突然のお願い
先程、うっかりハイタッチしてしまった事を誤魔化すようにランバート様は咳払いをして、私に言った。
「ルイーエ嬢は恐らく、魔力の使い方がわからないので魔法が使えないだけなので、道具で補助をすれば使えるようになると思います」
「……現状、使えなくても問題はないですが」
問題はないが、魔力があるお陰で脳内イメージプリンターが使えたので便利だとは思う。作ってくれた人にお礼の手紙を書かなくては。
「細かい事は後々考えるにしても、使えるに越したことはないですよ」
「……そうですね」
ランバート様は心配というか、生活のことを考えて言ってくれているし、内容も正しいので小さく頷いておく。時間があれば習得したいが、今はそんなに余裕がないので積極的に習いたい訳ではない。
「ルイーエ嬢の魔力等について、この道具を作った人物と情報共有をしても大丈夫ですか?」
「大丈夫です。私もすぐに感想を書きますね」
「はい」
プリンターに関しては、今は箱と同じ大きさの専用の用紙しか使えないので、紙の種類が増えると嬉しいこと。一枚ずつしかできないので複数枚纏めて印刷できるようにしたいことを書いた。
「出来ました」
「早いですね、ありがとうございます」
では、と紙を回収して帰ろうとしたランバート様を呼び止める。言い忘れたことがあったのだった。
「次回来られる日は、明日か、カフェがお休みの日にしてください。お店は閉めている日なので」
「わかりました。次はカフェの休みの日に来ますね」
次回の予定も決まったところで、今度こそランバート様は帰って行った。朝から驚いたが、ミサンガのポップを作ることができて良かったと思う。
「後は、刺繍糸を切って並べて貼ろうかな」
模様と、どんな色があるのか一目で見ることができれば想像しやすいだろう。工房から糸を取り、貼り付けた時点で丁度開店になった。
「「アユム〜」」
昼下がり、お客さんも減り出す時間帯。丁度お客さんが途切れたタイミングで、私を呼ぶ声が入り口から聞こえた。
「トッド君、ターシャちゃん。どうしたの?」
中に入らず声を掛けてくるのは珍しいな、と顔を出すと、二人の後ろに見慣れない顔が三つほどあった。年頃は同じくらいなので友達なのだろう。
「……初めまして、アユムと言います。二人のお友だちですか?」
知らない大人が顔を出したからか、硬い表情を浮かべていた後ろの三人に自己紹介をする。笑顔を心掛けていたからか、少しだけ警戒が解けたようで三人は小さく頷いた。
「それで、二人とも、どうしてお友達を店まで連れてきたの?」
今迄、二人が店にいる事はあっても、他の子を連れてきた事はない。遊んでいい場所ではないことを理解しているだろうから、何か意図があって連れてきているのだろう。
「あのね、アユム」
「おねがいがあるの」
ちょいちょい、と手招きをされたので、子供たちと視線が合うように屈む。すると、同時に頭を下げて言った。
「あくせさりー、おしえてください」
「えっと……?」
アクセサリーを教える、というと、作り方を教えてほしいと言う事だろうか。というか、どうして教わろうと思ったのか、経緯がわからないので反応に困る。
「トッドとターシャの、つくったの、おねーさんですよね?」
「私です」
どう言葉を返そうか悩んでいると、先に子供が話し始めた。全部聴き終わったら状況が把握できるかもしれないので一度黙って話を聞くことに集中する。
「さいきん、おしえるのも、したんですよね?」
「めでぃくのひとの!!」
「……そう、ですね」
メディク、というと、貝殻のペンダントを作って行った、カリーナ・メディクさんのことだろう。教えた事は事実なので頷くと、子供たちは表情を明るくした。
「ぼくらも、ぷれぜんと、したくて」
「せっかくなら、じぶんでつくりたいけど」
「でも、あんまり、おかねがなくて」
「ざいりょうは、もってくるので」
「おしえてください」
大体事情は飲み込めた。手作りでアクセサリーを贈りたいものの、お金はないし作り方もわからない。そんな時に友達の知り合いが安くアクセサリーを売っており、かつ作り方を教えた実績もあったので頼みにきた、ということか。
「ちょっと待ってね……」
これからの営業方針として、手芸教室的なものを開くことについて考える。この前の二人の様子からして、自分たちでやってみたい人というのは一定数いるだろう。
「アユム、かんがえてくれる?」
「かなり真剣に考えてる」
そんな時に、材料と方法を教えてもらえる場所があれば、利用する人はいるかもしれない。私は私で、その間にお手本として作ったものは商品にできる。なので、損はない話だ。
「わかりました。教えます。お金も取らないので安心していいよ」
代わりに、手芸教室の宣伝を手伝ってもらうことにする。そのためには親御さんの許可も貰っておいた方がいいだろう。
「ただ、三つ約束してもらうことがあるけど、守れる?」
3本の指を立てて見せると、子供たちは、少しだけ不安そうな顔をした。が、すぐに表情を引き締め、力強く頷いたのだった。
次回更新は3月7日17時予定です。