表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/218

手芸教室

 子供たちにした三つの約束。一つ、親御さんに私の店でアクセサリー作り体験をすることを伝えるという事。贈り物を作ろうとしていることまでは伝えなくていいが、何処で、誰と、何をするのかは言っておかないと心配だろう。

「何かしようとしていることは気付かれるかもしれないけど……」

 その辺りは、大人なので知らないふりをしてくれるだろう。残りの二つの約束事は簡単だ。作業中は私の指示に従うことと、喧嘩をしないこと。それだけである。できる限り工具を使わないものを作る予定だが、何かあってからでは遅い。対策はしておいた方が良いだろう。

「作るものはミサンガにするとして、問題は、編み方かな」

 複雑な編み方は理解しにくいだろう。どうせなら楽しく作業して貰いたい。子供でも簡単で、且つ、完成した時の見栄えもいい編み方。

「三つ編み、かな……」

 編み方自体は簡単だが、色の組み合わせは多い。それぞれが好きな色を選んでいけば、全員全く違うものが完成するだろう。糸束を太くしておけば完成品も十分な太さになるだろう。

「それにしても、その日のうちに全員が許可を取ってくるとは……」

 わたしとの約束を聞いた子供たちは、すぐさま帰って行ったかと思えば、親御さんの許可を取って戻って来たのである。流石に昼過ぎから作業をするのは、ということで日を改めることにはなったが、トントン拍子に話が進んで正直かなり驚いている。

「準備の方が間に合うかどうか……」

 呟きながら人数分の椅子を準備していると、階段を駆け上がる音が聞こえてきた。そしてすぐに店の入り口から二つの頭がひょこりと此方を覗き込んだ。

「アユム」

「じゅんび?」

 トッド君とターシャちゃんだ。開店時間になり、全員が集まったら教室を始めるとはわかっているのに、楽しみで来てしまったのだろう。嬉しそうに椅子の数を数えたり、机の上に置いてある刺繍糸を眺めたりしている。

「なにつくるの?」

「ミサンガだよ」

「おかあさんがつけてるの?」

「そうだね」

 何度か質問を繰り返すと、段々と我慢ができなくなってきたのか、二人は窓の方に駆け寄り、他の子の姿を探し始めた。暫く窓の外を眺めていると、姿を見つけたのか、迎えに行こうと走り出す。

「二人共、走ったら危ないよ。待っていたら来るんだから」

「「はーい」」

 二人が椅子に座り直したところで、階段を駆け上がってくる音が聞こえだす。この二人同様、残りの子供たちも教室を楽しみにしていてくれたようだ。

「いらっしゃいませ」

 笑顔を浮かべたまま、店の入り口を開けると、三人の子供が目を輝かせて立っていた。中に入るよう促すと、小さく頷いた後、突然足を止めた。

「「「おはようございます」」」

 ぺこり、と頭を下げて挨拶をされる。おはようございます、と挨拶を返すと、今日はよろしくお願いします、と口々に言われる。親御さんから礼儀正しくするように言われたのだろう。口調がたどたどしい。

「さて、早速ですが、手芸教室を始めようと思います」

 皆さん、準備は良いですか。そう尋ねれば元気いっぱいの返事が返ってきた。掴みは上々のようなので、このまま集中力が切れる前に簡単に説明を終わらせてしまおう。

「今日作って貰うのは、三つ編みの組紐です。完成したものは腕や足に巻いたり、髪を縛ることにも使えます」

「むずかしい?」

「よろこんでもらえる?」

「やり方は覚えたら難しくありません。喜んでもらえるかどうかは、今から一緒に喜んでもらえるように頑張りましょう」

 私は、子供たちがプレゼントを渡したい相手が誰なのかも、何色が好きなのかも知らない。しかし、一生懸命自分のことを考えて作って貰った、となると喜ばない人は少ないだろう。喜んでもらえるかは自分次第、と理解すると子供たちは真剣な表情で私の方を見た。

「では、最初に使う糸を選びましょう。完成品はこのようになるので、色選びの参考にしてください」

 昨日のうちに作っておいた三つ編みの紐を幾つか見せる。同系色でまとめたものや、全く違う系統の色を使ったもの、一色だけで作ったものもある。子供たちは真剣に見本と糸を見比べながら、一本一本選んでいく。

「トッド君、その色にするの?」

 子供たちの間を見て回っていると、既にトッド君の手に三種類の糸束が握られていることに気付いた。もっている色は、パステル系のピンクと黄色、そして白色だ。トッド君が好きな色ではない。

「……ターシャの」

「そっか」

 そのために、今日は少し遠い席に座っていたらしい。ひみつだから、との念押しに頷き、続いてターシャちゃんの様子を見る。

「色は決まった?」

「アユム……。どっちがいいかな?」

 ターシャちゃんが選んでいたのは、白と黒。そして、両手に赤と青の糸束を持ってどっちが良いか、と尋ねてくる。双子だからか、考えることは同じらしい。

「……ターシャちゃんが渡したい人に似合うと思う方を選んだらいいと思うよ」

 他の子供たちも次々と私に質問し、結局、自分達で色を決めていった。さて、使う糸が決まったところで、次が本題の三つ編みである。


次回更新は3月8日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ