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儀式の朝

 儀式までの二週間、ベルンハルト様は、色々な所に連れて行ってくれた。多分、思い出作りを兼ねていたのだと思う。今迄行ったことのない、王都近辺の観光地や研究員がよく利用する店など、様々な場所に行った。

 そして今日は、日本に帰還するための儀式が行われる日だ。今日でこの研究所に滞在するのも最後になるのかと思うと、少し寂しい気持ちになる。とはいえ、落ち込んではいられない。取り敢えず、朝の挨拶をしようと実験室の扉を開けた。

「おはようございます」

「馬鹿クルト!!この道具は昨日のうちに搬入しとけって言っただろ!!準備間に合わないぞ!!」

「ギリギリまで実験するから無理って言ったじゃないですか!!今から持っていきますから!!」

 挨拶が返ってきそうな状況ではない。昨日の夕方の時点では、後は準備するだけの状態だったはずなのだが。もしかして、期限ギリギリになって大幅な改善案を思いついてしまったのだろうか。よくある話だが、儀式は大丈夫なのだろうか。

「ルイーエ嬢、おはようございます!!ちょっとお願いなんですけど、伝言頼んでもいいですか!?」

「大丈夫ですよ。一応聞きたいのですが、何か問題でもありましたか?」

「ありがとうございます!!問題はないです。昨日、徹夜してたら急に閃いちゃって。全体共有と改善作業は間に合ったんですけど、移動させる時間が無くなっちゃったんですよね」

 虚ろな目をしたまま乾いた笑いを浮かべるクルト君。これは、かなりの重症のようだ。他の人たちも徹夜で限界、といった風なので、儀式が終わったら倒れ込むだろう。

「で、伝言の内容なんですけど、魔法陣研究班の人達に、僕らと素材班は先に王宮に向かうって伝えてください。本当は素材班だけの予定だったんですけど、ちょっと間に合いそうにないので」

「わかりました」

「お願いします!!では!!」

 私が頷くと、クルト君は大きな箱を抱えて実験室から出て行った。さて、私は伝言役を果たさなければ。魔法陣を研究している班のリーダーはベルンハルト様なので、所長室まで行けば大丈夫だろうか。

「あ、副所長さん」

「おはようございます、ルイーエ嬢。どうかされましたか?」

 所長室に向かって歩き始めたところで、副所長が反対側から歩いて来た。特に急いでいる様子はなく、彼方から声を掛けてくれたので遠慮なく質問をすることにする。

「ベルンハルト様を探しています。クルト君から伝言を頼まれたので」

「所長は現在、研究所内にはいません。本日の儀式には王族も参加しますので、屋敷で支度をするとのことです。伝言の内容によっては代わりに伝えますが、どうされますか?」

「では、代わりに伝えて頂けますか?」

 内容的に、私が伝える必要はないことだ。伝言内容をそのまま伝えると、副所長は深い溜息を吐いてから頷いた。

「一字一句違えずお伝えしておきます」

「要点だけでも大丈夫とは思いますけど……」

 安定性が上がった、と言っていたのでクビにされることは無いだろうが、期限ギリギリになったことを注意されるのかもしれない。用事は終わったので、私も王宮に向かおうと思い歩き出そうとした時だった。副所長が私を呼び止めた。

「確認なのですが、ルイーエ嬢はどのように身支度を整えるおつもりですか?」

「…………身支度、ですか?」

「ええ。所長の屋敷で一緒に支度をするものかと思っていましたが、この時間に研究所におられるということは、ご自身で準備されるのですか?」

 何も考えていなかった。よく考えると、日本に帰るのなら此方に来た時の服装で、そうでないのなら王族の前に出るのに相応しい服装をしなければならないのではないだろうか。来た時の服はすぐに着ることができるが、ドレスは自力では着られない。

「…………考えていませんでした」

 服装もだが、これからどうするのか、まだ微妙に決心がついていない。少々人数が変動したところで、儀式に問題はないので直前まで決めなくていいと言われていたので油断していた。

「でしたら、まずは日本の服装をするのが良いかと。此方の服とは違いますので、格式の問題はないでしょう」

「急いで着替えてきます」

「確認のためにも、ルイーエ嬢は早めに王宮に向かった方が良いでしょうね。移動用の馬車を用意しておくので、支度が終わったら実験室までお越しください」

「何から何までありがとうございます」

 深々と頭を下げると、副所長は大丈夫ですよ、と微笑んでくれた。全力で感謝しながら廊下を走り、急いで鞄を開ける。昨日までに私物は全て来た時持っていた鞄に纏めておいたのだ。その一番上から服を取り出し、手早く着替える。

「着替えはこれでいいとして、化粧は……」

 食堂に行くだけのつもりで家を出ていたので、大した道具は入っていない。まあ、しないよりマシだろう。簡単に化粧をして、鏡の前に立つ。あとは此方に来てから作ったアクセサリーでもつけよう、と箱を開ける。

「…………」

 箱の真ん中に輝いているのは、緑色のペンダントだ。デザイン、色合いからして、今日の服装と合わせるのに問題はない。私は少し迷った後、ペンダントを付けた。


次回更新は9月8日17時予定です。

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