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二人の意見

 ランバート伯爵邸に到着すると、リアーヌ様とランバート様が玄関まで迎えに来てくださっていた。

「ビオ卿、アユム、お久しぶりね」

「お久しぶりです。ランバート伯爵夫人。本日は、突然の訪問をお許しいただきありがとうございます」

「ベルンハルトから連絡はありましたが、ルイーエ嬢の元気な様子を見て安心しました」

「見ての通り、すっかり元気です。ご心配ありがとうございます」

 夜会の一件以降、リアーヌ様ともランバート様とも会っていなかったので、本当に久しぶりだ。二人は、私が意識を失っている姿を見たのが最後だったらしく、心配してくれていたようだ。

「挨拶はこのくらいにして、中に入りましょう。ビオ卿が態々知らせを送ってから来たということは、大切な話でしょうから」

 簡単な挨拶を終えると、リアーヌ様は応接室まで案内してくれた。小さな部屋には私たち四人の他は誰もおらず、机の上には謎の紙が置いてある。

「随分と用意が早いですね」

「善は急げと言うでしょう?話が纏まれば、すぐに提出できるようにしてあります」

 ベルンハルト様とリアーヌ様が向かい合って座る。私はベルンハルト様の隣に、ランバート様はリアーヌ様の隣に腰掛け、机に置かれた書類に目を遣る。

「養子縁組申請書……?」

 細かい文字は見えないが、書類の1番上にはそう書いてある。私が声に出して読むと、リアーヌ様はにっこりと笑って頷いた。

「ええ、そうよ。今日はその話をするためにこちらに来たのでしょう?」

「間違ってはいませんが、養子縁組の話だけをしに来た訳ではありませんよ」

 勿論、この国に滞在を希望する場合、養子縁組の話は重要だ。しかし、私はまだ日本に帰るのかどうかを決められていない。まずはそこから説明しなければならない。

「まずはご報告を。希望する日本人が故郷へ帰るための儀式の日程が、正式に決定しました。後日知らせはあると思いますが、先にお伝えしておきます」

「流石は国立魔法研究所。予想以上に早かったわね」

「他の方々のご協力があってこそです」

 現在は日本への帰還儀式に全力を挙げている国立魔法研究所だが、儀式の後は瘴気への対策について研究を行うらしい。ランバート伯爵家は瘴気対策に出資しているため、その予定を伝える必要もあったらしい。

「…………研究所の方針に異論はありません。今迄通り、ランバート伯爵家は資金援助を行います」

「ありがとうございます」

「それで、ビオ卿は、このままアユムを研究所に引き抜くおつもりかしら?」

 ここで、リアーヌ様が一気に本題を切り出した。現在の私の立場は研究所預かりの日本人、ということになっているので研究に協力するのは当然だ。しかし、次はそうではない。私が希望した生活方式によっては、研究所に立ち入ることは無くなるだろう。

「勿論、アユムがいないからと進まないような研究方針を立てていらっしゃるとは思っていないけれど、アユムは多才でしょう?人材不足の研究所からすれば、喉から手が出る程欲しいのではないかと思って」

「ルイーエ嬢が希望してくれるのなら、研究所としては喜ばしい限りです。しかし、ルイーエ嬢は研究よりも装飾品を作る方が好きでしょう。協力を頼むことはあっても、研究員になることは無いのではないでしょうか」

「そうよね。やっぱり、アユムは装飾品を作る方が好きよね?」

「は、はい。研究も嫌いではありませんが、私は作品を作る方が性に合います」

 二人が話し合っていると思って油断していたら、急にこちらに話が振られた。驚いて少し言葉を詰まらせたが、アクセサリー製作の方が好きなのは純然たる事実だ。はっきりと返事をすると、リアーヌ様の笑顔が輝いた。

「なら、アユム。うちの養子にならない?そうしたら他の貴族から守ってあげられるし、今のお店も続けられるわよ。ちょっと私たちとの関係性は変わるけれど、大した問題ではないでしょう?」

「ランバート伯爵夫人。残念ながら、店を続けることができる、という条件なら他にも出しているところはありますよ」

「あら。それはどこかしら?」

「我が家ですね」

 再び、リアーヌ様とベルンハルト様の間に火花が散った。私の話の筈なのに、私は完全に蚊帳の外である。ランバート様に至っては二人が話し始めてから一言も発していない。今も気まずそうに座っているだけだ。ちらり、とランバート様の方を見ると、丁度目が合った。

 この空気、何とかできませんか。そう思ってアイコンタクトをしてみると、通じたのかランバート様は小さく頷いた。

「……すみません、そもそも、ルイーエ嬢はこの国に残ることを選んでいるのですか?」

「いえ、まだです」

「何を言っているのです、リシャール。アユムが日本に帰るとしても、此方での戸籍を作っておいた方が後々便利でしょう」

「ああ。日本とこの国を行き来する手法が確立した後に揉めないよう、先に決着をつけておくべきだ」

 二人はそういって再び向かい合った。しかし、これ以降、私の頭に二人の会話が入ってくることは無かった。なぜなら、ベルンハルト様が言った日本とこの国を行き来する手法、という言葉が頭の中に何度も繰り返されていからだ。

次回更新は9月6日17時予定です。

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