ポップの作成
閉店後、ジュディさんとも相談した結果、カフェの休日から三日後に作業日を入れることになった。これでも時間が足りなくなったらどこかの午前か午後に作業時間を入れる方針とした。
「まあ、無理しないのが一番だからね」
というのが、ジュディさんの意見だった。そんな訳で、明日もう1日頑張れば明後日は作業日である。
「今日は早めに切り上げよう」
注文されたミサンガと、ネックレスを一つ作り、珍しく日付が変わる前に眠りについた。
翌日、目覚めが良かったので気合を入れて掃除をしていると、ノックの音が響いた。まだ開店には少し早い。下のカフェを通してもらえたということは、何か事情のあるお客さんだろうか。
「すみません、開店前なので散らかっていますが……」
宜しければ中にどうぞ、と言いかけて、目を丸くした。そのにいたのは、昨日会ったばかりのランバート様だったのだ。
「連日押しかけてすみません。入れて頂けますか?」
「あ、はい。どうぞ」
正直驚きである。もしかすると、昨日の事を気にしているのだろうか。それならば気にしなくていいと伝えなくては。口を開きかけると、ランバート様は机の上に黒い包みを置いた。
「……こちらは?」
両手でないと持てないくらいの大きさである。かなりの存在感を放っているが、中身の予想が全く付かない。
「ルイーエ嬢がお求めだった物です」
「昨日お話しした道具ですか?」
だが、一般的に普及しているような物ではなかった筈だ。しかも、捜査に使われているのは立体を作るもので、画像にするものではなかった筈。
「ど、どうやって……」
「作って貰った、というか、そんな感じですかね……」
「どんな感じですか!?」
気軽に作れるようなものなのだろうか。この前、ほんの少しだけ魔法付与されているアクセサリーを見てあんなに驚いていた事を考えると、簡単なことではない筈だ。
「不正などはしていないので安心して下さい」
「その辺りはランバート様を信用しておりますが、全く状況が読めないので説明してください」
「ええと、では、最初から説明しますね」
ランバート様は咳払いをして、時系列順に説明を始めた。どうやら、昨日、騎士の仕事が終わった後、道具に詳しい知り合いの魔法使いに話をしたらしい。
「雑談のつもりだったのですが、本人はすごく興味を持ったようで……」
「そうなんですか……」
「そのまま作り始めたんです」
ランバート様に少し待っているように伝え、製作を始めたらしい。元々、捜査に使用している道具を作っていたこともあり、応用品はすぐに完成したとのことだ。
「で、これが試作第一号です」
「第一号って、第二号以降もあるんですか?」
「折角なので改良していきたいそうですよ。使用した感想を書く用紙も預かっています」
包みを開けると、真っ黒な四角い箱のようなものと、紙の束が入っていた。一番上にある紙には使用者の名前や感想、改善点などを書く欄があった。
「本来なら日を置いて来ようと思ったのですが、完成するなりすぐに行け、感想を持って帰って来い、と言われまして……」
「そ、それは大変ですね」
と、いう事で、とランバート様は箱を手に取った。見た目は蓋付きの箱に見える。その蓋を開けて、中に真っ白な紙を一枚入れる。
「ルイーエ嬢は、魔法は使えなくとも魔力自体はあるので、使用可能な筈です。先に私がやってみるので、見ていてください」
「わかりました」
「紙を中に入れて、箱を閉め、手を置いて写し出す物を思い浮かべながら魔力を流します」
すると、触れていた蓋が変化を始めた。真っ黒だった筈が、徐々に模様のようなものが浮かび上がり始めたのだ。これは、剣だろうか。
「……思い浮かべたものが蓋に表れるので、このままでいいなら箱の横部分に手を置いて、さらに魔力を流します」
「魔力がないと使えないんですね」
「最悪の場合、魔力を持った人間が補助したら使えますよ」
魔力がない人が取り調べを受ける場合は、補助をする事で手掛かりを得ているらしい。横に手を置いて暫くすると、再び蓋の色が黒に戻った。
「出来ましたね」
「思ったより早いですね」
蓋を開けると、先ほどの剣が描かれている紙が中に入っていた。細かい仕組みはわからないが、イメージを蓋に写し、そこから更に紙に写すのだろう。
「明確にイメージできなければ、当然、写し出される絵もぼやけたものになるそうです」
「蓋部分で絵の確認をしてから紙に写さないといけませんね」
「はい」
それでは、やってみてください。と言われ、新しい紙を入れて蓋の上に手を置いた。次に、魔力を流しながら思い浮かべる。
「……魔力って、どうやって流すんですか?」
「感覚的なものなので説明は難しいのですが、蓋の模様を変える事を意識すれば大丈夫かと」
模様よ変われ、と念じつつミサンガを思い浮かべていく。すると、ぐにゃり、と蓋に波紋が広がるように模様が変わっていく。
「……あっさりできましたね」
「なんとなく、わかってきた気がします」
蓋の模様を見ながら更に具体的に思い浮かべていくと、全ての柄を並べることができた。
「次に、横に手を当てて……」
問題なく印刷も完了し、お店にあるようなポップが完成した。ランバート様がついでにラミネートのような道具も持ってきてくれていたので、紙を強化し、組紐のブースに置いた。
「「完成……」」
予想以上の出来栄えに、思わずランバート様とハイタッチしたのであった。
次回更新は3月6日17時予定です。