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便利な道具

 朝はお互いに忙しく、相談をする時間はなかった。夕方に相談すればいいか、と考えながら開店準備をした。

「あ、空が真っ青」

 なんとなく、今日は良い事がありそうだ。


 開店直後に昨日注文されたブレスレットを引き渡し、昼過ぎになってやっとお客さんが落ち着いてきた。組紐の柄を二つ増やしたことで興味を惹いたのか、組紐の注文が一件入った。

「そろそろ、お昼かな……」

 昼時になると、下のカフェが混雑し始め、私の店の方は人が減る。わざわざ昼食の時間に装飾品見る人も少ないので、私が食事を取る間だけ、一時的に閉めているのだ。

「よし」

 お昼ご飯は二階のキッチン借りて、私がトッド君とターシャちゃんの分も作ることになっている。朝食時に聞いておいた材料を使って簡単にサンドイッチを作る。

「さて」

 食べる前に、トッド君とターシャちゃんに声を掛けに行こう。今日は下のカフェの手伝いをすると、朝に言っていたはずだ。階段からそっとカフェを覗く。

「いたいた」

 二人は宣言通り、カフェの入り口で呼び込みをしていた。キッチンにいるジュディさんに昼食のことを伝え、二人に声をかける。

「トッド君、ターシャちゃん」

「アユム!!」

「おひるごはん?」

「そうだよ」

 ご飯、ご飯、と嬉しそうに二人は跳ねた。そんな二人に微笑んで二階に戻ろうとしたが、その時、見慣れた顔が視界に入った。

「ルイーエ嬢、休憩時間ですか?」

「ランバート様。はい、そうです」

 私の協力者ということになっている人物である。そういえば、定期的にカフェに通って、ついでに私の店にも来ると言っていた。今日がその日だったのだろうか。

「ルイーエ嬢、今日、お時間都合のいい時ありますか?」

 聞かれて、ちらりと二人の様子を見る。二人は嫌そうな顔でランバート様を見ている。本当に苦手らしい。一緒に食事を、というのはジュディさんの家に勝手にあげることにも

なるし、二人も嫌がるだろうから辞めたほうがいいだろう。

「……そうですね、今からでも大丈夫ですよ。トッド君、ターシャちゃん。ご飯、二人で食べれる?」

「うん」

「だいじょうぶ」

 二人とも、調理さえ終わっていれば自分達で食べる事ができる。ランバート様には私の生活スペースの方に入ってもらおう。二人とは二階で別れ私たちは三階に行く。

「ランバート様は昼食は取られましたか?」

「ああ、いえ。カフェで食べようかと」

 昼食時にカフェに来ていたので当然といえば当然か。仕方がない、と自身のキッチンにある食材を思い出す。

「簡単なもので宜しければ召し上がられますか?」

 常にパンと野菜は置いてあるので、サンドイッチとスープくらいは作る事ができる。スープは時間が掛かるが、パンを切って挟むくらいなら大した手間ではない。

「お願いします」

「はい」

 サンドイッチはすぐに完成し、ランバート様の前に置いて私も座る。一口、二口と食べてもランバート様は口を開く様子がないので、私から話を切り出した。

「それで、お話とは?」

「ああ、いえ。今日は、ルイーエ嬢にお話を聞きに来たんです。困っていることはありませんか?」

「私、ですか……」

 気になっている事が、ないわけではない。言い淀むと、ランバート様は何かを察したのか、あるんですね、と真剣な眼差しになった。

「魔法に関すること以外でも、困っている事があるのならお力になりますよ」

「まだ、困っている、という程ではないのですが……」

 簡単に、昨日の出来事を話す。組紐を販売し始めたことによって、製作が追いつかなくなりそうなこと。そのため、休みを増やすことと、展示方法について考えていると。

「ということで、休みは増やすとして、便利な魔法とかがないのかなと考えておりまして」

「……その、必要な魔法の効果について、詳しく教えてくれますか?」

 何か思い当たることでもあったのか、ランバート様は魔法の具体的な効果について聞いてきた。

「思い浮かべてものを画像化できれば、解決すると思ったのですが……」

「ある」

 そんな便利な魔法、ありますか?と、聞くより前に言われて驚く。あったら便利だな、程度の魔法がそこまで発達しているとは思っていなかったのだ。

「魔法ではなく、道具なのですが……」

「実際に使われている道具があるんですね……」

「はい。思い浮かべたものそっくりの、人形のようなものができます」

 しかも、画像ではなく立体らしい。魔法が専門な訳ではないランバート様が知っているということは、広く普及している道具なのかもしれない。それなら、稼ぎが上がれば私も購入できるかもしれない。

「どういったことに利用されているのですか?」

「……捜査などの際に使われています」

「ああ……」

 一瞬希望を持ったが、すぐにそれは消えた。成る程、犯人や盗難物のことを言葉で聞くより画像化されていた方がわかりやすい。

「それは、一般人が手に入れられるものではなさそうですね……」

「そう、ですね。一般向けに販売はされていないですね……」

 お互い、黙り込む。便利なものがあるなら欲しいだけで、駄目なら駄目で自分で対処するしかない。

「お話、聞いてくれてありがとうございました。本日はもう大丈夫ですから」

 そろそろお店を開けますので、と言ってランバート様には帰ってもらうことにした。

次回更新は3月5日17時予定です。

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