表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/218

修復作業

 結界に魔力を流し続けること数分。維持に必要な魔力は増えるばかりで、徐々に意識が遠のいてきたその時だった。階段を駆け下りてくる音が聞こえたかと思うと、真っ白な衣装を身に纏った聖女と、その仲間たちが姿を現した。

「この状況は、一体……」

「ボス!!大丈夫ですか!?」

 その後ろから、大きな籠を背負ったクルト君が走ってきた。背中の籠の中に入っているのは魔法道具なのだろう。かなりの数あるが、一体、何に使う予定なのだろうか。

「クルト、余裕があるなら手を貸せ。最新の論文を読んだが、魔力を寄せることはできるようになった筈だな?」

「ボスの魔力なら真似できますけど、僕、新作の魔法道具を試そうと思って……」

「ルイーエ嬢、交代だ。聖女一行への事情説明を頼む」

「わかりました」

 ベルンハルト様は私の体を放し、クルト君の腕を掴む。事情説明の役を頼まれ頷いたものの、聖女一行は既に瘴気を祓う儀式の準備を始めており、忙しそうだ。邪魔をするわけにもいかないな、と思っていたら、桐野さんが私に気付き、声を掛けてくれた。

「案内役の研究員さんにある程度の話は聞いていますが、詳しい状況を説明して貰ってもいいですか?」

「勿論です」

 装置については会場の方でも説明があった筈なので、瘴気の発生原因と水晶玉についてだけ手短に説明をする。途中、幾つか質問をされたのだが、答えるたびに、桐野さんの表情が徐々に険しいものになっていく。

「…………あの、何か問題がありますか?」

「あの水晶玉は、元は日本人で、私たちを召喚するための触媒として使われていた、という事で間違いありませんよね?」

「はい」

 そして、私たちをこの世界に留めている存在でもある。だが、水晶玉が割れても私たちは日本に戻っていない。その事は気になるが、瘴気とは関係ないと思って考えるのを後回しにしていた。

「断定はできませんが、私たちが日本に戻っていないという事は、瘴気を閉じ込めることは出来なくなっても、召喚触媒としての力は失っていないという事なのではないかと思います」

「……つまり、瘴気を祓えば、助けることができる可能性があるという事ですか?」

 桐野さんが頷く。元々、瘴気を抑え込むために水晶玉になったのならば、原因となった瘴気が全て祓われれば元の姿に戻ることができるかもしれない。水晶玉のままでは対処できないが、人間の体になれば聖女や王宮の魔法使いの魔法で治療することだって可能になる。

「ですが、幾つか問題があります。体が変化して水晶玉になっているのならば、欠けた状態で元に戻ると何が起こるかわかりません。そして、私たちは瘴気を祓うことはできますが、誰も物体を修復するような魔法は使えません」

「…………私がやります。経験がない上に、魔法ではなく、手作業ですることになりますが」

 水晶玉を繋ぐための道具があるかもわからないし、技術が足りないかもしれない。ベルンハルト様の結界がどれだけ維持できるかもわからない。それでも、やらないという選択肢はない。出来ることをせずに諦めることはしたくないのだ。はっきりと答えると、桐野さんは微笑み、仲間たちに声を掛けた。

「儀式の準備に必要な時間と人数は?」

「今回は魔物がいないから儀式は何時でも始められそう。他は結界の維持に回れば時間は稼げる!!こっちは気にしなくていい!!」

「ボス、聞きました!?後どの位なら結界維持できそうです!?」

「ルイーエ嬢が必要なだけ稼ぐ。クルト、他の研究員に連絡して結界の試作品と水晶玉の修復に使えそうな素材、魔法補助系の道具全部持ってくるよう指示」

「ありがとうございます!!」

 聖女一行も、ベルンハルト様たちも時間稼ぎをしてくれる。その事に感謝しながら、私は瘴気の中に踏み込んだ。


 他の人達が交代で結界を維持している横で、割れた水晶の破片を拾い集め、研究所から持って来て貰った素材と道具を側に置いて作業を始める。研究所には特殊な素材を修復するための接着剤があり、これがなんと、同素材を接着させると、接着剤も同じ素材に変化するという優れものだった。

「接着剤はペースト状で、割れた破片は殆ど集まったとはいえ、細かい破片が足りない部分もある……」

 と、なると、使う方法は一つだろう。割れたものを継ぎ、修理する方法。そう、金継ぎである。実際に体験したことはないが、日本の伝統技法という事でやり方は何となく知っている。

「最初は、割れた破片同士を合わせて、何処を接着するのかを確認」

 一番大きな破片に、順番に他の破片を接着していく方が良いだろう。同素材に変化する接着剤があるとはいえ、元々の水晶が多い方が良いので、できる限り慎重に欠片を繋ぎ合わせていく。

「本来は、接着してからペーストで隙間を埋めるはずだけど、球体だから、先に断面全体につけておかないと難しいかな……」

 かといって、はみ出してもいけないだろう。厚みのある素材なので難しいな、と思いながら、少量のペーストをのせ、ゆっくりと破片同士を押し付けた。



次回更新は8月17日17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ