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金銀の相生結び

 研究所に戻り、実験室で寝ていた研究員たちに声を掛け、一旦自室に戻って貰う。ベルンハルト様は作業の邪魔だから、と言っていたが、きちんとした場所で休む方が体の疲れが取れるからだろう。それが分かっているからか、研究員たちは文句を言わずに部屋に戻っていった。

「ルイーエ嬢が出した条件に最も一致するのはこの材料だが、問題なく作業は出来そうか?」

「触っても大丈夫ですか?」

「勿論だ」

 私がテーブルの上の物を避け、作業スペースを作っていると、ベルンハルト様は束ねられた材料を持って来た。私が工房で引き換えたものと同じような、少し硬めの紐である。一本受け取って軽く扱き、あわじ結びを作ってみる。曲げられる程の柔らかさがあり、形が崩れることもない。これで大丈夫だろう。

「これなら大丈夫だと思います。後は、空間スキルを全く使わずに作ればいいのですよね?」

「ああ。何か道具が必要なら、研究所内のものを使ってほしい」

「でしたら、鋏と糊の場所だけ教えて頂けますか?」

 特殊な道具が必要という訳ではないが、最後に水引を切り揃えたり、重なった部分で接着したりという作業がある。ベルンハルト様に道具の場所を聞くと、準備しておこう、とだけ返された。立ち入ると不味い場所に置いてあるのだろうか。

「わかりました。色は、試作品なので白だけで作りますか?それとも、同じ材料で違う色のものがありますか?」

「色はこの場で変えればいいだろう。何本ずつ必要だ?」

「金と銀、それぞれ5本ずつお願いします」

 そう言うと、ベルンハルト様は持って来た紐を二つに分け、左右それぞれの手で持った。そして、小声で何かを言ったかと思うと、右手に持っていた束は金色に、左手に持っていた束は銀色に変わった。

「一瞬で色が……」

「この位なら、ルイーエ嬢も練習すればすぐにできるようになると思うが」

「帰る方法が分かったら教えてください」

 好きに色を変えることができるようになれば、色々楽そうだ。だが、今は忙しいので習うとしても日本に戻る方法が確立してからになるだろう。

「先に使うのはどちらだ?」

「金色から使います」

 慶事なら、本数は奇数。最も丁寧な形にするなら7本使うが、相生結びを七重にするのは少々難しい。五重、いや、三重が限界だろうか。一番外側を金色にして、内側に銀色を使う予定だ。本数が増やせるかは作りながら考えよう、とベルンハルト様から金色の紐を受け取る。

「最初に、あわじ結びを作って……」

 紐の左側を短くしてあわじ結びを作る。そして、三つの輪ができているので、右側の輪の上に左側の輪を重ねる。すると、輪の外側に三つの小さな空間ができるので、長い方の紐の端を一番近い空間に上から入れ、中央の空間から引き出す。

「二つ目の空間にも上から入れて、引き出す……」

 これで、相生結びの一周目が完成だ。二周目以降は一周目の内側に紐を添わせて一周作るのだが、現時点で全体を見る限り、やはり三重の相生結びが限界だろう。三重ならば、一番外に金、内側2本は銀の方が良いだろう。

「銀色を……」

「これか?」

「あ、ありがとうございます」

 紐を持ち替え、銀色の紐を一周目の内側に沿わせて二周し、最後は水引の端が表に出ないように、先端を裏側に引き抜いて、表から見えないように鋏で切る。更に、断面が浮かないように糊も付ければ完璧だ。

「完成です」

「複雑な形だな。何か意味のある形なのか?」

「はい。相生結びと言って、共に生き、共に老いるという意味を持つ結びです。縁結びの形と言われることもありますし、この世界と日本は同じ速さで時間が過ぎていることも考えると、丁度良いかと」

「成程。それは付与の効果が期待できそうだな」

 そう言いながら、ベルンハルト様は完成した相生結びを手に取った。見るだけで魔法付与の効果が分かるのだろう。ベルンハルト様は暫く無言で様々な角度から相生結びを見て、そして小さく頷いた。

「何かわかることがありましたか?」

「他の条件を試すまで断定はできないが、仮説は幾つか浮かんできた。確認の為に質問をするが、良いだろうか?」

「はい。答えられることなら何でもどうぞ」

「これを作る途中、何を考えていた?魔力は込めたか?」

「作り方の手順を考えていました。魔力は込めていません」

 正直、相生結びは手順が怪しい部分が幾つかあり、他のことを考えている余裕はなかった。同様に、コントロールする余裕が無かったので魔力は全く込めていない。私の感覚では、特に何も効果は付与されていないはずだ。

「成程。分かった。次は工房の材料を使って同様のものを作って欲しい。できれば、同じようなことを考えながら、魔力を込めずに」

「わかりました。では、一度工房に行って材料を取ってきますね」

「ああ、頼む」

 金色と銀色の水引は、既にポイントで引き換えていただろうか。そんなことを考えながら、私は工房の中に入る。すると、工房の壁には、先程作った相生結びのポイントについて表示されていたのだった。


次回更新は8月24日17時予定です。

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