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事情説明

「……どうしましょうか?」

 副所長が言っていたことは正しい。私の作品を中心に全体を調整しているのだから、根本である作品に変更があると全体をやり直さなくてはならない可能性がある。それに、夜会の日以降、殆ど外に出ていないので、自由時間があるのは嬉しいことだ。だが、それは私の考えであり、ベルンハルト様の都合はわからない。

「ベルンハルト様がお忙しいなら、私は一人で外に行きますね。ローブがあるので、戻ってきたときに中に入れないということはないでしょうし、護身用の魔法道具は持っていますから」

 私にできることが無くても、ベルンハルト様は違う。研究をしないのなら日程調整や、他の仕事が幾らでもあるだろう。そう思って一人で行く、と言ったのだが、ベルンハルト様は首を横に振った。

「いや、俺も付いていこう。何かあってからでは遅い」

「ベルンハルト様に頂いたペンダントは付けて行くので大丈夫ですよ」

「店にも寄るつもりだろう?臨時休業していた理由を説明できる役がいた方がいいと思うが」

 聖女一行とは違い、私は王都に住んでいた。そのため、王宮や研究所に滞在することが決定した際にジュディさんたちに連絡はされているのだが、私はその内容を知らない。夜会で起こったことをどこまで話していいのかも知らないので、説明役がいた方がいいのは確かだ。

「…………行く前に、どのような説明をすればいいのか教えていただければ」

「言い方を変えよう。ルイーエ嬢、俺と二人で出掛けるのは嫌だろうか?」

 その聞き方は狡いと思う。そもそも、ベルンハルト様のことが嫌だったら研究所預かりになることを了承していない。ベルンハルト様も否定されるとは思っていないようで、表情は自信満々である。

「嫌ではありません」

「そこは、一緒に出掛けたい、と答えてほしいところだな」

「聞かれた質問には答えたので」

 ベルンハルト様と一緒に出掛けるのなら、ローブは必要ないだろう。寧ろ、正式な研究員でもないのにローブを着て外に出ると余計なトラブルを招きそうだ。

「身支度を整えるので、少し時間をいただけますか?」

「ああ。お互いに準備が整ったら部屋の前に立っていてくれ」

 ローブを脱いだ状態で下手に動くとしかけが作動する可能性があるので、部屋の前からは動かない方がいい。私はしっかりと頷いて、自分用に与えられている部屋に戻ったのだった。


 国立魔法研究所から出て数時間。私は、今までになく疲弊していた。身体的にではなく、精神的に。店のある区画までは馬車で移動してきたので良いのだが、馬車を降り、店を目指そうとした瞬間、見知った人達に囲まれてしまったのだ。

「店主さん、最近全く見かけませんでしたけど、何かあったんですか!?」

「お店も閉まってるし、外でも見かけないし、カフェの双子ちゃん達も元気がなくて」

「体でも壊したんじゃないかって噂になってたんだよ?」

 どうやら、王宮からの情報は殆ど流れていないようだ。心配されていたことは嬉しいのだが、どう説明していいものかわからず、後から降りてきたベルンハルト様の方を見る。

「……だから言っただろう。どうせ目立つと」

「エスコートを断ったことは謝りますので、助けてください」

 ベルンハルト様は小さく溜息を吐いたかと思うと、私の隣まで移動してきた。いきなり身なりの整った男性が現れて驚いたのか、周囲の人たちの動きが一瞬止まった。すると、ベルンハルト様は私の体を軽く引き寄せ、言った。

「彼女は装飾品製作の腕前を評価され、王宮の夜会に招待されていた。夜会の後に戻ってこなかったのは、婚約の申し込みに対応する必要があったからだ」

「ベルンハルト様!?」

「何か問題があったか?」

 嘘ではないが、物凄く誤解を招く言い方だ。殆どの人はベルンハルト様が私に求婚したから手続きをするために時間を取られていた、と判断するだろう。そして、今の距離感を考えると、婚約が成立したと思われる。

「そういえば、店主さんは地方の出身だったね」

「ご挨拶に時間が掛かったってことね」

「双子ちゃん達は、店主さんがいなくなるのが寂しかっただけか」

 周りの人たちはそれで納得したようで、数人で固まって話しながら解散していった。これで体調不良等の噂は消えるだろうが、今日の夕方には別の噂が出回っているだろう。ご婦人方の情報伝達速度はすごいのだ。

「どうして誤解を招く言い方を?」

「情報制限が掛かっている。それに、この言い方なら、ルイーエ嬢が帰還を選んでも、此方に残ることを選んでも問題が少ないだろう」

 確かに、あの言い方なら帰還を選んでも、嫁に行ったから、ということで片付けられる。だが、それは王宮の職人に召し上げられるから、など他の言い訳だってあったのではないだろうか。私は無言でベルンハルト様の方を見る。

「それに、答えを急がないとはいえ、忘れられていては困るからな」

「……流石に、忘れません」

 忘れられるわけがない。残り二週間。その間に、ベルンハルト様への返事もしないといけない。二週間で、帰るかどうか決めなくてはいけない。

「忘れていないなら、まだ、答えなくていい。移動しよう」

 そう言って差し出された手に、自分の手を重ねる。完璧なエスコートで歩き始めたベルンハルト様だったが、カフェに入った瞬間、トッド君とターシャちゃんからタックルを喰らい、大きくよろめいたのだった。


次回更新は9月3日17時予定です。

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