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優しい一家

 簡単な自己紹介を終えると、ベルンハルト様はすぐに本題を切り出した。営業を中断しているジュディさんたちに気を遣っているのだろう。

「結論から先に話すと、ルイーエ嬢は二週間後には別の場所に住む可能性が高い」

「…………どういうことだい?」

「ベルンハルト様、まずは長期間王宮に留まることになった理由から説明しないと……」

 気を遣った結果とはいえ、途中説明を省いて結論から伝えると、何がどうしてそうなったのか、全く以て分からない。話の繋がりがわかりやすいように、時系列順に説明した方が良いだろう。

「王宮で行われた夜会の後、ルイーエ嬢には婚約と養子縁組の申し込みが寄せられた。その対応をしてもらうため、しばらく王宮に滞在してもらうことになった」

「アユム、にんき?」

「すごいね」

 嘘ではないのだが、純粋な瞳を向けられると心苦しくなる。ジュディさんとカルロさんは驚いているものの、そういうこともあるんだね、と納得してくれているようだ。

「本来、一般市民が貴族からの申し込みを断ることは難しい。しかし、今回は申込件数が多いことや、ルイーエ嬢の功績を考えた結果、本人の意思で決定してもらうことになった」

「つまり、その最終決定が二週間後になるってことなのかい?」

「その通りだ。可能性が高いと言ったのは、余程の理由がない限り、ルイーエ嬢は決めた相手の家に入ることとなる。その場合は此処にある店は閉めることになるだろう」

 王都では、商人の子が下級貴族と結婚するということは偶にあることらしく、二人はすぐに納得してくれた。大抵の場合、商人の貴族の結婚は選択の余地も拒否権もないことが多いので、私の条件はかなり良い方だろう、と。

「アユムが決めるべきことだからね。私から何か口出ししたりはしないよ」

「そうだね。言い方は悪いが、うちとの関係はあくまで三階部分の貸し借りをしているだけだ。だから、変に気を遣ったりする必要はないよ」

 本来は、場所を借りているだけなので、契約に違反しなければ出ていくことに問題なんてないのだ。ただ、私は色々と気を遣ってもらって、家族ぐるみの付き合いがあったので、きちんと話をしておきたいと思っただけで。

「まあ、でも、一つだけ言っておこうかね」

 私が考え込んでいると、ジュディさんがいつものような、明るい調子で言った。何だろう、と思って顔を上げる。目が合うと、ジュディさんはにっこりと笑った。

「アユムが良いと思える相手がいないなら、全員断って帰っておいで。私もカルロも、子供たちも歓迎するから」

「そうだよ、アユムさん、男に妥協なんてしちゃだめだよ!!」

「どこぞのうまのほねより、ターシャのほうがいいよね?」

「ソニアちゃんもターシャちゃんも、どこでそんな台詞覚えたの?」

 しかも、ターシャちゃんは意味も分かっていないのに言ってそうだ。使うタイミングは完璧だけれども。どこで覚えたのかは、後でジュディさんに問い詰められることだろう。

「ターシャもアユムも、まもってやるから、およめにいかなくてもだいじょうぶ」

「トッド君……」

 最後に、トッド君から手を握られながら格好いい一言を貰い、感動で涙が出そうになる。きちんと意味を理解しているかは分からないが、タイミングは完璧だ。思わず手を握り返そうとしたところで、背後から肩に手を置かれた。

「それは困るな。俺としては、ルイーエ嬢に嫁に来てもらいたいのだが」

「ベルンハルト様!!今言う必要ありました!?」

「先程も言ったが、負けるわけにはいかないのでな。そこの少年よりはルイーエ嬢を守ることができるが、どうだ?」

 ベルンハルト様の発言に、トッド君は頬を大きく膨らませた。ソニアちゃんとターシャちゃんは両手を頬にあて、ジュディさんとカルロさんは苦笑している。

「屋敷は王都の中にあるからな、ルイーエ嬢が望むなら、店を続ける手助けはできる」

「トッドもおてつだいできるもん!!」

「そうか。どんな手伝いができる?」

「おきゃくさまのごあんないと、おそうじはできるし、いっしょにあそべる!!」

「…………相手がお貴族様だって聞いて心配したけど、大丈夫そうだね」

 トッド君の相手をしながら、ベルンハルト様は私にとって魅力的な条件を並べていく。その様子を見てジュディさんとカルロさんは安心したようだ。私は力強く頷いて言った。

「はい。私は、大丈夫です」

「何かあったらすぐにおいで。アユムのためなら、いつでも相談に乗るよ」

「ありがとうございます」

 お礼を言ったところで、ベルンハルト様とトッド君の勝負にも決着がついたようだ。営業の邪魔になってもいけないので、今日は解散となった。カフェで食事を終えた後、トッド君とターシャちゃんに見送られ、次の目的地へ向かう。

「次は、ランバート伯爵家に向かおうと思うのだが、どうだろうか」

「お願いします」

 次に挨拶に行くのはランバート伯爵家。養子縁組の申し込みをしてくださっている、リアーヌ様との話し合いだ。


次回更新は9月5日17時予定です。

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