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完成の定義

 翌日、体調を万全に整えた私は、ベルンハルト様と一緒に工房にいた。今日の目的は、工房の素材を使い、魔法付与をして相生結びを作った場合、どのような効果を持つ作品が出来上がるかの確認である。

「ルイーエ嬢、もう一度確認しておくが、体調に問題はないな?」

「はい。問題ありません。早速作っていきますね」

 私が意識しない限り、作った作品に魔法は付与されない。そのことは、今までの経験の昨日までの実験で確認できている。まずは、単純に効果を意識して魔法付与できるかを確認し、目的の効果が出るようになったら、作成中に魔力を流して効果の上昇を狙う。

「…………とはいえ、日本と繋げるイメージ、ということはわかっていても、具体的に想像しようと思うと難しいですね」

 日本に移動する、ではなく、繋げる、なのだ。移動ならば、船や飛行機といった乗り物で日本に向かうことを想像すればいいと思うが、繋げるものは中々思いつかない。携帯電話などは繋げるものだろうが、そこから繋ぐ先を日本に限定するのは難しい気がする。

「こちらと日本の共通点を考えていけばいい」

 言いながら、ベルンハルト様は作業を始めるように指示する。何度も作った作品なので、別のことを考えていても手は動くが、どうやって考えていくのだろうか。

「例えば、日本には季節があるか?」

「あります。春夏秋冬、季節によって咲く花も変わりますし、気候がかなり変化します」

「この国も冬は寒く、夏は暑い。同じだな」

「そうですね」

 冬が寒くなることも同じだし、寒さに備えて編み物をするところも同じである。そして、好きな相手に自分が作った作品を贈りたい、という気持ちも。この世界にバレンタインは無いが、冬に女性から贈り物をするところは一緒である。

「他にも話題はあるが、完成したようだな」

「そこまで時間が掛かるものではないので……」

 さて、頭の中のイメージ自体は間違っていないと思う。問題は、望む効果が付与できているかどうかだ。私はそっと壁の方に目線をやった。

『アイテム:相生結び 製作完了』

『付与詳細』

『なし』

 壁に書いてあった文字は、この相生結びに効果がないことを示していた。確認のため、ベルンハルト様にも相生結びを手に取ってもらったが、魔法付与されている形跡は感じられないという。

「どういうことだ?」

「製作完了の表示もありますし、ポイントも入っているので、完成していない扱いではないと思うのですが」

 どうしてだろう、と壁の文字をもう一度見る。相生結びが完成したことは認識されている。昨日までの実験のために作ったものも数に入っている。それなのに、魔法付与できていない理由は何か。同じ水引だけで作った作品でも、空間交換コースターは魔法付与できていたので、不可能というわけではないはずだ。

「…………あ」

「原因がわかったか?」

 もしかして、と思って、完成時に得たポイントを確認する。水引の作品が完成している割に、貰ったポイントが少ない。この原因に、心当りがあった。タッセル等の、単品では作品にならない、パーツ扱いのものは完成時に得られるポイントも低いのである。

「今回の作品は、作品として完成していないので魔法付与ができないのかもしれません」

「形は完成しているだろう?」

「使い道がないからです。コースターというには小さく、金具を付けていないので装飾品にもなっていない。小物にするにしても手を加える必要があります」

 言いながら、金具を取り出す。実験用に作っている相生結びは小さいので、コースターにするのは無理だろう。ペンチと丸カンを取り出し、手早くカニカンパーツと繋げる。すると、予想通り新たな文字列が壁に表示された。

『アイテム:相生結びチャーム』

『付与詳細』

『空間転移チャーム(和):特定の空間にチャームを付けた対象を転移させる』

 和、というのは、和風の和で間違いないだろうか。もしそうならば、求めている効果が出た、ということになるのではないだろうか。私はベルンハルト様の方を振り返る。

「ベルンハルト様の方でも効果を確認していただけますか?工房の表示が間違っているといけないので」

「勿論だ。一つ確認しておくが、この『和』というのは、日本を指す言葉なのか?」

「はい。日本食を和食、日本語に翻訳することを和訳と言いますので、日本を指す言葉と考えていいと思います」

 ベルンハルト様の鑑定結果でも空間転移の効果は確認できたようだ。まさか、一度で成功するとは思っていなかったが、これで帰るための希望は見えてきたといってもいいだろう。

「あとは、細かい効果の確認ができれば実用化できますか?」

「そうだな。転移先の詳細や、移動中の安全、チャームの効果範囲、挙げればキリがないが、最難関は突破したと言えるだろう」

 ならば、早速もう一つ作品を作ってしまおう。そう思って少し離れた位置に置いてある水引を取りに行こうと立ち上がった。

「あ」

「ルイーエ嬢!!」

 その瞬間、魔力を使い過ぎたのか、私の視界は暗転した。


次回更新は8月31日17時予定です。

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