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二人の思い出

「私が本当に求める物とは何か、貴方には理解できていると言うの?」

 静かな問いかけに、私はしっかりと頷いた。そして、答えを口にする。

「お客様にとっての特別な物、本当に望む物は、贈り物の為に掛けた気持ちと時間、思い出でしょう?」

「……どうしてそう思ったのかしら?」

 ずっと、不思議に思っていたのだ。話を聞いたところ、女性の実家の方が大きく、普段からアクセサリーを目にする機会も多い。そんな彼女がフルオーダーメイドのアクセサリーにどれ程の金額が掛かるのか、理解していない訳がない。

「矛盾、とまでは言いませんが、おかしな点があったからです」

「え……?」

「とはいえ、私もお二人の関係性が分からなかったので、先程までは確信はありませんでした」

 特別な物でないと受け取らない。それだけなら単に我儘なお嬢様だと思って終わりだっただろう。だが、唯の我儘なお嬢様は、婚約者のことを気遣ったりするのだろうか。

「貴女は、無駄金は遣わせない、と仰いました」

「ええ。意味の無いことにお金を使ったって仕方がないでしょう?」

「それでは、質問です。私の作品は、価値のないものだと思われますか?」

 女性は少しの間、沈黙した。男性が不安そうな視線を向ける中、私は正直にお答えください、とだけ言う。

「宝石に比べて、金銭的価値は低いと思うわ。だけれど、宝石以外のもので美しい装飾品を作るという発想とデザイン、先進性、後は価格が低いことによる一般市民への影響力の高さは評価されるべき。結論を言えば、価値はある。今のところは、ですけれど」

 予想以上の高評価であった。物珍しさ以外を評価して貰えるとは。

「それならば、私の作品を購入すること自体は無駄な事ではないでしょう?新しい店の、一つしかない作品を所持している事は商人の伝手や先見性を示すことが出来ます」

「……ええ、その通りよ」

「贈り物に余程の拘りが無いなら、私の作品でも、良かったはずです。それでも、お金を使わなくていいと断ろうとしたのは、貴女にとって大切なのは物でもお金でもないから」

 一般的に見て、価値のある物ではないから。でも、彼女にとって、恋する乙女にとっては何よりも価値のある物。

「欲しかったのは、彼の気持ちと、時間、思い出。そうですよね?」

 この店に来た女性を見て確信した。彼女の目線は、いつだって男性の方を向いていて、そして柔らかい表情を浮かべているのだ。

「……カリーナ、本当に?」

「ええ、そうよ。だって、折角の誕生日ですもの。貴方と結婚できる年齢になる日よ。ずっとずっと、心待ちにしていた日なんだもの」

 男性が小さな声で尋ねると、吹っ切れたかの様に女性は堂々と言い切った。すると、男性はへにゃりと笑顔になった。自分のことを好いているからこその我儘だったのだから、嬉しくて仕方がないのだろう。

「ですので、私がお手伝いさせて頂きます」

 女性の真意は明らかになった。後は、私がほんの少しだけ、形にする手伝いをすればいいだけだ。


 二人に少しだけ待って頂き、工房から道具と材料を取ってくる。二人に椅子に座ってもらって、目の前に順に並べていく。

「これは……」

「今から、ネックレスを作って頂きます」

 私はあくまで作り方を教えるだけ。作るのは男性だ。意味を理解したのか、男性は瞳を輝かせて頷いた。

「わかりました!!」

「……私もエリオに作りたい」

「なら、カリーナの分も僕が支払うよ。二人で作る時間を、贈り物にしていいかな?」

「ええ、嬉しいわ」

 無事話がついたところで、まずは、ネックレス部分のビーズから。青と水色のどちらがいいかを選んでもらう。テグスに通すだけなので、そこまで難しくはない。

「どっちがいい?」

「私は青がいいわ」

「カリーナの瞳に比べると暗い色だけど大丈夫?」

「貴方の瞳の色ですもの」

「…………なら、僕は水色がいいな」

 楽しそうに二人はビーズを手に取った。テグスの長さを伝え、作業を見守る。少し失敗したとしても、それも思い出になるだろう。

「出来ました」

「僕も」

「では、次はペンダントトップですね」

 半分ほどビーズを通したところで、次はペンダントトップとなる貝殻ビーズを選んでもらう。本物の貝殻でもいいが、加工が難しいので既に穴が空いているビーズから選んでもらった方が安心だ。

「お好きな形をお選びください」

「はい。エリオも」

 並べたビーズを見せると、迷わずホタテの様な形のものを選んだ。

「どうしてこれを?」

「何?忘れたの?」

「え?」

「貴方が、初めて連れて行ってくれた海で、綺麗だったから、ってこんな形の貝を拾ってくれたじゃない!!」

「あ、そういえば……」

「持ってきたネックレスが貝殻モチーフなのも、そのことを覚えているからと思ってたのに……」

 女性に比べて、男性は細かいことはあまり覚えていないようだ。どう切り抜けるのだろう、と見ていると、照れたように笑って言った。

「……あの時もだけど、カリーナは貝殻みたいに白い肌だし、水平線の空と同じ澄んだ目をしてるから、似合うと思って」

「…………そう」

 が、強烈な返しに何も言えないようだった。仲が良くて何よりである。貝殻ビーズに丸カンを付ける方法を説明しながら、そう思ったのだった。

次回更新は2月27日17時予定です。

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