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希望人数

 今回の会議に参加するのは、国立魔法研究所の研究員のうち、所長であるベルンハルト様と各研究グループのリーダー。聖女一行との連絡役と書記を務める王宮の役人が2人。他の魔法研究所の代表が3人。そして、私を含めた、直近の儀式で呼び出された日本人8人だ。

「早速ですが、各研究所に割り振られた研究内容についての確認から行います」

 ベルンハルト様が言っていた通り、今日は方針の確認だけのようだ。王宮の役人が司会進行をし、研究員たちが会話するのを聞いているだけである。どうやら、日本への帰還方法については国立魔法研究所が殆どを受け持ち、他の研究所は王宮の装置の解析や、過去の文献の解読が主な仕事となるらしい。

「国立魔法研究所は、担当する分野も多くなりますが問題はありませんか?」

「問題ない。そもそも、他の研究所とは規模や人員、設備の数、研究員の傾向も違う。研究所の得意なことを任されただけだ」

「では、よろしくお願いします。現時点で、新たな成果があればこの場で共有してください」

「報告できるような成果はない」

 まだ、実験をする為の準備をしている途中だ。役人の方もこの短期間で成果が出るとは思っていないようで、次の研究所の話に移行した。王宮の地下にあった装置については既に解析が始まっており、解析が終了するまでそこまで時間は掛からないそうだ。

「魔法の組み合わせが複雑ですが、使用されている魔法や技術自体は既存のものなので、一週間もあれば結果をご報告できるかと」

「文献解読の方は如何でしょうか?」

「本日の午前中に、ようやく文献の分類が始まったところです。此処から、儀式について詳細な描写がある部分を探すので、かなり時間が掛かるかと」

 文献解読については、元国王の日記から王宮にある図書館の本まで、文字や絵が描かれているものを片っ端から調べる所から始まったらしい。調べる方法も本を一冊ずつ開いて確認するというもので、かなりの時間が必要だろう。

「有力な情報が入り次第、何れかの形で共有させていただきます」

「これで、研究方針の確認と、現時点での進捗報告は終了となります。他に何か共有しておきたいことや、この場でしておきたい質問、他の機関へ協力の要請などがあればどうぞ。次回以降、聖女様や他の方に協力を要請する際は、予定の重複を避けるためにも会議の場で伝えて頂ければと思います」

 今日の予定していたことが終わったのか、役人が全体を見回しながらそう言った。どの研究も始まったばかりで、特に行き詰っている雰囲気もないので質問はないだろう。後は、次回の会議の日程を決めたら解散だろうか。そう思っていると、ガタリ、と椅子から立ち上がる音が隣から聞こえた。

「一ついいだろうか」

「どうぞ」

「現時点で、日本への帰還を希望している者が、何人いるのかを把握しておきたい。勿論、希望している全員が帰還できるようにはするが、人数によって必要な装置や魔法陣の条件が変わる。目安で良いので知っておきたい」

 確かに、帰りたいのが1人2人なら、作る装置も小さくていいだろう。必要な魔力も何とかなると思う。しかし、希望する人数が多いなら、同時に何人戻れるのか、一度でどのくらいの魔力が必要なのか、と言った問題も出てくるだろう。

「現在、日本人と、その血を引く子供に対して希望調査を行っている途中ですが、半数を調査した時点で、日本で暮らすことを希望する方は5人いらっしゃいます」

「半数、というのは?」

「王宮が所在を把握しており、確認文書が届くのが早かった王都付近に住んでいる方々です」

 所在が把握されており、王都付近に住んでいる、という事は、大半は貴族と結婚した人という事になるだろう。地方貴族と結婚した人は兎も角、王宮が嫌いで王都から離れて生活している人は日本に戻ることを希望する人が多いかもしれない。

「時間の経過などについての情報は知らせてあるのか?」

「勿論です。それでも、故郷に帰りたいという方は多いようです」

「そうか。ある程度の人数が帰れるように考える必要がありそうだな」

 というか、私は王都にいて、研究所にいることも把握されている筈なのに希望調査をされていないのは何故だろうか。聖女一行も少し驚いた表情をしているので、多分誰も聞かれていないのだろう。どういうことだろう、と思っていると、役人が私たちの方を向いた。

「聖女様を始めとした今回召喚された方々は、確認事項が多いこともあり、希望をお聞きしていませんでしたが、帰還を希望される方はいらっしゃいますか?」

 しん、と室内が静まり返る。帰る方法が判明するまでに決めればいいと思っていたので急には答えが出てこないし、こんなに人に囲まれた状態では言い難い。それに、役人が言っている確認事項が何なのかも気になる。

「人数を目安として聞いただけだ。まだ考えている途中なら無理に答えなくても……」

「私は、日本に帰りたいです」

 言い難いという事を察してくれたのか、私たちをフォローしようとしたベルンハルト様を遮り、はっきりと言ったのは聖女だった。


次回更新は8月26日17時予定です。

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