表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/218

解析実験

 ベッドの上で目を覚ます。視界に入る天井は、現在生活拠点として借りている部屋のものだ。体に特に痛い箇所もない。多分、倒れ込む直前にベルンハルト様が助けてくれたのだろう。

「…………作り終わった直後は、そこまで消耗した感覚が無かったのに」

 思い通りの効果が出るとも限らなかったので、作る途中は魔力を込めていない。最低限、魔法付与に必要なだけの魔力しか使っていないはずだ。やはり、世界を超えようと思うと、相当な量の魔力が必要になるのだろうか。

「それにしても、どのくらい寝てたのかな?」

 余計な心配をかけないためにも、目を覚ましたのなら無事を伝えた方がいいだろう。窓の外を見る限り、今は昼を過ぎたくらいか。丸一日以上眠っていない限り、次の会議は二日後なので、研究員たちは実験室に集まっているはず。

 ベッドサイドに置かれていたローブに袖を通し、身だしなみを簡単に整える。すっかり道を覚えた廊下を歩いていると、実験室から話し声が聞こえてきた。

「ボス、こっちの確認は終わりました!!」

「クルトの報告が終わったらこの書類にも目を通して下さい」

「次の解析実験の用意はできたが、始めていいのか?」

 なんだか、忙しそうである。研究員なので実験をしているのは当然だが、いつも以上に気合が入っていることが声だけでもわかる。空間転移チャームが完成したので、一気に研究を進めることができるからだろうか。

「それにしても、安全確認が最優先で、結果を出すのは急ぎ過ぎなくていいって話じゃなかったんですか?」

「次の会議で聖女様たちに手伝いを頼んで、そこから空間転移について本格的に調べ始める予定だって昨日は仰っていませんでしたか?」

「ルイーエ嬢に負担を掛けないためにも、実験はゆっくりやるって言ってたな」

 研究者なので、気になることがあれば放っておけないのだろう、と納得しかけていた。が、別にそういうわけではないらしい。予定を前倒しにしないといけない理由ができたのだろうか。王宮からの指示かもしれない。そう思って、耳をそっと扉にあて、ベルンハルト様の発言を待つ。

「仕方がないだろう。時間を掛けた方が負担は減ると思っていたが、空間転移用の道具を一つ作るたびに大量の魔力を消耗することがわかった。実験用の試作品を作る、という前に実験をある程度終わらせておかないと、またすぐに倒れる」

「え、ルイーエ嬢、魔力切れで倒れたんですか!?看病しに行った方が……」

「命の危険はないとはいえ、かなり消耗していた。暫くは目を覚まさないだろう。その間に実験を終わらせた方がいい」

 私のせいだった。すぐに目を覚ます程度のことだったのに、全員の仕事を増やしてしまって大変申し訳ない気持ちになる。今すぐ体調に問題を無いことを伝えよう。扉に手を掛け、そっと扉を引く。

「「「…………」」」

 すると、何故か全員が口を閉じていたタイミングだったようで、扉を開ける音が実験室と廊下に響いた。僅かな隙間から実験室の様子を見ると、全員が無言でこちらを見ていて、正直かなり怖い。

「あ、あの、目が覚めたので、報告に……」

 来ました、という言葉は、きちんと聞こえていただろうか。いつもは朗らかな表情を浮かべているクルト君でさえ、真顔でこちらを見ている。他の人も真顔だ。あまりの事態に手伝おうと思っていた気持ちが消え、そっと扉を閉めようとする。

が、それはベルンハルト様に扉を掴まれ阻止された。実験室の奥の方にいた気がするのだが、いつの間に扉の横まで移動していたのだろうか。

「暫く目を覚まさないって言ってたじゃないですか!!魔力量見誤るなんて、疲れてるのはボスの方じゃないんですか!?」

「そんな筈はない。確かに総量の半分以上の魔力を急激に使用し、昏睡状態に陥っていたはずだ。消費した魔力量を考えれば、半日は目を覚まさないと判断したが……」

 じ、とベルンハルト様が私の方を見てくる。元気だと伝えるために、にこりと笑って見せると溜息を吐かれた。幾つか簡単な質問に答えると、ベルンハルト様は深々と溜息を吐いた。

「どうやら、本当に魔力が回復しているようだ」

「えっと、何かおかしいところがありました?」

「日本人であることから、この国の人間よりも魔力回復が早いことは予想して目を覚ます時間を予想していたが、それにしても早い。王宮で倒れた時よりも回復速度が上がっている可能性がある」

 おそらく、空間スキルと同じような特典なのだろう。魔力を限界まで使用するたびに、魔力の総量と回復速度が上がるらしい。立ち上がるたびに強くなる、というやつだ。ということは、次に空間転移チャームを作る時は倒れない可能性がある。

「これは……、かなり便利な能力ですね」

「無茶をする癖が治らないという欠点もあるな」

 早速次の作品を作ろうと思ったが、流石にこれ以上の作業は禁止されてしまった。明日以降、追加を作ることを決意しつつ、他の実験の手伝いに回ることにしたのだった。


次回更新は9月1日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ