに詰まる。変に嘘をついて怪しまれても嫌だが、わざわざ物件を見に行っている、と伝えるほどの関係でもない。どうしたものか、と言葉を濁す。

「今から行くカフェは雰囲気も良くて、私も良く行くんですよ」

「そうなんですか」

 という事は、下手に誤魔化しても今後会う可能性がある。ならば、正直に言っておいた方が良いだろう。

「実は私、カフェの三階をお借りして、店を開こうと思っていまして。それで今から見に行くんです」

「そうなんですか?どんなお店になるのか楽しみです。あ、そろそろ到着しますよ。あそこです」

 騎士が指差した先を見ると、ソレイユ、と教えられた店名の書かれた小さな看板が目に入った。今は時間帯的にも人が少ないようで、店の話をするには丁度良さそうである。

「ありがとうございました」

「いえ、無事に到着できて良かったです」

 それでは、と騎士は軽く頭を下げて立ち去ろうとする。が、突然動きを止めた。どうしたのだろう、と騎士を見ると、その足元に何かが転がっていた。

「う、うわあああああん!!」

 子供だ。六歳か、七歳くらいだろうか。周囲には花が散らばっており、状況から推測すると、走っていたところ、騎士にぶつかったのだろう。

「何事だい!?」

 子供の泣き声が聞こえたのか、カフェから女性が出てくる。騎士は全く動く気配がないし、子供も泣き止みそうにない。さて、どうしたものかと頭を抱えたくなったのだった。


次回更新は2月10日17時予定です。

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