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実験と会議

 材料と製作場所をそれぞれ変えて、四つの条件で作った相生結びが完成した。どの作品も見た目は同じなので、条件を付箋に書いて分かるようにした上でテーブルに並べる。ベルンハルト様は四つの作品をそれぞれ見比べ、私の方を向いた。

「ルイーエ嬢、これは全て、魔法付与を意識せず作成したもので合っているか?」

「はい。どれも同じ条件になるように、魔法付与をしないように気を付けたつもりです。とはいえ、上手くコントロールできずに付与してしまっているかもしれませんが……」

「確認しただけだ。現時点で、魔法付与がされている形跡はない」

 ランバート様もだが、魔法に長けている人は作品を見るだけで魔法付与がされているかを判別できるので凄いと思う。私は、工房の表示で毎回確認しないと分からない。今回作った四つは、どれも魔法付与されていないようだ。

「指示通りに作れたことは良い事ですが、これで何かわかることがあるのですか?」

「ああ。今回知りたかったのは、魔法道具の素材として使用できるかどうか、だからな。ルイーエ嬢、作品を壊してしまうかもしれないが、構わないか?」

「はい。大丈夫です」

 私が頷くと、ベルンハルト様は一番左、研究所の材料を使って、研究所で作った作品に手を伸ばす。そして、一気に魔力を込めたかと思うと、次の瞬間、作品は魔力に耐え切れなかったからか、バラバラに千切れてしまった。

「やはり駄目か。ルイーエ嬢が魔力を流した場合は違う結果になるかもしれないが、それは次回試すことにしよう」

「ど、どうして千切れたのですか?」

「……簡単に言えば、入ってきた魔力を外に逃がすことができず、限界を迎え破裂した」

 魔法道具に使える素材は、大量の魔力を貯めることができ、且つ、魔力を外に出すことができるものを指すらしい。そういった素材に魔法陣を描き込むことで、魔力が外に出る際に魔法になるそうだ。

「……研究所の素材を使用した物は、どちらも駄目だな。工房で作った作品はどちらも魔法道具の素材として十分使えるが、どの程度の差があるのかを調べる必要がある」

「次は、魔法付与して作った方が良いですか?」

「そうだな」

 工房の材料を全く使っていない作品に魔法付与するのは初めてではないだろうか。どうなるのかわからないな、と思いながらも、私は次の作品を作るためにテーブルに置いてある材料に手を伸ばしたのだった。


 相生結びを一つ作るのにそこまでの時間は掛からない。午前中の内に、魔法付与をしていないもの、したもの、魔力を注ぎながら魔法付与したものを、各条件3つずつ完成させることができた。

「これで、ある程度壊れても大丈夫」

 後は、壊れても都度作り直して補充すればいい。作ったものが壊れることに対して何も感じない訳ではないが、日本に帰る方法を探す為に必要なことだ。仕方がないと割り切って私は私の仕事をしよう。

「ベルンハルト様、これで沢山実験できますよ。足りなくなったら直ぐに作りますので、気にせずやってください」

「……その心遣いは嬉しいが、直ぐには実験は始められない」

 極力明るい口調でそう言ったが、ベルンハルト様は微妙な顔をした。この研究は基本的に私とベルンハルト様だけで行うらしいので、他の研究員が寝ているのは関係ない筈だ。それならば、どうして実験をしないのか。首を傾げると、ベルンハルト様は窓の外を指さした。太陽がとても高い位置にある。それがどうしたというのだろうか。

「聖女一行や、他の研究所との会議の時間だ」

「あ、そうでしたね……」

 基本的に、会議は昼から行うのだった。続きはベルンハルト様が会議から帰って来てからなのだろう。その間、私はもう少し作品を増やしておこうと思い、テーブルの端にある材料を取るために立ち上がった。

「では、行くか」

 立ち上がると同時に、自然な流れでベルンハルト様に手を取られ、そのまま扉の方へと誘導される。もしかして、私も会議に参加するのだろうか。困惑して立ち止まっていると、ベルンハルト様は私の方を振り返り、不思議そうに言った。

「行かないのか?疲れているのなら、無理にとは言わないが……」

「いえ……、あの、私も参加して大丈夫なのですか?」

「逆に、参加してはいけない理由が無いだろう。研究に一番関わっている日本人はルイーエ嬢だ」

「そう、ですね」

 王宮にある、召喚の間や儀式についての調査結果も報告されるという事なので、会議に参加する日本人は多い方が良いらしい。特別疲れている訳ではないので、参加するのは全く問題ない。

「基本的に、今日は顔合わせと研究方針の確認程度で終わると思うが、もしかすると、今後に関する問題も出てくるかもしれないからな。参加しておいた方が良い」

「問題、ですか?」

「……ああ」

 問題の内容については教えてくれないまま、ベルンハルト様は歩き始めた。多分、会議が始まったら分かることなのだろう。私は特に言及せず、無言で付いて行くのだった。


次回更新は8月25日17時予定です。

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