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世界の研究

 王宮での会議が終了すると、私はベルンハルト様と一緒に国立魔法研究所へ向かった。研究所に入る直前、研究所の制服である黒いローブを渡されたのでそれを羽織る。以前貸して貰った物と同じなのだろう。胸元のリボンの色が深緑色だ。

「暫くは出入りする人間が増える。着ておいた方が良いだろう」

「瘴気の研究は、王宮の人も一緒に行うのでしたね。勘違いされないように、しっかり着ておきます」

 トラブルを未然に防ぐためにも、身分証替わりの制服は着ておいた方が良いだろう。力強く頷くと、ベルンハルト様が入り口に手を掛ける。招待されて入る時は色々と手順を踏まなくてはいけないが、研究所員が入る時はあまり手間がかからないようだ。

「全員、実験室で待っている筈だが……」

 そう言いながら、一歩足を踏み入れた瞬間だった。扉の真横で急に何かが動いたかと思うと、次の瞬間、静かな筈の廊下に、大きな声が響いた。

「ボス!!ルイーエ嬢!!お帰りなさい!!」

 悲鳴を上げることはなかったものの、誰もいないと思っていた所から急に飛び出してきたので、反射的に声と反対側へと体が動く。ゴン、と鈍い音がして、壁にぶつけたのだと理解する。少し遅れて痛みが頭部を襲う。筈だったのだが、痛みはない。

「クルト、声が大きい」

「すみません……」

 クルト君の出迎えを予想していたのか、ベルンハルト様が冷静に注意をする。その片手は私の頭と壁の間に挟まれており、咄嗟に庇ってくれたのだと分かる。私が体勢を立て直すと無言でその手は引かれ、ベルンハルト様はクルト君の方に移動し、話を始めた。

「それで、他は?」

「……皆います」

 お礼を言わないと。そう思うのに、先程の驚きからか、別の理由からか、中々声を出すことができない。少し息苦しくて、心臓が痛い程に主張している。

「到着まで研究を進めようとは思わなかったのか?まあいい、全員揃っているなら、此処で説明をしておこう。ルイーエ嬢、此方に……」

「…………あ、はいっ、わかりました」

 急に手招きされ、慌てて返事をしたが声が若干裏返った気がする。未だに早い心臓を服の上から押さえつけて、ベルンハルト様の隣に移動する。

「大丈夫か?」

「大丈夫、です。ベルンハルト様が庇ってくださいましたし、痛みはありません。ちょっと、びっくりした、だけなので……」

 これ以上言うとクルト君が怒られそうなので、笑って誤魔化す。私 ベルンハルト様は一瞬クルト君の方を見たが、何も言わずに説明を始めた。

「伝えたとおり、今日からルイーエ嬢は国立魔法研究所預かりとなり、日本とこの国を繋ぐための研究に協力してくれることになる。研究期間中は他所からの出入りも多いので、問題が起こらないよう注意を払いつつ、研究を行うように。何か質問は?」

「はい。所長預かりではなく、研究所預かりなのですか?」

「そうだ」

 所長預かりと研究所預かりで、何か違うのだろうか。私にはよくわからないので、変更と言われたらどちらでも構わないのだが。

「他は?」

「はい!!ボス、あの後、王宮で何か進展ありましたか?」

「先程の説明が全てだ。以上」

 王宮で研究に関して詳しい話はしていない。研究の方針については、研究所の方で決めていいと言うことだったはずだ。

「部屋は適当な場所を用意しておくように指示したが……」

「あ!!ボスの部屋の隣開けておきました!!」

「所長室近辺が1番警備が整っているので、安全面を考えた結果、その部屋に決めました」

 滞在予定の部屋にはベッド等、最低限必要なものが揃っていると言う。どのくらいの期間滞在するかはわからないが、生活に困ることはないだろう。

「……警備については、確かに入り口付近が最も強固か」

「はい!!」

「後程案内をするとして、まずは研究方針だな」

 研究方針、と聞こえた瞬間、先程までの和気藹々とした雰囲気から一転し、真剣な表情に変わった。ベルンハルト様が片手を上げると、数人の研究員が資料を差し出した。

「…………この方針だと、研究チームを3つに分ける必要があるな」

「僕の研究はルイーエ嬢じゃなくても、日本の話さえ聞ければ大丈夫なんで」

「儂の所は素材開発だからな。他の研究が進むまで大したことはできん」

 研究方針としては、日本とこの国の共通点と相違点を纏める班、世界を繋ぐことが出来そうな素材を探す班と、魔法陣の研究をする班に分けて活動するらしい。

「私は素材開発ですか?」

「いや、ルイーエ嬢は魔法陣研究だな。ルイーエ嬢の作品が空間接続において有用な素材になることは確かだが、空間スキルによる影響も研究する必要がある。工房の素材で作ることが重要なのか、ルイーエ嬢が作成すれば条件を満たすのか、検証事項は多い」

 今日は方針の確認と人員、予算の割り振りだけで、本格的には始まらないらしい。

「ということで、ルイーエ嬢は今日は休んで……」

「ルイーエ嬢!!僕、日本の話聞きたいです!!」

「却下だ。明日以降にしろ」

 ベルンハルト様がそう言って、強制的に話は終了したのだった。

次回更新は8月21日17時予定です。

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