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宣伝効果

 ジュディさんにも好評だったため、開店前までに組紐を二つほど作った。矢羽根模様とV字模様のものだ。一昨日は殆どお客さんが来なかったこともあり、少し緊張する。

「大丈夫、大丈夫」

 寧ろ、今迄が順調過ぎただけだ。目立つ場所に店を構えている訳でなく、宣伝もろくにしていないのにお客さんが入って来ていた今迄が幸運だったのだ。その間に幾つか商品が売れたので、このまま噂が広がってくれれば物珍しさから来てくれる人はいるはずだ。

「深呼吸しよう……」

 ちらり、と扉の方を見るが、開店までほんの少しだけ時間があるので人の気配はない。大きく伸びをして、ゆっくりと深呼吸をする。呼吸を落ち着けながら陳列してある商品を見る。我ながらいい出来だ。きっと、見て貰えれば評価される。自信をもって接客すれば大丈夫。

「よし」

 気持ちが落ち着いたところで、ゆっくりと扉を開く。すると、何故か扉の前にトッド君とターシャちゃんが立っていた。

「アユム」

「いまから?」

「そうだよ」

 こてん、と首を傾げて開店したかどうかを確認してくる。まだお客さんは誰も上がってきていないが、開店時間であることは確かなので頷くと、二人は顔を見合わせて頷いた。

「「おじゃましまーす」」

「どうぞ」

 今日は外で遊ぶ気分ではないのだろうか。商品を勝手に触ったりすることはないだろうから、お客さんに迷惑を掛けない範囲内であれば好きにして貰っておこう。

「アユム、おぼえてた?」

「きょう、たのしみにしててね、って」

「……そう言えば、そうだったね」

 二人はカウンターの中に入り、仲良く椅子に掛けた。足をばたつかせながら、何が楽しみなのかが分かっていない私を見てニコニコ笑っている。教えてくれる気はないようだ。

「アユム、わかってないね」

「しかたないね」

「答え、教えてくれる?」

 すると、二人は首を左右に振った。教えてくれるつもりはないらしい。

「もうすこしまって」

「そしたら、わかるよ」

 二人がそう言うと同時に、階段を上る足音が聞こえてきた。良かった、お客さんが来てくれたみたいだ、とほっとする。とんとんとん、と一定のリズムで階段を上ってくる足音を聞いていると、ふと、音の数が多い事に気が付いた。

「すみません、ここ、装飾品店で合ってますか?」

「そうです。いらっしゃいませ」

 もう一組いらっしゃるのかな、と思いつつ、最初に入ってきた女性に笑顔で挨拶をする。カフェにある看板を見てきてくれた人のようだ。簡単に、今ある商品の事と受注生産も受け付けていることを伝える。

「あ、あった」

「そうだね」

「いらっしゃいませ」

 説明が終わり、最初の女性客が商品を眺め始めたところで、次のお客さんが入ってきた。今度は男女の二人組。おそろいの指輪を嵌めているので夫婦だろう。

「此処がお店……」

 更にお客さんが入ってくる。今度は女性一人だ。その女性が入ってきたことを見るなり、トッド君とターシャちゃんは椅子から下りて駆け寄ってきた。

「いらっしゃいませ!!」

「いらっしゃいませ~」

「あら、二人共。今日はこっちのお手伝い?」

「「はい」」

 女性は二人に気付くと、少し屈んで二人に目線を合わせた。どうやら、カフェの常連さんのようだ。慣れた様子で二人と女性はお喋りを続ける。

「二人がつけていた指輪は此処のものなんでしょう?」

「そうだよ」

「こっちにあるよ」

「ふふ、案内よろしくお願いします」

 どうやら、二人による指輪の宣伝に興味を持ってくれたお客さんのようだ。確かに良い事だな、とカウンターに戻りつつ、二人の様子を眺める。

「すみません、このブレスレット、ピンク色のものは作れますか?」

「はい。明日以降、お渡しできます」

 すると、最初に入ってきたお客さんが白と青のビーズで作ったブレスレットを持ってカウンターに来た。どうやらデザインは気に入ってくれたようだが、好みの色が無かったらしい。すぐに紙とペンを取り出す。

「なら、明日の朝でお願いします」

「畏まりました。デザインはこのままで宜しいでしょうか?」

「大丈夫です。色だけピンクに変更してください」

「はい。それではお名前を……」

 あっさりと製作依頼の話がまとまり、お客さんは帰って行った。すると今度は二人組が白色のネックレスを持ってきた。此方はそのまま購入、という事で会計を済ませ、帰って行く。

「二人は……」

 後は二人と話していた女性一人だけの筈なので、接客に行こうと席を立とうとした時だった。先程、人が出ていったばかりの筈の扉から、一人、二人とお客さんが入ってきたのである。

「いらっしゃいませ」

「あ、いたいた」

「来たよ~」

「「いらっしゃいませ~!!」」

 入ってきたお客さんは、トッド君とターシャちゃんに手を振ってから商品を見始めた。二人はポカンとしている私を見て、クスクス笑いながら近づいてきた。

「アユム、びっくりしてる」

「すごいでしょ?トッドといっしょに、がんばったの」

 どうやら、二人が宣伝をし、今日お店に行ってみる、と言った人がそれなりにいたようだ。だから二人は楽しみにしててね、と私に予告したのである。

「「どう?うれしい?」」

「うん、嬉しいよ」

 私は笑顔で二人に答え、店を見渡す。たくさんのお客さんに来て貰うには、まだまだ品が足りないな、と苦笑した。


次回更新は3月3日17時予定です。

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