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道を探して

「カナメさん、本当に、お礼と説明だけして帰ってしまいましたね」

「……そうだな」

 短い返事をして、ベルンハルト様が黙り込む。なんとなくだが、ベルンハルト様の様子がいつもとは違う気がして話しかけ難い。怒っている訳ではなさそうだが、何か考え事をしているのだろうか。眉間に皺が寄っている。兎に角、今は話しかけない方が良さそうだ。

「「…………」」

 お互いに無言の時間が続く。変にベルンハルト様の方を見ていては邪魔になるので、私は私で考え事をすることにした。とはいえ、今考えられることはあまり多くない。店については暫く戻ることができないので、考えたら心配が増えるだけだ。日本に帰る方法については、専門ではないのでよくわからない。考えなければいけないことを探していると、段々と眠くなってきた。

「…………ルイーエ嬢?」

「…………はい」

「眠いのなら、もう一度寝た方が良い」

 眠くて頭が揺れていたのか、ベルンハルト様から声を掛けられた。その表情は先程までより柔らかくなっている。考え事が終わったのだろうか。

「いえ……、大丈夫です」

 つい先程までも眠っていたというのに、また寝るのは寝過ぎではないだろうか。どこかが痛い訳でもないのだし、少し我慢すれば耐えられる程度の眠気だ。そう思って首を横に振ると、ベルンハルト様は無言で私の肩に手を置き、そのまま軽く押してきた。

「…………ベルンハルト様、横になっていたら眠くなるのですが」

「寝た方が良いと言っているだろう。ルイーエ嬢は聞きそうにないからな、実力行使だ」

 そこまで力が入っている訳ではないが、身体を起こすことはできないくらいの力加減だ。随分と優しい実力行使もあったものだ。私が諦めて体の力を抜くと、ベルンハルト様は肩から手を放し、そのまま私の顔に掛かっていた髪を払ってくれた。無意識なのだろうが、壊れものを扱うような手つきに妙に緊張し、思わず壁の方を向く。

「ルイーエ嬢は先程、自分の症状をただの魔力切れだと言っていたが、もう少しで魔力が底をつく程にまで消耗していた。完全回復まで、もう暫くは掛かるだろう」

 特に不審な行動とは思われなかったようで、ベルンハルト様は眠気の原因について説明をしてくれる。いつの通りの声音に私も平静を取り戻し、落ち着くと、一瞬忘れかけていた眠気も戻って来た。

「明日の朝、会議の前に迎えに来る。疑問点があれば、その時にまた聞いてくれ」

 ベルンハルト様は別室で休むようで、そう言うと扉へと向かっていく。はい、と半分寝ながら返事をしたとき、頭の中に一つだけ思い浮かんだことがあった。

「…………ネックレスの、石」

 どうしてベルンハルト様の魔力でできた石を渡されていたのか、その理由は後で説明する、と言われていたことを思い出した。だが、既に扉の外に出ていたベルンハルト様には聞こえなかったようで、静かに扉が閉まる音だけが部屋に響いた。


 第二王子との会議は、ベルンハルト様とカナメさんが言っていた通りの展開となった。国王と王太子、シルエット侯爵はそれぞれ領地にある屋敷で蟄居。関係者もそれぞれ罪を与える形になる。王位は第二王子が継ぐことになり、聖女と王族の婚姻については聖女の自由意思を尊重する、という方針になった。

「聖女一行の婚姻関係については完全に個人の意思に任せるが、何もなしでは強引に関係を結ぼうとする者が出ると予想される。その為、王宮の許可を取るように制度を作る予定だが、意見はあるだろうか?」

 王太子のこともあったので、第二王子は日本人の結婚については慎重になっているようだ。王宮の許可と言っても、本人に結婚の意思があるのかを確認するだけとのことだった。

「私たちは問題ありません。類家さんはどうですか?」

「私も、その方針で良いと思います」

 聖女一行もこの方針には賛成らしく、あっさりと話は纏まった。今後、日本人の扱いについては、婚姻関係や養子関係を結ぶまでは王家の庇護下に入り、何処かの家に入ればそこに護ってもらうことになった。

「勿論、故郷に帰りたいと思っている者も多いだろう。国立魔法研究所を始め、魔法を扱う機関を総動員して日本との道を繋ぐ方法を確立する予定だ。だが、この世界と、あちらの世界で流れる時間が同じであることは覚えておいて欲しい。会議後、この情報は他の日本人とも共有し、現時点での希望を確認するが、方法の確立後に再び希望を確認する予定なのでしっかりと考えておいてくれ」

「数人、協力を要請する可能性がある。都合が悪くなければ協力してくれ」

 この会議の後、私は魔法研究所に行き、日本に帰る方法を探すことになる。その過程で、日本についてわかることも出てくるだろう。それらの情報を考慮した上で、これからどうするかを考えていかなければならない。

「今回の会議は以上だ。研究の成果が出次第、また招集する。何か問題があれば対処するので、王宮に連絡してくれ」

 第二王子がそう宣言して、本日の会議は終了したのだった。

次回更新は8月20日17時予定です。

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