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間に合わない

 儀式の準備は既に終了しており、会場には、今回の儀式で帰還する予定の人たちが集まり始めていた。今回、参加できない人がいると聞いていた割には人数が多い。今迄、聖女を一人召喚するためにどれだけの人数が召喚されていたのだろうか。少し考えて、やめる。過去の事よりも、これからのことを考えなくては。

「リアーヌ様たちは……」

 入り口付近は日本人の受付をしているようで、この国の人たちは姿が見えない。恐らく、別に席が設けられているのだろう。会場を見渡すと、中央に書かれた魔法陣の更に向こう側に、人が並んでいることが分かった。

「あの辺りかな?」

 儀式の見送りに来た人たちだろう。最前列に座っている人から順番に探していくと、丁度真ん中の辺りにリアーヌ様が座っていた。私は怒られない程度に走り、リアーヌ様の前に立つ。

「おはよう、アユム。見慣れない服装だから中々わからなかったわ」

「おはようございます、リアーヌ様。本日は、私が、最初に作ったものを付けてくださっているのですね」

「ええ。今日は大切な日ですもの。アユムとの思い出のものにしてみたのよ」

 今日の儀式に参加することを決めた時点で、アクセサリーに合わせてドレスを作ったらしい。そこまで大切にしてもらえると、本当に、製作者として大変嬉しいものである。

「それで、アユム。大切な話をしに来たのでしょう?」

「はい。お時間よろしいですか?」

「勿論よ。ただ、リシャールはビオ卿の手伝いで外しているの。できたら後で直接伝えてあげて頂戴」

「わかりました」

 儀式の準備に、何か問題があったのだろうか。どちらにせよ、後でベルンハルト様のところにはいくのだから、その時に確認しよう。私は背筋を伸ばし、リアーヌ様をまっすぐに見つめる。リアーヌ様は無言で私の頭の天辺からつま先まで見て、苦笑した。

「その格好の時点で、答えは予想できるけれど。アユムの口から直接聞かせて頂戴」

「はい。リアーヌ様から頂いた、養子縁組のお話ですが、辞退させていただきたいと思います」

「残念だけど、アユムが選んだのなら仕方がないわね。一つだけ聞いていいかしら?」

「勿論です」

 伯爵家という言葉が重かったか聞かれるのだろうか。それとも、リアーヌ様個人への感情の問題か、どうすることにしたのか質問されるのだろうか。少々身構えていると、リアーヌ様はピアスに手を当てながら言った。

「この作品は、アユムのものだと言うことは、問題ないのよね?」

 予想外の質問に、私は一瞬固まった。リアーヌ様の質問の意味がすぐには理解できない。どういうことだろうか、と考えていると、補足説明が入った。

「これから、アユムが何をしたとしても、この作品の製作者はアユムでしょう?そして、アユムを最初に見つけ出した貴族は私。そのことを話すことは、問題ないの?」

「は、はい。それは、問題ありません」

 店としての権利は王宮に保証してもらっている。今迄作った商品も、全て私の作品として正式に登録されているはずだ。夜会などで話題にすることに問題はない。

「ならいいわ。さ、アユム。時間が無くなるから、ビオ卿の方に向かいなさい。確か、受付と反対側の方にいるはずだから」

 私の答えを聞くと、リアーヌ様は一人で頷き、私に早く移動するように指示をした。肩をつかみ、ベルンハルト様がいるであろう方向を向かされ、背中を押される。時間がないのは事実だが、今の答えで良いのだろうか。

「アユムとアユムの作品を自慢できるなら、私はそれでいいの。気にせず行ってらっしゃい」

「はい。ありがとうございます、リアーヌ様」

 嬉しい一言に、一礼だけして歩き出す。人波をかき分け、関係者用の仕切りを超え、奥へ奥へと移動していく。すると、研究員たちの控室のような場所を見つけた。

「あの、ベルンハルト様はいらっしゃいますか?」

 ドアをノックしながら尋ねると、中から凄い物音がした。もしかして、ドアの近くに物を積んでいたのだろうか。もし崩してしまったのなら、片付けを手伝うべきだろう。そう思ってドアノブに手を掛けたところで、反対側から扉が開いた。

「おはようございます、ルイーエ嬢。ベルンハルトなら中にいます」

「ランバート様。おはようございます」

「日本の服ですか?動きやすそうですね」

「そうですね、着るのも簡単ですよ」

 ベルンハルト様は中にいる、と教えてくれたのだが、何故かランバート様は扉の前から動く様子がない。どうして入れてくれないのだろうか。隙間から中の様子をうかがおうとすると、さりげなく見えないようにされる。

「あの、ベルンハルト様に、お話が……」

「ちょっと、ベルンハルトは今、話ができるような状況ではないというか……」

「お忙しいのですか?」

「ええ、まあ……」

 時間がない。取り敢えず、ランバート様には先に伝えて、その後強行突破でもしてベルンハルト様と話をしよう。そう思った時、背後から大きな足音が聞こえてきた。

「ボス!!人数そろったので始まります!!」

 そう、儀式の時間になってしまったのである。


次回更新は9月10日17時予定です。

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