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書類の回答

 用意してもらった馬車に乗り込み、王宮に到着する。儀式は、夜会の時と同じ会場で行われるはずだ。真っすぐに会場に向かおうとしたのだが、一歩踏み出すより前に横から声を掛けられた。

「類家歩様。少々、お話があるのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「貴方は……、はい、大丈夫です」

 声を掛けてきたのは、研究所での会議で司会をしていた、王宮の役人だった。話の内容というのは、恐らくだが今後についての事だろう。私が頷くと、役人は軽く頭を下げ、会場とは違う方向を指さした。

「彼方に部屋を用意しております。重要な話ですので、移動して行いたいと思うのですが、よろしいですか?」

「はい。大丈夫です」

 筆記具や書類などが用意してあるのだろう。儀式の日程が決まってから二週間。回答期限は十分に延ばしてもらった方だろう。部屋に入ると、予想通り、小さめの机の上に大量の書類が置かれていた。

「こちらが、今回確認していただく書類になります。順にご説明いたしますね」

「よろしくお願いします」

 最初に、記録に関する書類。これは回答必須で、私という日本人がこの国に存在した記述を残していいのかの確認である。とはいえ、聖女と違って特に何もしていないので、記述するとしても聖女の協力者、程度になるという。正直、聖女次第である。そう思って役人の方を見ると、すぐに答えが返ってきた。

「聖女様一行は、瘴気の脅威は事実なので旅の記録自体は残す、と仰っています」

「では、私も記述を残して大丈夫です」

 目立つことはしていない。事実だけを残すのなら、別にいいだろう。次に出されたのは、この国での戸籍と財産の書類だ。縁組等は関係なく、この国での戸籍を作っておき、財産を保管しておくかの質問である。私の場合は、店とその作品に関して適応されるらしい。

「……何があったとしても、私の作品である事実は変わりません。戸籍と財産に関しては、残していただけますか?」

「勿論です。店の業績記録等も残しておきますね」

「ありがとうございます」

 これで、何かあったとしても私の店があった事実は揺らがないそうだ。そして、もしも私の不在時に作品に関する問題が発生した場合、代理として王宮が対応してくれるという。私の店に来てくれた人が極力不利益を被らない措置らしい。

「とはいえ、類家様の作品はこの国にはない技術で作られたものもあります。そういったものに関しては、完璧な対応ができるとは限りませんが……」

「いえ、今の配慮で十分です」

 不良品だった場合は、王族が保管している私の財産から補填が行われるそうなので大丈夫だろう。修理に関しては、不可能だった場合は、物はいつか壊れるものだと思ってもらうしかない。

「最後に、帰国に関する希望を確認する書類になります。一枚目は、今回の儀式への参加確認書類。二枚目は、今回の儀式、または次回以降の儀式、不慮の事故などが原因で日本に帰還した場合に、再びこの国に来ることを希望するかの確認書類。最後に、この国で生活する場合に、どのような暮らしを希望するのかの確認書類です」

 一枚目の書類は、儀式への参加人数を正式に確認するために記入が必要らしい。戸籍処理などの際に必要となるそうだ。二枚目は、今から研究を行う、日本とこの国を行き来する方法が確立した場合、この国に来るための道具を送るかどうかの判断基準とするらしい。迷っている場合は希望しておけば、道具だけ送ってくれるという。

「一応確認なのですが、もしも日本に戻って、死んだ後に道具が送られてきた場合、危険性などはありますか?」

「いえ。希望されたご本人以外には使用できないようにする予定なので、危険性はないと思われます」

「わかりました」

 日本に影響を与えないように配慮するが、その分、開発には時間が掛かってしまうだろう。基本的には二度と行き来できないので、今回は迷って儀式の参加を決められない人も一定数いるそうだ。そういった人たちのために、少し期間をおいて二回目の儀式を行う予定なので、私も決心がつかないのならば其方に参加してもいい、と役人は言う。

「正直、此方の手続きはどうとでもなります。ですので、類家様が悩んでおられるのなら、答えを出すのを先延ばしにする、というのも一つの答えかと」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です」

 色々と書類を見て方針を変更した部分もある。しかし、この部屋に入る前に、私の答えは決まっているのだ。私はペンをしっかりと握り、渡された書類を全て書き終えた。

「お願いします」

「確かに、受け取りました。関係者へのご連絡は、王宮を通して行うこともできますが」

「直接伝えられない方には、王宮の方からお願いします。自分で伝えられる方には、自分の口から話したいと思います」

「かしこまりました」

 少なくとも、ベルンハルト様とリアーヌ様、ランバート様には直接伝えられるはずだ。私は部屋を出て、今度こそ儀式の会場へと向かう。儀式の開始時刻は、刻一刻と迫ってきていた。


次回更新は9月9日17時予定です。

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