貝殻のペンダント
ああでもない、こうでもないと言いながら、二人は楽しそうにネックレスを完成させた。
「少し確認させて頂きますね」
「お願いします」
金具の付け方に問題がないか、などを確認していく。少し力を入れたら金具が外れてしまった、なんて事が起こったら折角の思い出も台無しである。
「大丈夫そうですね、此方、改めて梱包などされますか?」
贈り物用の箱は一応準備してある。既に中身を見ているが、誕生日に改めて渡す場合はラッピングしておいた方がいいだろう。
「カリーナ、どうしたい?」
「このまま身に着けて一緒に帰りましょう。お揃いを見せびらかすのは嫌?」
「嫌な訳ないよ」
相談の結果、幸せオーラ全開の二人はこのままネックレスを付けて帰るらしい。アクセサリーボックス位は持っているだろうし、箱がなくても問題ないのだろう。
「どうかしら、似合う?」
「うん。君が僕の色をつけてる、と思うとちょっと照れるね。いつもとは違う色合いだけど、とても似合うよ」
「エリオもとっても似合ってるわ」
お互いにネックレスを付け合って、満足そうな様子である。喜んでもらえて私も嬉しい。
「よろしければ、下にカフェもありますので、このまま街を散策されてはどうでしょう?」
この後どうしようか、と話す声が聞こえたので、ジュディさん達のカフェを宣伝しておく。住まわせてもらっているし、この位しても罰は当たらないだろう。
「そういえば、いつも通り過ぎるだけで食べた事はなかったな……」
「私、甘いものが食べたいわ。エリオ、行きましょう?」
提案すると、二人は席から立ち上がった。そして、男性は笑顔で私の方に手を差し出してきた。
「ありがとうございました。貴方のお陰で彼女を笑顔にすることができました」
「そんな、私は仕事をしただけなので……」
「仕事を断っても良いのに、ネックレスの作り方を教えてくれました」
ですので、と爽やかな笑顔を向けられれば、これ以上は何も言えない。ありがとうございます、と右手を差し出し、しっかりと握手をした。
「また来ます。何かあったら力になります」
「あら、それならエリオより私の方が力になれるでしょう。大抵の店だったら、カリーナ・メディクの名前を出せば効果はあるわ」
最悪、うちのお抱え装飾品店になっても良いわよ、と言い残して二人は店から出て行った。楽しいデートができると良いな、と思いつつ、椅子に腰掛けた。
「お客さん、来なかったな……」
午後からも張り切って営業していたのだが、全くと良いほどにお客さんが来なかった。逆にジュディさんのカフェが大繁盛で、其方の手伝いを頼まれたほどだ。
「3階に行くにはカフェも通らないといけないから、とは思ってたけど……」
誰も階段に向かう人はいなかった。開けたばかりなのでそういう日もあるだろうが、今までは一人二人とお客さんが来ていたので少し凹む。
「アユム、今日は助かったよ」
「いえ、私も暇だったので」
片付けの手伝いをしていると、ジュディさんが声を掛けてきた。カフェに来るお客さんの服装を見ることも仕事に繋がるので良い機会だった。
「お礼と言ってはなんだけど、明日、一緒に買い物に行かないかい?カフェが休みだからアユムの店も休みだろう?」
「是非。どこに行くんですか?」
一人で歩き回ると、また迷子になってしまう可能性がある。一緒に行って貰えるのはありがたい。
「王都の市場だよ。私にはよくわからないけれど、アユムの役に立つ物もあるんじゃないかと思って」
今日のお礼にちょっとした物なら買ってあげるよ、とジュディさんは笑って言った。市場。無意識に工房のポイントを使わないと商品の種類を増やせないと思っていたが、普通に材料を仕入れて作ればポイント関係なく商品を増やせる。
「食材の仕入れの前にアユムの興味のある店を回ろうと思ってるけど、何を見たいとか希望はあるかい?」
「えっと……」
「ゆっくりで良いよ」
ビーズに関してはポイントがあるし、流通状況もわからないので工房から手に入れた方が確実だ。一般的に流通していて、アクセサリーに使えそうな物。
「あ」
「思い付いたかい?」
「はい。糸を扱っている店が有れば、見に行きたいです」
刺繍糸のようなものがあれば、刺繍や刺し子は勿論、小物を編んだり、組紐やタッセルを作ることもできる。
「糸?それなら、繕い物をする時に使うものならあるけど使うかい?」
「色数を揃えたいので見に行ってみたいです」
刺繍や編み物は今のところ道具がないが、タッセルなら簡単に作れるし、アクセサリーパーツとしても使いやすい。
「わかったよ。じゃあ、明日はちょっと早く起きて出かけようか」
「はい、ありがとうございます」
話しながら、今度は夕食の準備のために2階に上がる。すると、リビングからパタパタと軽い足音が二つ聞こえてきた。
「「アユムー!!」」
「どうしたの?」
トッド君とターシャちゃんである。途中までは一緒にカフェの手伝いをしていたのだが、疲れて先に戻っていたのだ。そんな二人が、何故かニコニコと笑顔で私の周りを飛び跳ね始めた。
「「あさって、たのしみにしててね」」
「……うん?わかった」
それだけ言って、二人はいなくなった。何だったのだろう、と首を捻る。まあ、明日も明後日も楽しみがあることは良いことだな、と気にしないことにした。
次回更新は2月28日17時予定です。