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「こ、婚約の、申し込み……?」

 正直、突然のことすぎて、ベルンハルト様が言っていることが理解できなかった。音として聞こえていても、文章として理解できなくて、聞こえたままの言葉を反芻する。

「…………中々言い出せず、不安感を煽ってしまったな。申し訳ないが、これでも、流石に緊張していたんだ」

「あ、いえ、大丈夫、です」

「これだけは、自分で伝えた方が良いと判断したが……」

 ベルンハルト様は、ぼうっとしている私の方を見て、少し困ったような笑みを浮かべた。その目に、先程のような鋭さはなくて、いつも通りの表情に少し安心する。

「今のルイーエ嬢には、考えている余裕はなさそうだな。続きを聞いてもらうためにも、今は研究に専念した方が良さそうだ」

「へ、返事は、いつ……」

「急いで返事をしなくていい。当面、少なくとも、研究が終わるまでは待つつもりだからな」

「すみません……」

 確かに今は、日本に帰る手段を確立するまでは他のことを考える余裕はない。しかし、あまり返事を先延ばしにするのは、自分の口から伝えてくれたベルンハルト様に対して、不誠実ではないだろうか。

「もう一度言うが、本当に急がなくていい。研究が落ち着くまでは俺も忙しい。それに、返事を焦った結果、断られるのは勘弁して欲しいからな」

 待った方が色良い返事を貰える可能性が高いだろう、と、ベルンハルト様は含みのある笑顔を浮かべた。そのまま、私の方に手を差し出してきた。

「とはいえ、多少は意識して貰う必要があるからな。今迄よりは分かりやすくやらせてもらおう」

「…………程々で、お願いします」

「無理な相談だな」

 そんなことを言われて、全く意識をしない人がいるのだろうか。私は、左手で自分の顔を覆いながら、右手をベルンハルト様の手に重ねたのだった。


 実験室の前まで戻ると、中から話し声が聞こえてきた。声の大きさと数からして、ほぼ全員揃っていそうだ。会議には代表者しか参加していないので、今から情報共有をするのだろう。

「……もしかして、会議のすぐ後に実験室に集まる予定でした?」

「本来の予定では、そうだな。恐らく、クルト辺りが遅れると説明はしているだろう。問題はない」

 此処の研究員なら、待ち時間に少しでも研究を進めようとしたり、情報共有したりと無駄な時間を過ごすとは思えないが、待たせたことは事実だ。

「遅れてすみません……」

 慌ててドアノブに手を掛け、謝りながら扉を開くと研究員たちの視線が一斉に集まってきた。そして、次の瞬間、好奇心に目を輝かせながら私たちに詰め寄ってきたのだった。

「ボス!!やっとルイーエ嬢に言えたんですか!?会話の流れ的にそうですよね!!」

「これで一時的な研究所預かり状態から本確定に研究所の一員ですね!!」

「待て待て!!まだ日本に帰らないとは決まってないだろ?」

 待たせていた罪悪感が一気に減った。折角、意識しないようにしていたと言うのに。とはいえ、あからさまな反応をすると会議が更に遅れてしまう。

「遅れた私が言うのも何ですが、会議が優先ですよね?会議しましょう」

「はーい」

「後で話聞かせてくださいよ」

 私が言うと、あっさりと研究員たちは席へと戻った。今のうちに早く座ってしまおう。そう思って歩き出すも、何故かベルンハルト様が動く気配がない。

「ベルンハルト様?」

「ああ、いや、すまない。俺が言うより効果があって驚いただけだ」

「そんなことはないと思いますけど……」

 横にベルンハルト様がいるから聞いてくれているだけな気がする。私たちが席につき、会議が始まるとすぐに切り替えて真剣な表情で話し合いが始まる。

「会議の結果、かなりの人数が日本への帰還希望していることがわかった。その為、複数人が同時に使用できること、繰り返し使用できること、魔力消費量を抑えることが必要となった」

「まあ、予想はしていた内容ですね」

 特に何も言われずとも、出来るだけ良いものを作るつもりではあったのだろう。とはいえ、希望人数が予想より多かったのだろう。材料などの見直しの必要があるらしい。

「ボス達の方は見通し立ちました?」

「此方は空間スキルの発動条件の確認を始めたところだ。数は揃えて貰ったからな、すぐに取り掛かれる」

「なら、ボス達の実験が終わるまでの間に使えそうな素材と、共通項の纏めはしておきます」

「ああ、頼む」

 殆どの研究員は、今からが活動時間帯だ。実験にどのくらいと時間が掛かるかわからないが、上手くいけば今日中に次の段階に取り掛かれるだろう。

「実験室以外を使う予定は?」

「ないです!!」

「全員、実験室に篭って作業かと」

 なら、進展があればすぐに共有できるだろう。私とベルンハルト様は奥の小部屋を中心に使うことになった。

「では、各自作業に取り掛かるように。何かあれば報告しろ。以上」

「「「はい!!」」」

 ベルンハルト様がそう言うと、研究員たちは元気よく返事し、それぞれの作業に取り掛かったのだった。

次回更新は8月29日17時予定です。

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