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矢羽根の組紐

 ジュディさんの食材の仕入れも手伝い、私たちは昼前には家に帰り着いた。午後からはジュディさんは買った品物の確認と帳簿の確認作業をするらしい。

「お手伝いは大丈夫ですか?」

「荷物も持ってもらったし、特にないよ」

 アユムも午後は好きにするといいよ、と言われ、それならば先程買った糸を使おうと自室に戻る。ジュディさんに渡す物を作るのだ。

「【工房】」

 工房に入り、壁面を確認する。すると、記憶にない文字が表示されていた。

『【組紐】初仕入れボーナス獲得達成』

『【工房】スキルポイント50獲得』

『【組紐】技能ポイント50獲得』

 どうやら、自分で買い物に行き、材料を購入したことに対するボーナスらしい。それに、初めてビーズ以外の技能ポイントを見た気がする。

「これならもっと気軽にジャンルが増やせそう」

 初めてジャンルの材料を買い物したら50ポイント貰えるのなら、毛糸を買ってきて編み棒は工房で手に入れ、完成ボーナスで毛糸を増やすこともできる。

「取り敢えず、組紐、って書かれてるし、最初に作るのは組紐にしようかな」

 ジュディさんは手には付けられないだろうが、髪を縛るのに使ったり、足につけたりすることはできるだろう。

「本当は、タッセル作ろうと思ってたけど……」

 ネックレスやブレスレット、まだ金具がないがピアスやイヤリングのパーツとしても使える。時間があるときに各色で作っていこう。

「色は……、白と緑かな」

 ミサンガは色によって効果がちがうと言われている。ミサンガは組紐の一種だし、同じ考え方でもいいだろう。ちなみに、白も緑も健康の意味を持っている。

「……矢羽根にしよう」

 模様は矢羽根にした。なんとなく落ち着いた雰囲気のある模様だ。まずは白と緑の糸をそれぞれ4本ずつ、完成品の長さの約3.2倍の長さで切る。

「タイマーを4時間後にセット」

 夕食の支度を始めるには少し早いくらいの時間だ。何度か作ったことがあるので、おそらく1時間半程度で完成するとは思うが、念の為、作業時間を決めておく。

「左が緑、右が白からでいいかな」

 端から少し開けて束ねた8本を結び、真ん中で色を分けて並べる。糸が動かないように上から押さえつつ、左端の2本を4の字結びをする。

「巻いて、引き締めて、入れ替わったら隣」

 次は左側から二番目と三番目の糸で、その次は三番目と四番目の糸で同じ作業を繰り返す。

「今度は反対……」

 右側からは逆4の字結びで真ん中まで結んでいく。最後に中央の二つで逆4の字結びをもう一度したら、後は同じことの繰り返しだ。

「思ったより覚えてるから、大丈夫そう」

 端の方は三つ編みや四つ編みを少しして処理するが、暫くはそこまでいかないだろう。無言で同じ作業を繰り返す。

「……重石かセロハンテープ欲しい」

 作業を開始してすぐ、押さえる為の指が痛くなり、仕方がないとニッパーや鋏を糸の上に置いて重石代わりにしたのだった。


「で、できた」

 作業開始から2時間。白と緑の2色が交互になっている、矢羽根模様の組紐が完成した。途中、疲労からか、思っていたより指が動かなくなり、休憩を取っていたら時間がかかったのだ。

「ゆくゆくは暖房機器を付けるべきだよね……」

 温めると少し楽になるし、指先が悴んでしまっては作業ができない。寒くなる時期までにはポイントを貯めて、ストーブなどを設置しないと冬場は作業が出来なさそうだ。

「そもそも、工房の中って気温変化あるの?」

 疑問に思って尋ねてみると、取扱説明書の方が出てきた。曰く、基本的に別空間なので外的要因によって影響を受けないが、現時点では私が入室した時の周囲の環境と同じ条件になっているらしい。

「つまり、部屋が寒い状態で工房に入ると、工房も寒い」

 深刻な問題である。暖房の入手は冬までの課題となった。

「そうだ。組紐の製作完了ポイント表示」

『アイテム:矢羽根の組紐 製作完了』

『【工房】スキルポイント10獲得』

『【組紐】技能ポイント10獲得』

 驚いたことに、組紐は一つ作るだけで10ポイントも貰えるらしい。時間が掛かるからだろうか。ネックレスの2倍である。

「ポイント使用……は、後でいいか」

 取り敢えず、完成品をジュディさんに渡しに行こう。約束事は守る。期日があるなら早めに、が原則である。駆け足で二階に降りると、リビングで帳簿と睨めっこをしていた。

「ジュディさん、此方、よろしければどうぞ」

 目の前に作ったばかりの組紐を置くと、ジュディさんは目を丸くした。

「アユム……。もう完成させたのかい?それに、これ、すごく綺麗じゃないか。さっきの糸がこれになったなんて信じられないよ」

「喜んでいただけて嬉しいです」

「どうやって使うんだい?」

「髪紐にしても、腕や足に巻き付けても使えます」

 ジュディさんは、にっこり笑って組紐で髪を束ねた。使ってもらえるようで何よりだ。

「これ、商品にもできるんじゃないかい?」

「ありがとうございます」

 そう言ってもらえると嬉しい。ジュディさんの笑顔を見て、今晩もう少し頑張って明日から店頭に並べてみようかな、と思ったのだった。

次回更新は3月2日17時予定です。

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