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迫る時間

 一番難航すると予想されていた、空間転移の魔法付与があっさりと成功したことにより、研究は一気に進んだ。私は魔力や体力の余裕を見て試作品を作り続け、研究員たちが解析を行う。それを会議で報告、情報共有し、ベルンハルト様が改善点を伝え、次の試作品を作る。

 そんな日がしばらく続くと思っていたのだが。

「…………まさか、研究開始から一週間で儀式の日程が決まるとは」

「安全性についての説明をしたのは昨日の会議ですよね?実行に移すまでが早すぎる気が」

「それだけ帰りたいという要望が強いのだろう」

 突然、王宮から帰還の儀式を実行する、という内容の書簡が届いた。その知らせを聞いた時、私はやっと儀式が行えるという安心よりも、強い不安を感じた。

「帰りたい気持ちは、わかりますけど……」

もし、自分が付与した魔法効果が完全でなかったら。儀式に参加した人は日本に帰れないかもしれないし、最悪の場合、空間と空間の隙間に放り込むことになってしまう。それに、日本に移動できても海や山に出てしまう可能性や、無事に移動できない可能性だってある。

「もう少し、研究をした方が」

「儀式の準備期間や参加する人の都合もある。変更は難しいだろう。儀式は二週間後だ」

 王宮の判断や、皆の研究を疑っているわけではない。帰りたいと強く願っている人にとっては、二週間という時間が長く感じることもわかっている。それでも、儀式の核となる空間転移の魔法付与は私だけで行っているというプレッシャーが、とても重たく感じ、思わず視線を落とした。

「場所は王宮ですか?それなら、先に素材だけ持って行かないと」

「最終的な人数の確認しておく必要がある。研究員の魔力だけだと足りない可能性が」

「儀式の時、服装は……」

 大丈夫だ、と思おうとしているのに、嫌な考えばかりが頭をよぎる。段々と、他の人の話し声が遠くなっていく。きちんと話を聞いていないといけないのに、全く内容が入ってこない。しっかりしろ、と自分の手を握り締める。

「ルイーエ嬢」

「あ、すみません」

 何の話を、と聞きかけたところで、ベルンハルト様に手を取られた。そのまま、やんわりと握っていた拳を開かれる。驚いて顔を上げると、ベルンハルト様はまっすぐに私の方を見つめ、言った。

「勿論、儀式の直前まで研究所員は全力で安全性の向上に努める。ルイーエ嬢が心配するようなことはない」

 不安に思っていることに、気付いていたのだろう。うちの研究員たちは優秀だから大丈夫だ、と言われ、私は小さく頷いた。

「そうですね。頑張って研究しましたし、儀式の途中で何かあっても対応できますよね」

「ああ。できない奴は次の日から仕事はない」

「えっ、急に退職の危機」

「馬鹿、ちゃんと研究しておけば大丈夫だろ」

 ベルンハルト様が言い切ったことにより、実験室中に緊張が走る。が、全員口を揃えて、半端な研究はしていないから大丈夫、と言う。その言葉に私も安心して、大丈夫だ、と思えるようになってきた。

「落ち着いたか?」

「はい。ありがとうございます」

「最初に参加した研究が国家規模のものとなれば緊張して当然だ。他の研究員も今は平気そうにしているが、最初の研究発表の時は随分と弱腰だった」

 ちょっと信じられないが、みんな、そんなものなのかもしれない。不安に思うのは仕方がない、と言ってもらえて大分心が楽になった。完全復活したところで、ベルンハルト様が全員に聞こえるように声を張った。

「既に実用段階に至っているものの、研究に終わりはない。残り二週間、直前までは安全性の向上、消費魔力の削減に努めるように」

「「「はい!!」」」

 直前まで研究をする、といっても、儀式関係者への周知のことを考えると、変更が可能なのは三日前が限界らしい。また、数人は現地に行って儀式の準備の方に追われることになるので、全員で研究を行うわけではないそうだ。

「問題は、どの研究を中心に詰めていくかだが……」

「素材は使用量が変わっても材料自体は変わらんだろう。儂らが準備に回る」

「魔法原理もギリギリですることはあまりないので、日程調整とか事務方の仕事やりますね」

 と、なると、研究を行うのはベルンハルト様がリーダーの魔法陣の班になる。他の班は早速作業を始めてもらい、魔法陣班だけで集まって話し合いをすることになった。もう少し、空間転移チャームの改良をするのかな、そんなことを考えていると、副所長が驚きの一言を放った。

「所長とルイーエ嬢は、今回、分担なしということでお願いします」

「え?」

「理由は」

 ベルンハルト様の問いかけに、副所長は淡々と答えた。

「ルイーエ嬢の作品は儀式の核。性能などに変更が起こると、他も全て調整し直さなければならない可能性があります。また、王宮での事件以降、研究所に籠っています。どちらを選ぶにしろ、王都を散策する時間が必要かと。所長は護衛役です」

 説明が終わると、私とベルンハルト様は、問答無用で実験室から追い出されたのだった。


次回更新は9月2日17時予定です。

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