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活動時間

 ベルンハルト様に研究所内の立ち入り禁止区域、生活拠点となる部屋の設備等について説明を受け、初日は早々に休むように言われた。そのお陰か、翌朝は日が昇るより前の時間に目を覚ましたのだが、起きてすぐ、ある問題に気が付いた。

「…………朝ご飯、どうしよう」

 この部屋には、魔法道具を利用したシャワーやドライヤーはあっても、キッチンが無い。簡易冷蔵庫はあるが、入っているのは飲み物だけで、基本的に食材が置かれていない。

「流石にお腹が空くし……、他の人達もご飯は食べるよね」

 研究所に泊まっている人は多い。できれば、合流して一緒に食事を摂りたいところだ。そうと決まれば早速身支度を整え、そっと部屋の外に出る。制服でもあるローブを着ていれば、防犯設備が作動することもないので、安心して廊下を歩ける。

「取り敢えず、実験室に行ったら誰かいるかな」

 普段は個人の実験室に籠って出てこない人もいるらしいが、今は研究所全体で一つの研究を進める都合上、基本的に実験室に集まって作業をすることになっている。この時間に起きている人がいるなら、多分実験室で作業しているだろう。

「おはようございます」

 控えめにノックをして、実験室の扉を開ける。すると、予想していた通り、中には数人の人影がある。良かった、と思いながら扉を閉めたところで、私はあることに気が付いた。誰も、挨拶を返してくれないし、少しも動かないのだ。

「…………あの、おはようございます?」

 もう一度控えめな声で挨拶をして見るが、反応はない。もしかして、と思い、一歩踏み出しかけて足を慌ててひっこめた。床に人が転がっていたのである。硬い床の上だというのに、穏やかな顔で眠っているのはクルト君だ。そして、椅子に座っていた人たちも背もたれに体を預けて眠っていることがわかる。

「仮眠……、の割には誰も起きる気配が無いけど、床とか椅子だと疲れが取れない気が……」

 寧ろ、起きた時に体が痛くなりそうだ。一度起こして、自室で寝る事を勧めた方が良いのだろうか。そう思って足元のクルト君に声を掛けようとしたその時だった。廊下から足音が聞こえて来たかと思うと、実験室の入り口付近でピタリと止まった。

「クルト、ハーレー、一旦起きろ。今朝の進捗を報告して、自室に戻って寝ろ」

 片手に書類、片手に素材の箱らしきものを抱えたベルンハルト様が、足で実験室の扉を開けて入ってきた。起きたばかりなのか、声もいつもと比べて低い。ローブも適当に引っ掛けただけ、という砕けた格好だ。

「…………ルイーエ嬢?」

「おはようございます、ベルンハルト様。あの、クルト君もハーレーさんも、寝ているみたいですけど……、起こした方が良いでしょうか?」

ベルンハルト様は、室内にいる私を認識した瞬間、無言で書類と箱を下に置き、ローブの金具を止めた。床に物を置いた衝撃でクルト君が目を覚ましたが、ベルンハルト様は気付いていないようだ。

「…………随分と、起きるのが早いな」

「そうですか?いつもこの位の時間に起きていますが……」

 朝の時間帯に手紙のやり取りをすることは多かったと思うのだが。もしかすると、魔力の回復をする為にも長時間睡眠が必要だと思っていた、という事だろうか。

「水晶の修復の際に消耗した魔力は、もう殆ど回復しているみたいなので大丈夫です」

「そうか。それは良かった。だが、こんな時間帯に何か実験室に用事か?研究員の殆どは寝たばかりか、今から寝る者の方が多いが」

「……寝たばかり?」

 思わず、足元のクルト君を見る。すると、クルト君は苦笑いしながら起き上がり、何かの資料をベルンハルト様に渡した。

「基本、研究員は夜型なんですよ。昨日もあの後、実験して、報告書纏めて、さっき作業が丁度いい所になったので休憩してたら寝ちゃってた感じですかね。今から部屋に戻って少し寝て、起きたらボスの指示聞いて、また実験です」

「……ということは、この時間帯に起きている人は」

「ルイーエ嬢とボスくらいじゃないですか?ボスも元々は夜型でしたけど、最近は比較的日中の活動が増えてきてますよね」

「……研究所以外の人間と関わる際は、日中でないと予定が合わないからな」

 日本についての研究は、私を含め聖女一行にも協力を要請している。彼女たちや王宮側の人間との日程調整があるのでベルンハルト様は朝早くから活動しているらしい。研究員たちには、急に生活リズムを変えるのは難しいので聖女たちが来る日は昼までに起きるように指示しているそうだ。

「それで、結局、ルイーエ嬢の用件は何だ?人数が必要な用件でなければ対応するが……」

「朝ご飯を食べようと思ったら、食材が無くて……。キッチンが何処か聞こうと思ったのですが」

「ないですよ」

「え」

「誰も料理しないので、キッチン、無いです」

 基本的に料理は買ってきて食べるらしい。この辺りの店はあまり知らないので、どうしようかと考えていると、ベルンハルト様に手を差し出された。

「……良ければ朝食を食べに行くか?今日の研究方針も話しておきたい」

「そうですね、ご一緒させてください」

 ベルンハルト様も丁度今から朝食をとる所なので、迷惑ではないそうだ。それに、一緒に食べに行けば、行き帰りの時間と、食事中も打ち合わせができて無駄が無い。私は力強く頷き、ベルンハルト様の手を取ったのだった。

次回更新は8月22日17時予定です。

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